灯の芳香

藤岡 志眞子

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南の国

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「あら恵里菜、早かったわね。」

久しぶりの実家。今住んでいる地域から遠く南に行った場所。割と都会で実家といってもマンションで、イメージするおばあちゃんの家、みたいな雰囲気は全くない。

「真珠は連れて来なかったの?」

「うん、大和さんが見てくれているわ。今仕事が一段落して有休消化してるのよ。」

「あらそうなの。なら大和さんも来ればよかったのに。」



連れて来られるわけないでしょ。
母の手料理を食べながら仕事の話、ニュースの話と差し障りのない話を一通りして、お互い顔色を伺いながら本題をどう話そうか聞こうか探り合う。居心地が悪くて本当に嫌だ、何回あっても慣れないものだな。

「で、今日は何の話をしに来たの?」

「・・・真珠のことなんだけど。」


母親に幼稚園受験でのこと、病院での診察結果の話をした。
しばらく思い悩む風だった母が、ふと思い出したような顔になり立ち上がった。寝室に向かって何やらガサゴソと音を立てた後、一冊のファイルを持って戻ってきた。

「これ、パパのやつなんだけどね。ほら、大学の仕事の研究でいろいろ調べてたじゃない?真珠とは関係ないかもしれないけど。」

「大学?私はうちの親族にそういう人はいなかったかって聞きに来てるの。パパの研究なんか、」

「だから、関係ないかもしれないけどって言ってるでしょ?」

は?

「とにかく読んでみなさいよ。」

そう言って母は立ち上がりお風呂を掃除しに部屋を出て行った。
ファイルには何も書かれていない。パラパラとページを捲る。ビニールで嵩張った中身は照明の反射もあり見づらい。明朝体のお堅い文章。見ているだけで眠くなる。ぼうっと文章を読んでいると、




(風鼠(ふうそ) 血が濃くなる事によって現れる身体異常、精神異常。)



風鼠・・・。


「ママ、風鼠って。っていうか、パパって歴史とか古文とかそういう研究じゃなかったの?」

リビングに戻ってきた母に聞く。

「そうよ。だから遺品整理の時、なんでこれだけ異質だなぁってとっておいたのよ。」

「・・・どういうこと?」

「恵里菜の、真珠の話。パパの家系にいたのかもしれないわね。だからパパ調べてたんじゃないかしら。」

「じゃあ、真珠は・・・。」

「わからないわ。パパの親戚は誰も知らないし、パパも死んじゃったし。でもそのファイルがあるってことは、そうなのかもしれないわね。」


そんな。


橋川の家にまた何か言われてしまう。






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