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第1章

第4話 会議

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 幸い今回の火事で死人は出なかったようだった。
 王が街の人々を集めて話を始めた。
 僕たちはボスと共に横からその様子を見ている。
「不測の事態だ、クノウが魔王にさらわれてしまった。」
 まだ街の人々はパニック状態で話をまともに聞く様子ではなかった。
「王様、これからをどうするかと話がしたいのですが、城に招集をかけてもよろしいでしょうか?」
 ボスは王にそう言うと集まっていた人々の最後尾の方に立っていた何人かに手招きをした。
 僕たちの前を横切る時、その人たちはこちらを睨んでいる様子だった。
「お前たちも一応来い、泊まるとこ無いだろ」
 ボスはその連中の後ろについていった。
 そういえば家が跡形もなくなっていたのを思い出した。
 様子を見に行こうかと思ったが、ここですぐに行かなかったらまずいと思い、大人しくついていくことにした。

 ボスに案内された部屋に入ると丸い机を囲うように椅子が並べられていた。既に全員座っていて、僕達も座ろうとした時。
「で?俺たちを集めてどうすんのさ、なんだろ?犯人」
 アフロ姿のチャラついた男がこちらを指さしてきた。
「いや、ちょっと!」
 バルサミが慌てた様子でアフロの男の前に
「まあタイミングがタイミングだしな…」
 サングラスをかけた上下真っ白の服の金髪男も続いて喋り出す。
「なあ、タイミングって?」
 父さんはボスに聞いた。
「いや、まあ、説明するとだな…」
「しない方がいいんじゃない?まだこちら側って決まってない人に情報を明かすのは怖いからさ」
 さっき城の入口に立っていた紫髪の少年がこちらを睨みながら言葉を被せた。
「まあまあ、そうみんなピリピリせずに、今ここにいるのが全員かな?」
 王が城に入ってきた。
「はい、全員です、他はまだ帰ってきていないようで」
 ボスは王を見るなり跪く。
「なるほど、インス、地図は持ってるかい?」
「もちろん」
 紫髪の少年がポケットから地図を取り出した。
「クノウの無事のためにも、明日には行きたいところだが…」
「あ、あの、私たち疑われてるんですか?」
 母さんが話を切り出した。
「ああ、心配なさらないで、後で事情を説明します」
 王はそう告げると丸い机にみんなを集め、コソコソと話をしている。
 僕たちはそのヒリヒリとした空気をただ見ていた。
「…じゃあこの方向にはオトノとヒョウツが探索に出ているから合流できるはずだ、明日出発しよう」
 どうやら色々決まったようで、王だけ残って他全員が部屋出ていった。

「すまない、君たちは何もしてないと私は思っているのだがね、どうもみんな疑い深いようで」
「いえいえそんな、それより私聞きたいことがあって、さっき真っ白の子が言ってたタイミングってなんの事ですか?」
「ああ、多分この街に張っているのことだろう、普段は私が張っているのだが、年に1回バリアを張れない日があってね、それが今日なんだ」
「そのバリアはどういう意味が?」
「バリアがあると魔王たちは攻めてこれない、だから今までこの街は無事だったんだが、なぜ今日張れないことを魔王たちは知っていたのか…はたまた偶然なのか…」
「だから今日来た私たちが疑われてたのね…」
 母さんは机に突っ伏した。
「なあ、明日街を出るって話だよな、俺たちもついて行かせてくれ、そこで俺たちが犯人じゃないって認めてもらうんだ」
「あなた達の中で能力を開花させてるのは娘さんだけのはず、危険な場所に生身の人間は危険すぎる」
 その言葉を聞いた父さんは丸い机を片手でひょいっと持ち上げた。
「いや、俺もだぜ」
「ほお!これは頼もしい、ついてきてくれるかい?」
「もちろんだ!」

 王が城の中の部屋を貸してくれた、前の家から引っ越してから初めての就寝だ。
 全員ベッドに横になる。
「ねえ、夢なのかなこれ」
 和がつぶやく。
「さあな、夢なんだったら相当面白いな」
 それに父さんも続く。
「正直意味わかんない、何が起きてるのかさっぱりだよ」
「今は様子を見つつ、元の場所に帰れる方法を模索していきましょ」
 母さんはそう言って部屋を出ていった。
「ねえ父さん、僕もついて行っ…」
「ダメだ」
 父さんは即答した。
「どのぐらい危険か分からない以上お前たち2人、そして母さんを付いてこさせない」
「分かったよ父さん…」
 僕は諦めて寝ることにした。



 翌日。
「みんな集まってくれ、出発だ」
 ボスが起こしに来た。
 みんなでボスについて行くと、昨日いたメンバーが全員いた。それともう1人知らない顔が。
「王様、そうですが、本当に信用しても…?」
 ヘッドホンを付け、首から何か機材をぶら下げた、DJのような格好の男だ。
「大丈夫だ、おはよう、そういえばあなたの名前を聞いてなかった、お名前は?」
 王が父さんに話しかけた。
「俺は信介、松寺信介だ、えっと能力はだな、自分の身体の大きさとか力とかを2倍にできる能力だ」
「よろしく信介君、さあみんな、自己紹介を」
 王は昨日の連中に自己紹介するように言った。
「まあ昨日はあれだ、ちょっとイライラしてたんだ、俺はハバク、よろしくな」
 アフロの男の名はハバクと言うようだ。
「同じく疑ってごめんなさい、俺の名前はコウタクです」
 真っ白い服の男はコウタク。
「俺はまだ信用してない、だから名乗らないでおく」
 紫髪の少年がそう言うと。
「インスだろ?知ってるぞ」と父さんは自慢げに言った。
「おま、なんで知ってるんだ!やっぱり怪しいな」
「俺も一応、俺はコールだぜ、よろしくぅぅ…ぅうう!」
 手元の機材の回しを捻ると声が小さくなったり大きくなったりするようだ。
「昨日君たちの会話をコールに録音して貰っていたんだ、みんなの疑いを晴らすためとはいえプライバシーのない事をしてしまった、すまない」
 王は謝罪すると、地図を取り出した。
「この地図を見てくれ、これが今から行く方角だ」
 


 ざっくりとした地図だが、昨日来たウィドという奴はどうやら風のところにいるらしい。
「今から向かう風、そして林、火、山の地帯の中央に位置するのが魔王の城、今まで近づけたことはない」
「じゃ、行ってくる、瞳、子供たちを任せたぞ」
 父さんは足に能力をかけ、ムキムキの状態にした。
「いえ、私も行くつもりよ」
「でも、どんなところか分からないし、能力だってまだ分からないだろ?」
「能力無くたって行けます!ついていきますから」
「瞳が行ったら子供たちは誰が守るんだ?」
「あ、たしかに…それもそうね…2人とも、やるわよ」
 そう言い出すと、両手を組み、祈るポーズをした。
 これが我が家でとされている、何か危険そうなボランティアに行く時送り出す儀式のようなものだ。
 僕と和もしようとした時、父さんが叫んだ。
「うおおおおお!なんだ!なんだこれ!足が!足が!!」
「え、うそ、どうしたの?」
 母さんが手を組むのを止めると父さんは静かになった。
 今チラッと父さんの足がびっくりするほど大きく見えたな…
「おい、瞳、もう1回手組んでみろ」
「え、ええ」
 母さんが手を組むと、父さんの足が能力をかけた時の2倍くらいの大きさになっていた。
「これ、お前の能力なんじゃないか?」
「これが私の…?」
「どんな能力か分からないからクノウさんを助け出して見てもらわないとな」
「ねえ、私もついてっていいよね?」
母さんはウキウキで父さんに聞いた。
「なあ王様、この街はバリアが張ってあるから子供たちも大丈夫だよな?」
「ああ、大丈夫だ」
「よし、瞳、サポートしてくれ」
「任せなさい!」
そして僕と和は出発する父さんたちを見送った。

「ねえお兄ちゃん」
「どうした?」
「私達もついていかない?」
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