アイス

花畑 空間

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本編

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 私はもう愛されてないのかもしれない。
 そう考えると夜も眠れない。

 今は付き合って半年ぐらい。最初は色んなとこに連れてってくれたな。
 …そんなことをその時の写真を見ながら思い出す。

「こんなのも…あったな…」
 写真の中で自分が幸せそうにしてるほど、それはぼやけて見えた。
 そんな日をもう何日も続けてる。

 こんなに悩んでるのにはもちろん理由がある。それは1ヶ月も会ってないからだ。
 徐々に会うペースが減っていってるし、会おうって言っても「ごめん忙しくて」とかなんとか言って曖昧にしてくるし。もうダメなのかな…とか…?

 そういって携帯を閉じて枕元に置いた。
 目を閉じてどうにか寝ようとする。

 ……考えちゃって眠れない。こうなったら、もう別れるしか…

 そう思った瞬間、枕が揺れた。
 すぐさま起き上がって携帯を確認する。
「うそ…」
 彼氏からLINEがきていた、すぐ開いた。
「しばらく会えてなくてごめん、明日って会えるかな?」
 そのLINEを見た私は安心して、気絶するように寝てしまった。


 朝起きて、まず携帯を充電してないことに気づいた。
「やっちゃった…」
 寝ぼけた頭がだんだん覚めてくる。
「今何時だ…うわ…こんな時間…」
 携帯を開いて時間を確認する。午後1時だった。
「……あ!!」
 思わず叫んでしまった。急いでLINEを確認した。
「私返信してないじゃん…最悪…」
 その瞬間完全に目が覚めた。
 なんて返そう、まず謝罪かな、もう遅いかな、どうしよう。頭がフル回転する。
 ええと、ええと…

 ピンポーン
 私の考えを遮るように家のチャイムが鳴った。
 パジャマのまんま玄関まで行ってのぞき穴を覗くと…そこには彼氏が立っていた。
「え…あ…」
 ガシャン!!
 私は動揺してドアに足をぶつかってしまった。
 私が屈んで足を抑えているとドアがノックされた。
「怒ってるよね、本当にごめん、良ければ開けてくれないかな」
 優しい口調で彼氏はそう言った。
 私は痛みなんか忘れ、ドアに手をかけた。

 ドアを開けると不安そうな顔の彼氏と目が合った。
 目が合った瞬間彼氏は微笑み、両手に提げた袋を見せてきた。
「怒ってるわけないじゃん、入ってよ」
 私はドアを精一杯開き、彼氏を招き入れた。

「これ、渡したかったんだ」
 まず右手の袋を机に置いた。
「半年記念にって思ってさ、奮発しちゃった」
 袋の中に入ってた箱を開けると、ペアのネックレスが入っていた。
「すごい…」
「あとそれと、これ溶けちゃうから…」
 左手に持っていた袋からアイスを取り出した。
「これ、私の好きなやつ…」
「もちろん覚えてるよ、初デートの時も食べたでしょ?覚えてる?」
 笑顔でそう言った彼氏を見て、私は泣いてしまった。
「ちょ、ちょっと…」
「ごめんね…ごめんね…」
 私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。少しでも疑ってしまったこと、こんなにも私のことを考えてくれてたこと。愛を感じれば感じるほど心が苦しくなる。
「いや、不安にさせた俺が悪いんだよ、ネックレスをサプライズにしたくてちょうど半年の時に忘れてたフリしちゃったりとかさ、あとは…」
「食べていい?」
「ん、食べていいって…?」
「アイス、溶けちゃうしさ」
 私は彼氏からの謝罪なんて欲しくなかった。
「あ、じゃあスプーン取ってくるね」
 彼氏がスプーンを取りに行く間に涙を拭いた。

「あーんしてよ」
「はい、あーん」
 少し溶けてきたアイスの味は、とよく似てた。
「美味しい!」
「良かった」
 彼氏は安心した様子だった。
「私がちょっと溶けた感じが好きなのも、想定済み?」
「ま、まあね?」
 私がちょっと溶けたのが好きなのは、初デートの日に暑いからって寄ったアイス屋さんで食べたアイスが暑さで少し溶けてきてたから。
 私の思い出の味だ。

「じゃあ俺も」
 彼氏は目を閉じ口を開いた。
「はいあーん」
「んん、やっぱ美味しいね、このアイス」
 お互いアイスを食べ進める度に元気になっていった。

「次はお店で食べような、キンキンに冷えたやつ」
「ううん、私はこのぐらいが好きなのっ」
「そっか、じゃあまた買ってきてこの家で食べようか」
「そうしよそうしよ」



私は冷めきったんだと思っていた。
それで私も、だんだん冷めてきていた。
でも、このアイスが愛を再確認させてくれた。

この冷たいアイスが、心を温めてくれた。
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