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始まり
どんな形でも
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「レウに連絡しといたから、もう少ししたら2人とも来るって」
「はい」
少し沈黙が流れる。
「李音はリオンと……って、そうか。同じ名前なんだ? 2人は付き合ってるの?」
「まさか!付き合ってなんか……賢一さんは?リオンと付き合ってたんですよね?」
「あの子に聞いたの?」
「はい」
「上手くいかなかったけどね……」
「お兄さんのこと……レウさんのことが忘れられなかったからですか?」
「……リオンは何を君に話したんだ?」
と賢一さんは苦笑いをした。
「2人はすごく仲が良くて、いつも一緒にいたって。一緒にいるうちに、賢一さんはレウさんを、自分は賢一さんを好きになったことに気付いたって」
「なるほどね。確かに俺はレウのこと好きだった。誰に対しても平等で、俺が日本人だとか、そんなことで態度を変えたりしないあいつを、尊敬したし愛してしまった」
「そうですか…」
「普通は敬遠するだろ? 同じクラスに異国の人間がいたら」
「そうですね。びっくりはするかもしれないです」
「でもあいつは自ら俺の隣に座って言ったんだ。"俺はレウ。君、日本人?タイ語話せる?"って。"日常会話は大丈夫" って答えると、"じゃあ俺に日本語教えてくれる?" って言って微笑んだ。たぶんそれはあいつなりの友達になってくれる?って意味だと思った。一目惚れではないけど、どんな形でもこの先ずっと一緒にいたいと思ってた」
「どんな形でも?」
「うん。それからしばらくして、俺は自分の気持ちに気付いた。そのとき打ち明けようか悩んだけど、友達ですらいられなくなったら、俺はここに来て得たもの全部失う気がした。だって俺のどんな思い出にも必ずレウがいたから」
「唯一無二ですね」
「そうだな。それに俺たちには夢があった。あいつは親父さんの事業を大きくする。俺はそのサポートをする。だからあいつは経営学部に残って、俺は栄養学を学ぶ為に編入した。親父さんはきっと飲食業はレウに、それ以外をリオンに任せようと思ってるんじゃないかな。リオンは経営には興味がないから、最終的に全部レウが継ぐかもだけどね」
「レウさんの為に進路を変えたんですか?」
「為にって言うと大袈裟だな。一緒に経営学を学んで秘書として生きるのもありかと思ったけどね。でもそれなら代わりはいくらでもいる。だから俺は違う形でサポートをすることを決めた。信頼できる料理人。その方が手放せないような気がするだろ?元々器用なタイプだったし、俺はレウに会うまで夢とか何がしたいとかはなかった。ずっと一緒にいたいと思ったのは俺だから、むしろ生きる目的ができて良かったよ」
と懐かしい記憶を思い出している賢一さんの表情が印象的だった。
「卒業した後、俺は日本とフランスに料理の修行に行ったんだ。併せて5年くらいかな。本当はもっと長くなるはずだったけど」
「フランスにも?」
「うん……あいつ、レウが結婚してるの知ってる?」
「はい」
「フランスにいた時、リオンから連絡がきた。兄貴が結婚するって。相手の人は店の常連さんで、妊娠してるって」
俺はびっくりして固まってしまった。
「え? リオンから? ってか妊娠!?」
「うん。びっくりだよね。なんか色々ショックだった。慌てて帰ってきたけど、どうにかできるわけがなくて、もう一度フランスに戻ってやろうかと思ったくらい」
と悲しそうな笑みを浮かべながら賢一さんが言った。
その時思った。
この人はきっと今でもレウさんが好きなんだ。
「でも急に結婚、妊娠って……」
「多分長男だし、5歳上のお姉さんも結婚して海外に嫁いでしまった。家としては後継ぎも必要だろ? 家業も任されるようになり始めて焦ってたのかなって。相手は家柄も良くて美人だし」
「それにしてもそんな大事なこと、自分じゃなくてリオンに言わせるなんて……」
「確かに。どうしてこんな大事なこと、直接言ってくれなかったんだって最初は俺もレウを責めたよ。でもあいつは "ごめん" としか言わなかった。本当は心のどっかで期待してたんだ。誰と付き合っても長くは続かないし、もしかしたら俺と同じ気持ちなんじゃないかって淡い期待を抱いてた。でもあいつが結婚してすぐ子供が生まれて、近くでみてたらあー幸せなんだなって思った。だったらもう見守るしかないなって」
「そんな時にリオンが?」
「そう。悩んだけど受け入れた」
「でも、レウさんが忘れられなくて上手くいかなかったんですか?」
「それは違うよ。最初は戸惑いもあったけど、俺はちゃんとリオンが好きだった」
「ならどうして?」
「そのままのリオンでいて欲しかったから」
「どういうことですか?」
「……あいつは俺が自分と付き合うようになってからも、俺がレウのことを好きだと思ってた。ずっと忘れてないと……」
「違うんですか?」
「俺の中では割り切ったつもりだった。だけどリオンはそう思ってなくて、ずっと不安だったんだろうな。そんな時、あいつが "愛してる" って言ったんだ」
「……おかしいですか?」
「うん。その時はっきり気付いた。リオンはレウになろうとしてるんだって」
「え?」
「俺が修行に行って離れて暮らし始めた時にさ。夜レウと電話してて、切るときあいつが "おやすみ" って言うから、"俺はまだ寝ないから、代わりの言葉にしてよ" って言ったんだよ」
「はい」
「そしたら "何がいいの?" って聞くから、じゃあ "愛してるは?" って冗談で言ったら、あいつも最初は笑ったんだけど、"わかった! 愛してるよ!"って。だから俺が "おやすみ" って返したらあいつ 、"えー!愛してるじゃないの!?" って。そんなやりとりが楽しかった。それから電話するのが嬉しくなってさ」
「レウさんの "愛してるよ" が聞けるからですか?」
「うん。本気の言葉じゃないし、いつもお互い冗談で言ってるってわかってたけど、嘘でも嬉しかった。きっとリオンはそのやりとりを見ていたんだと思う」
「だから愛してると言ったと?」
「俺はそう思った。このままじゃリオンがリオンじゃなくなると思って別れた。俺がリオンの不安を取り除いてあげられたら良かったんだけど、言葉でいくら言っても嘘っぽく聞こえるんじゃないかなって思って」
「でも本当にリオンのことを好きなら、どんなことしてでも繋ぎ止めておけば良かっ……」
俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
理屈ではどうにもならないことがある。
それは俺が1番わかっている。
「はい」
少し沈黙が流れる。
「李音はリオンと……って、そうか。同じ名前なんだ? 2人は付き合ってるの?」
「まさか!付き合ってなんか……賢一さんは?リオンと付き合ってたんですよね?」
「あの子に聞いたの?」
「はい」
「上手くいかなかったけどね……」
「お兄さんのこと……レウさんのことが忘れられなかったからですか?」
「……リオンは何を君に話したんだ?」
と賢一さんは苦笑いをした。
「2人はすごく仲が良くて、いつも一緒にいたって。一緒にいるうちに、賢一さんはレウさんを、自分は賢一さんを好きになったことに気付いたって」
「なるほどね。確かに俺はレウのこと好きだった。誰に対しても平等で、俺が日本人だとか、そんなことで態度を変えたりしないあいつを、尊敬したし愛してしまった」
「そうですか…」
「普通は敬遠するだろ? 同じクラスに異国の人間がいたら」
「そうですね。びっくりはするかもしれないです」
「でもあいつは自ら俺の隣に座って言ったんだ。"俺はレウ。君、日本人?タイ語話せる?"って。"日常会話は大丈夫" って答えると、"じゃあ俺に日本語教えてくれる?" って言って微笑んだ。たぶんそれはあいつなりの友達になってくれる?って意味だと思った。一目惚れではないけど、どんな形でもこの先ずっと一緒にいたいと思ってた」
「どんな形でも?」
「うん。それからしばらくして、俺は自分の気持ちに気付いた。そのとき打ち明けようか悩んだけど、友達ですらいられなくなったら、俺はここに来て得たもの全部失う気がした。だって俺のどんな思い出にも必ずレウがいたから」
「唯一無二ですね」
「そうだな。それに俺たちには夢があった。あいつは親父さんの事業を大きくする。俺はそのサポートをする。だからあいつは経営学部に残って、俺は栄養学を学ぶ為に編入した。親父さんはきっと飲食業はレウに、それ以外をリオンに任せようと思ってるんじゃないかな。リオンは経営には興味がないから、最終的に全部レウが継ぐかもだけどね」
「レウさんの為に進路を変えたんですか?」
「為にって言うと大袈裟だな。一緒に経営学を学んで秘書として生きるのもありかと思ったけどね。でもそれなら代わりはいくらでもいる。だから俺は違う形でサポートをすることを決めた。信頼できる料理人。その方が手放せないような気がするだろ?元々器用なタイプだったし、俺はレウに会うまで夢とか何がしたいとかはなかった。ずっと一緒にいたいと思ったのは俺だから、むしろ生きる目的ができて良かったよ」
と懐かしい記憶を思い出している賢一さんの表情が印象的だった。
「卒業した後、俺は日本とフランスに料理の修行に行ったんだ。併せて5年くらいかな。本当はもっと長くなるはずだったけど」
「フランスにも?」
「うん……あいつ、レウが結婚してるの知ってる?」
「はい」
「フランスにいた時、リオンから連絡がきた。兄貴が結婚するって。相手の人は店の常連さんで、妊娠してるって」
俺はびっくりして固まってしまった。
「え? リオンから? ってか妊娠!?」
「うん。びっくりだよね。なんか色々ショックだった。慌てて帰ってきたけど、どうにかできるわけがなくて、もう一度フランスに戻ってやろうかと思ったくらい」
と悲しそうな笑みを浮かべながら賢一さんが言った。
その時思った。
この人はきっと今でもレウさんが好きなんだ。
「でも急に結婚、妊娠って……」
「多分長男だし、5歳上のお姉さんも結婚して海外に嫁いでしまった。家としては後継ぎも必要だろ? 家業も任されるようになり始めて焦ってたのかなって。相手は家柄も良くて美人だし」
「それにしてもそんな大事なこと、自分じゃなくてリオンに言わせるなんて……」
「確かに。どうしてこんな大事なこと、直接言ってくれなかったんだって最初は俺もレウを責めたよ。でもあいつは "ごめん" としか言わなかった。本当は心のどっかで期待してたんだ。誰と付き合っても長くは続かないし、もしかしたら俺と同じ気持ちなんじゃないかって淡い期待を抱いてた。でもあいつが結婚してすぐ子供が生まれて、近くでみてたらあー幸せなんだなって思った。だったらもう見守るしかないなって」
「そんな時にリオンが?」
「そう。悩んだけど受け入れた」
「でも、レウさんが忘れられなくて上手くいかなかったんですか?」
「それは違うよ。最初は戸惑いもあったけど、俺はちゃんとリオンが好きだった」
「ならどうして?」
「そのままのリオンでいて欲しかったから」
「どういうことですか?」
「……あいつは俺が自分と付き合うようになってからも、俺がレウのことを好きだと思ってた。ずっと忘れてないと……」
「違うんですか?」
「俺の中では割り切ったつもりだった。だけどリオンはそう思ってなくて、ずっと不安だったんだろうな。そんな時、あいつが "愛してる" って言ったんだ」
「……おかしいですか?」
「うん。その時はっきり気付いた。リオンはレウになろうとしてるんだって」
「え?」
「俺が修行に行って離れて暮らし始めた時にさ。夜レウと電話してて、切るときあいつが "おやすみ" って言うから、"俺はまだ寝ないから、代わりの言葉にしてよ" って言ったんだよ」
「はい」
「そしたら "何がいいの?" って聞くから、じゃあ "愛してるは?" って冗談で言ったら、あいつも最初は笑ったんだけど、"わかった! 愛してるよ!"って。だから俺が "おやすみ" って返したらあいつ 、"えー!愛してるじゃないの!?" って。そんなやりとりが楽しかった。それから電話するのが嬉しくなってさ」
「レウさんの "愛してるよ" が聞けるからですか?」
「うん。本気の言葉じゃないし、いつもお互い冗談で言ってるってわかってたけど、嘘でも嬉しかった。きっとリオンはそのやりとりを見ていたんだと思う」
「だから愛してると言ったと?」
「俺はそう思った。このままじゃリオンがリオンじゃなくなると思って別れた。俺がリオンの不安を取り除いてあげられたら良かったんだけど、言葉でいくら言っても嘘っぽく聞こえるんじゃないかなって思って」
「でも本当にリオンのことを好きなら、どんなことしてでも繋ぎ止めておけば良かっ……」
俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
理屈ではどうにもならないことがある。
それは俺が1番わかっている。
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