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Untold Storys
九死に一生を得る
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俺は家に帰ると眠りについた。
資料は明日の朝、早く起きて作ることにした。
資料をちょうど作り終えた時、インターホンが鳴った。
モニターをみると新が立っている。しかもすごい顔で。
2回目を鳴らされて我にかえる。
「はい」
「新です」
「うん。知ってる」
「あのさ、話できる?」
「…うん。開ける」
俺は新を招き入れ、コーヒーを淹れた。
「あのさ…」
と話そうとした新の前にコーヒーを置く。
「はい。コーヒー」
「ありがとう…」
しばらく沈黙が続く。
「話って?」
「陶芸辞めるの?」
「なんで…?」
「さっき出来上がった徳利、取りに行った時に蒼さんに聞いた」
「あー。それでか」
「なんで相談してくれなかったの?そりゃあ聡は、嫌々始めた陶芸かもしれないし、昨日のことがあって僕と気まずくなっていたのもわかるけど。でも何も言わずに僕の前から消えようとするなんて酷いよ!10年も一緒にいたのに」
10年も一緒にいたのに、か。もう過去形なんだな。
「10年も一緒だったからだよ。それに俺がいたら邪魔だろ?あそこには高岡さんも通ってるしな」
「そんなことないよ。それにそう思うなら、なんでお皿にあんなメッセージ残したの?」
「あれは…友達として…」
「嘘だ」
「嘘じゃない。ずっと友達としてそばにいられたらって、そう思って彫っただけ…」
嘘をついた俺は、新の目を見れずにいた。
「じゃあさ。目を見て言って。お前は友達だって。それ以上の気持ちは無いって。お前なんか好きじゃないって。言ってくれよ!」
「お前なんか好きじゃない…」
そう言った途端、目から涙がこぼれた。
新は両手で俺の頬を包んで、親指でその涙を拭った。
「じゃあ何でそんな顔するの?」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
俺は新をそのままソファに押し倒して、馬乗りになって言った。
「10年も友達で、というかお前はずっと俺を友達だと思ってて、でも俺はそう思えなくて、ずっと友達以上に思ってて、でもお前が同じ気持ちになることは絶対なくて、せめて新が結婚でもすれば、俺も新しい道に進めるかもって思ったのに、付き合った彼女とはすぐ別れるし、距離を作ろうと思っても、飲みに誘ってくるし、街コンで彼女見つけて、結婚までさせようって思ってたのに、結局好きになった相手が、突然現れた男だなんて、俺はどうすれば…」
何を言ってんだ、俺は。
気持ちが整理出来てないせいで、自分でも何が言いたいかわからなくなる。
横たわる新の顔に、ぽたぽたと涙が落ちる。
「嘘、ついてごめん。何でか自分でもわからなかったし、今でもはっきりとはわかんないけど、1番は総司に2人で会いたいって言われて、なんか悩み相談なのかと思ったんだ。聡はそんなこと言わないと思うけど、もし飯に行くって知ったときに、俺も!ってなったら困ると思った。他にも理由、あるような気がするけど、上手く言えないや」
横たわる新を見て、またあの気持ちが蘇る。心を他の誰かに取られたなら、このまませめて体だけでも…
ダメだな。新は多分そういうの、切り離して考えられないタイプだ。
「あの日びっくりなのがさ。朝、翼くんの店で翼くんに付き合おうって言われて、蒼さんにも好きだったって言われて、夜は総司くんにも告られて、一気にモテ期きた」
俺はどうしたらいい…これ以上この話をどんな顔して聞けばいい?
「翼くんに、恋人出来ないのは鈍いから、みたいなこと言われたよ。一緒にいる人が、好きですオーラを出してても、それに気付かなさすぎて、相手がもういいやーってなっちゃうんだって。そんなことないって言ったんだけど、10年も一緒にいる聡の気持ちにすら気づかないんじゃ、そう言われても仕方ないよな」
新は俺の目を見て、体を起こしながら言った。
なぜか俺のことを抱きしめる。
少し驚いた。
「男同士で付き合うのが、どういうことなのかっていうのはよくわからない。結婚とか子供とか、考えなくもない。だけど、相手が誰でも、付き合ってみなきゃわからないって、翼くんに言われたんだ。どんな関係でも、いつか別れがくるかもって怖くなる。でもそれを気にして迷ってたら、あっという間におっさんになってるってさ。そんでな、思ったんだよ。この先、もし誰かと一緒にお酒を飲んで、料理をして、旅行に行って、抱きしめて、一緒におっさんになるんなら、僕はお前とがいい…」
俺は新の背中に腕を回して、10年分の気持ちを込めて抱き締めた。
「俺はお前のこと、好きでいていいのか?」
「うん。その時が来るまで一緒にいよう」
「そうだな…」
その時は別れの時。
たとえどんな形の別れが来ても、俺はその時までそばにいよう。俺が新のお守りになろう…そう思った。
「そういや、出来上がった徳利は?」
「え?」
「さっき取りに行ったって…蒼のとこ」
「あ!忘れてた…」
「もう一度取りに行くか?電話してみるよ」
「うん」
俺は蒼に電話をかけた。
「もしもし?聡です」
「どうした?うちに忘れ物?」
「あ、俺じゃなくて新が…」
「あ!そっちね!そうそう。新な!それ取りに来たのに、皿の裏見て、飛び出してったからビックリした。取りに来たもの全部置いて」
蒼は笑っている。
「すみません」
「でもその感じだと、上手くいった?」
「はい。蒼がそう仕向けたんでしょ?」
「さぁどうだろ?作ったものは用意して置いとくから、取りにおいで」
「ありがとう」
電話を切って、
「取りにおいでって」
と新に言った。
お店に着くと、蒼がニヤニヤしながら立っていた。
「よ!はい。これ」
「すみません」
と言って新が受け取る。
「ちょっと新しい食器が増えてるから見てくるわ!」
と俺に荷物を預けて、新が店の端まで行った。楽しそうにしている。
それを見ていた俺に、隣にいた蒼が
「聡」
と声をかけた。
「ん?」
と目があった俺の顔を見て、
「やっと合格だな。けど、そんな可愛い笑顔向けられたら、本気で好きになっちゃうよ?」
と耳元で囁いた。
俺はそんな蒼の顔を見て
「…何言ってんだよ。バカだな」
と微笑んだ。
資料は明日の朝、早く起きて作ることにした。
資料をちょうど作り終えた時、インターホンが鳴った。
モニターをみると新が立っている。しかもすごい顔で。
2回目を鳴らされて我にかえる。
「はい」
「新です」
「うん。知ってる」
「あのさ、話できる?」
「…うん。開ける」
俺は新を招き入れ、コーヒーを淹れた。
「あのさ…」
と話そうとした新の前にコーヒーを置く。
「はい。コーヒー」
「ありがとう…」
しばらく沈黙が続く。
「話って?」
「陶芸辞めるの?」
「なんで…?」
「さっき出来上がった徳利、取りに行った時に蒼さんに聞いた」
「あー。それでか」
「なんで相談してくれなかったの?そりゃあ聡は、嫌々始めた陶芸かもしれないし、昨日のことがあって僕と気まずくなっていたのもわかるけど。でも何も言わずに僕の前から消えようとするなんて酷いよ!10年も一緒にいたのに」
10年も一緒にいたのに、か。もう過去形なんだな。
「10年も一緒だったからだよ。それに俺がいたら邪魔だろ?あそこには高岡さんも通ってるしな」
「そんなことないよ。それにそう思うなら、なんでお皿にあんなメッセージ残したの?」
「あれは…友達として…」
「嘘だ」
「嘘じゃない。ずっと友達としてそばにいられたらって、そう思って彫っただけ…」
嘘をついた俺は、新の目を見れずにいた。
「じゃあさ。目を見て言って。お前は友達だって。それ以上の気持ちは無いって。お前なんか好きじゃないって。言ってくれよ!」
「お前なんか好きじゃない…」
そう言った途端、目から涙がこぼれた。
新は両手で俺の頬を包んで、親指でその涙を拭った。
「じゃあ何でそんな顔するの?」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
俺は新をそのままソファに押し倒して、馬乗りになって言った。
「10年も友達で、というかお前はずっと俺を友達だと思ってて、でも俺はそう思えなくて、ずっと友達以上に思ってて、でもお前が同じ気持ちになることは絶対なくて、せめて新が結婚でもすれば、俺も新しい道に進めるかもって思ったのに、付き合った彼女とはすぐ別れるし、距離を作ろうと思っても、飲みに誘ってくるし、街コンで彼女見つけて、結婚までさせようって思ってたのに、結局好きになった相手が、突然現れた男だなんて、俺はどうすれば…」
何を言ってんだ、俺は。
気持ちが整理出来てないせいで、自分でも何が言いたいかわからなくなる。
横たわる新の顔に、ぽたぽたと涙が落ちる。
「嘘、ついてごめん。何でか自分でもわからなかったし、今でもはっきりとはわかんないけど、1番は総司に2人で会いたいって言われて、なんか悩み相談なのかと思ったんだ。聡はそんなこと言わないと思うけど、もし飯に行くって知ったときに、俺も!ってなったら困ると思った。他にも理由、あるような気がするけど、上手く言えないや」
横たわる新を見て、またあの気持ちが蘇る。心を他の誰かに取られたなら、このまませめて体だけでも…
ダメだな。新は多分そういうの、切り離して考えられないタイプだ。
「あの日びっくりなのがさ。朝、翼くんの店で翼くんに付き合おうって言われて、蒼さんにも好きだったって言われて、夜は総司くんにも告られて、一気にモテ期きた」
俺はどうしたらいい…これ以上この話をどんな顔して聞けばいい?
「翼くんに、恋人出来ないのは鈍いから、みたいなこと言われたよ。一緒にいる人が、好きですオーラを出してても、それに気付かなさすぎて、相手がもういいやーってなっちゃうんだって。そんなことないって言ったんだけど、10年も一緒にいる聡の気持ちにすら気づかないんじゃ、そう言われても仕方ないよな」
新は俺の目を見て、体を起こしながら言った。
なぜか俺のことを抱きしめる。
少し驚いた。
「男同士で付き合うのが、どういうことなのかっていうのはよくわからない。結婚とか子供とか、考えなくもない。だけど、相手が誰でも、付き合ってみなきゃわからないって、翼くんに言われたんだ。どんな関係でも、いつか別れがくるかもって怖くなる。でもそれを気にして迷ってたら、あっという間におっさんになってるってさ。そんでな、思ったんだよ。この先、もし誰かと一緒にお酒を飲んで、料理をして、旅行に行って、抱きしめて、一緒におっさんになるんなら、僕はお前とがいい…」
俺は新の背中に腕を回して、10年分の気持ちを込めて抱き締めた。
「俺はお前のこと、好きでいていいのか?」
「うん。その時が来るまで一緒にいよう」
「そうだな…」
その時は別れの時。
たとえどんな形の別れが来ても、俺はその時までそばにいよう。俺が新のお守りになろう…そう思った。
「そういや、出来上がった徳利は?」
「え?」
「さっき取りに行ったって…蒼のとこ」
「あ!忘れてた…」
「もう一度取りに行くか?電話してみるよ」
「うん」
俺は蒼に電話をかけた。
「もしもし?聡です」
「どうした?うちに忘れ物?」
「あ、俺じゃなくて新が…」
「あ!そっちね!そうそう。新な!それ取りに来たのに、皿の裏見て、飛び出してったからビックリした。取りに来たもの全部置いて」
蒼は笑っている。
「すみません」
「でもその感じだと、上手くいった?」
「はい。蒼がそう仕向けたんでしょ?」
「さぁどうだろ?作ったものは用意して置いとくから、取りにおいで」
「ありがとう」
電話を切って、
「取りにおいでって」
と新に言った。
お店に着くと、蒼がニヤニヤしながら立っていた。
「よ!はい。これ」
「すみません」
と言って新が受け取る。
「ちょっと新しい食器が増えてるから見てくるわ!」
と俺に荷物を預けて、新が店の端まで行った。楽しそうにしている。
それを見ていた俺に、隣にいた蒼が
「聡」
と声をかけた。
「ん?」
と目があった俺の顔を見て、
「やっと合格だな。けど、そんな可愛い笑顔向けられたら、本気で好きになっちゃうよ?」
と耳元で囁いた。
俺はそんな蒼の顔を見て
「…何言ってんだよ。バカだな」
と微笑んだ。
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