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第六章・宵との出会い~太郎SIDE~

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その青年は自分を『よい』と名乗った。

「ワイが子どもを誘拐?ないない。ワイ、人間食うたりせんのや。フツーにフライドポテトやらカレーやらが好きやし。」

宵の毒っけのなさに拍子抜けして、桃伐剣はただの簪にもどった。

「一応、鬼やけどな。ちなみに晩鬼はワイのおとんや。」

宵が猫耳帽子を取ると、そこには漆黒の角があった。

「猫耳に角を隠すとか斬新!」と飛が小さく拍手する。

「ワイな、人間界で生活したいねん。久しぶりにつづらの封印が解けたから、『これは大チャンスや!』って思っておとんに内緒でちょいちょい人間界に遊びにきて、漫画読んだり、アニメ見たり、ゲーム買うたりしてん。いや~、平成時代と比べて色んなもんが進化してて面白いなぁ~。特にユーチューブ?あれ、面白いねん!ワイ、最近動画配信にハマっててな~。」

「太郎くん、コイツ、想像していた鬼と違うよね。サングラスの男とは関係ないんじゃない?」

飛が耳打ちする。

「うわぁ!あんちゃん、あの有名な『雉村飛』先生やろ?連載読んどるで!面白すぎてイッキ読みしちゃったよ!実物もほんまかわいい系男子やなぁ。思ったより背ぇ高いなぁ。サイコーかよ」

飛の手を取り、勢いでブンブンと握手をする。

「先生、なんてガラじゃないから飛でいいよ!いつも読んでくれてありがとう!」

あたたかく握手に答える飛。なんだこのほのぼのファンミーティングは。ここは書店でもコミケでもない。

「やめろ。そんなことより葉千子救出が優先だ。」

猫耳帽子にサインをしてもらおうとはしゃぐ宵を、そしてにこやかにそれに応じようとする飛を俺は制止した。

「宵、聞きたいことがある。」

「ほい、何でも聞いてや。」

「『早く帰らないと鬼が来る。』と声をかけていたのはお前か?」

「そうや。人間界も少子化やからな!将来を担う大事な子どもがかどわかされたりしたら大変やろ。子ども達にはちゃぁんと大きくなってアニメとか漫画とか色んな技術とか、じゃんじゃん生み出してもらわんとワイが困る。じゃけぇ、公園で遅くまで遊んでいる子どもに『早く帰らないと鬼が来る。』って声かけて、帰宅を促しておったんや!」

宵は「ワイは地域を見守っとるんや!」と誇らしげに腰に手を当てた。

「でもさ、でもさ、宵は一応鬼なんだよね?晩鬼の息子なんだよね?人間に復讐しようとか、金品を奪おうとか、そんな気持ちはないの?」

宵は一瞬きょとんとした顔をして、腹をかかえて笑い出した。

「古っ。『人間ガー』『復讐ガー』とか言って盛り上がってんのって、年寄り世代だけだぜ?ワイ含めほとんどの若いモンは、復讐とかどーでもいいんや。平成妖鬼対戦の頃も子どもやったし、全然記憶に無いしな。それより、人間が作り出す娯楽やグルメを満喫した方が楽しいし、共存した方がウィンウィンや!」

ウィンウィンって……。確かに鬼や妖が改心して、人間が共存できたら万々歳だが……。

無駄な争いは無くなるし、鬼や妖の生命力や体力は人間にとってじゅうぶん役に立つ。

舌切り雀の婆のように老化を遅らせたり、難病で苦しむ人間に生命力を分け与えることで回復させたりすることもできる。

用心棒や体力仕事といった分野でも活躍できるだろう。

もしかしたらエンターテイメント業界でもリアルお化け屋敷や妖術ショーのようなものが流行するかもしれない。

それと引き換えに、共存する仲間として鬼や妖に対して十分な尊厳を認め、快適に住む場所、食べ物、娯楽、正当な報酬を与えることができれば、理想的だ。

しかしそれは机上の空論。

平成妖鬼対戦での敗北を根に持って人間に復讐しようとする動きがある以上、生徒会としては見逃すわけにはいかない。

「ワイな、略奪とか、強い鬼になるとか、ほんとどーでもええんやわ。ワイの夢はな!鬼初のユーチューバーになることなんや!」

しかし、こんな毒っけが無く、今まで動画サイトにアップしたムービーを披露しようとする宵が、ウソをついているとは思えない。

動画では、山盛りカレーを平らげグルメリポートをする宵や、ゲームの実況中継をする宵がいきいきとした表情で動いていた。

宵は犯人じゃない。それは直感で分かる。

「宵がこの一連の誘拐事件の犯人ではないことは分かった。」

黙っていたら延々と動画を見せられそうで、俺は無理やり本題に戻す。

「じゃあ、さっきのサングラスの男がお前の父、晩鬼で、子どもをさらっているということか?」

「ちゃうちゃう、おとんはもっとオジサンや。それに子どもを仕留めるならもっとスマートにやる」

宵が首を横に振る。

「多分、あの男は人間や。あいつがさらってったんや。」

「何のために?」

飛が聞く。

「さぁ。おおかた、身代金とかそんな理由やろ。」

「でも、今まで行方不明になった子どもは十人近くいるんだよね。単なる誘拐にしては多過ぎない?」

「十人近く?それ、どういうことや?」

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