上 下
33 / 42
第十章・葉千子救出作戦

10-3~葉千子SIDE~

しおりを挟む
皮膚が、暑い。狭くて、苦しい。周囲は真っ赤で、それに、臭い。

「ここ、どこっ?」

あたしは自分の身体が正常に動くか確認する。

よし、どこも怪我はしていない。

まずは状況整理よ。

「えっと、私は確か飢鬼に飲み込まれて……。ってことは、ここは飢鬼の腹の中?」

ぶよぶよとした壁はきっと飢鬼の胃だ。

指で押すと、ジュワリと透明な液が染み出て、皮膚の激痛が走った。

胃液だ。

まずい。

このまま腹の中にい続ければ、飢鬼の胃液であたしの身体が溶けてしまう。

「出して!」

声を張り上げながら、身体を圧迫する肉塊をドンドンと叩くが、虚しく押し返されるだけだ。

「このまま、わたし死んじゃうのかな。生徒会、本入会できなかったな。」

もう御伽草子中等学院には通えないかもしれない。莉々亜とも飛くんとも会えないかもしれない。

それに、太郎先輩とも……。

「そんなの嫌だ!」

その瞬間、あたしの胸でペンダントが光った。

小さな竹筒が黄金の光を発している。

「ペンダントが、光ってる?」

おそるおそる手に取り、竹筒を開ける。

「牙が、輝いてる!」

金色に光る牙はあたしの手から離れ、浮遊した。

「えっ?」

ビックリして声が漏れたとき、牙が口に飛び込んだ。

「もしかして歯に着けろってこと?」

『いざというときに、牙を歯に装着してね。ママより』というふせんを思い出した。

口の中に手を突っ込み、ピッタリと合う歯を探す。

「ここだ!」

犬歯に牙を押し込むと、体中の細胞が暴れるような感覚になった。

左右上下の歯茎から、鋭い牙がメリメリと生える。

頭とお尻がムズムズして、手を触れると毛並の良い耳と尻尾がある。

「ん?ベージュ?柴犬か?」

さっきよりも飢鬼の臭いが強烈に感じる。

「そうか、犬だから嗅覚が発達してるんだ!」

鼻をヒクつかせる。

「もしかして、これが私の、能力?」

上を向くと、臭気の中に清らかな空気のにおいがした。

「そうだ!口から入ったなら口から出ればいい!」

でも、どうしよう。

飢鬼の食道はしっかりと閉じられているように見える。

このままあたしがよじ登って出られるとは思えない。

食道は細くて、あたしの身体は絶対に入りそうもない。

辛うじて、腕だけならいけるかも……しれない。

「よしっ。やるしかない!」

手を伸ばして、窮屈な管に腕を押し込む。

「うぇ。飢鬼の食道、気持ちわるい。それにキツいよぉ。」

ぴったりと隙間無く見えた食道の先だったけど、無理やりねじこんで進んでいくと、指先に、小さな穴が触れた。

穴から触れた冷たい感触に、「空気だ!」と確信する。

「食道は外の世界に繋がっている。多分、食道の入り口は普段は閉じてるんだ。」

獲物を飲みこむときだけ開く仕組み、なのかな?

「うーん。このままだと出られないな。飢鬼は固いから外から切ってもらうのも難しいし……。」

あたしの犬耳がペタンとお辞儀した。

こんな窮地にもかかわらず何もできないのが悔しいよ。

ママから妖具を貰ったのに、能力だった開花したのに、何も変わらない。

あたしは太郎先輩の救いをただただ待つだけ……。

子ども達を助けるどころか、足手まといになってるじゃん。

悔しくて、軽く唇を噛む。

「痛ッ。」

発達した犬歯が下唇に刺さった。

鉄のような味がする。

「分かった!飢鬼の皮膚が鉛なら、内部にダメージを与えればいいんだ!太郎先輩が飢鬼の舌を切り落としたように!」

目の前がぱぁって開けた気がした。

あたしの強みはきっとこの『歯』。

「太郎先輩!今、葉千子は戻ります!」

飢鬼の肉塊に、尖った犬歯を刺しこみ、思いっきり噛みついた。
しおりを挟む

処理中です...