上 下
34 / 42
第十章・葉千子救出作戦

10-4~太郎SIDE~

しおりを挟む
「ぐぅぉぉぉおっぉぉ!痛ぇ!」

飢鬼の声が山中に響いた。

「何?どうしたんだ!」

飛が叫ぶ。

「ぐぼおっ……げふぉっ。」

その場に崩れ落ちた飢鬼が嘔吐する。

胃液が飢鬼の口から溢れだした。

透明の粘着液に赤い筋がいたるところにまじった胃液とともに、俺が、俺が何としても助けたかった女の上半身がにゅるりと出てきた。

「葉千子っ。」

ぽっかりと開いた口に腕を突っ込み、葉千子の全身を引き出す。

ぬめりのある飢鬼の体液が俺の身体にまとわりつくが、そんなことはどうでもいい。

こいつ、心配かけやがって。

あとちょっと遅かったら消化されていたところだぞ。

上着を脱ぎ、胃液だらけになった彼女の顔をぬぐう。

服が胃液で少し痛んでいるくらいで、彼女に怪我はなさそうだ。

「目を開けろ。……目を開けろ、葉千子!」

お願いだ。

意識が戻ってくれ。

彼女の背中に手を回し、胸元に引き寄せ、目を瞑る。

お願いだ。

お願いだ。

お願いだ。





「太郎……先輩。わたし、がんばりました。先輩、飢鬼の体の中を狙ってください。」




葉千子?

目を開けると、頼りなさげに微笑む葉千子が俺の腕の中にいた。

「よかった……。本当によかった、葉千子。」

「やだもう。太郎先輩、泣かないでください。あたしは大丈夫です。」

俺が……泣いている?

頬に手を触れると、濡れていた。

「もう、俺に心配かけるな。」

彼女を、やさしく、力強くギュッと抱きしめる。

こいつ、こんなに小さかったっけ……?

こんなにあたたかかったっけ……?

あとちょっと遅かったら失っていたかもしれなかったと思うと、急に怖くなって、もう一度葉千子を抱きしめた。

「葉千子はそこで休んでろ。」

俺はポン、と彼女の頭に手を置いた。

「飛!」

「分かってるよ!太郎くん!」

飛が舞い、羽ペンで飢鬼の口に開口器を描く。

ガッチリと口を固定された飢鬼は口を閉じることはできない。

「今だよ、太郎くん!」

「うりゃぁぁぁぁぁ!」

飢鬼の口の中をめがけて桃伐剣を垂直に下した。

葉千子を苦しめやがって!

俺はありったけの怒りを桃伐剣に込め、全体重をかけて飢鬼の口の中に突き刺した。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

夜の小山に飢鬼の断末魔が轟き、鬼の身体は美しい桃の花となって跡形もなく消えてしまった。
しおりを挟む

処理中です...