闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
364 / 412
2部 4章

第二幕 4章 4話 狂った邪鬼

しおりを挟む
 カモメ達の元にガリオンの仲間が現れた頃、領主の館の庭ではガリオンに吹き飛ばされたクオンとそれを笑いながら見ているガリオンの姿があった。

(相棒……こいつこの間の狂人と同じなのか?)
「いや、この間の奴と違って理性が残っているみたいだ」
(そいつはやべぇんじゃねぇか?)
「かも……でも、さっき殴り掛かられたとき以前の奴ほどの強度があるようには思えなかった……もしかしたら」
(あれはアイツ固有の天啓スキルだったのかもしれない……か?)
「うん、でももしそうなら……」


 ガリオンの天啓スキルも強化されているかもしれないということである。
 以前クオンは「怪力」の天啓スキルを持つガリオンの攻撃を受け止めて見せたことがある。
 だが、強化されているとしたら今度は受けるのは危険だろう……。


「はっ、何をブツブツ言ってやがる?自分の為にお経でも唱えてんのか?」
「まさか……貴方が迷わず成仏できるようにですよ」
「やっぱり気に入らねぇガキだぜ……ペシャンコにしてやるから覚悟しな!!」
「……お断りしますよ」


 ガリオンが腰につけていた片手斧を取ると、クオンに向かって走り出す。
 ガリオンは特にフェイントなども入れず、大きくジャンプし、クオン目掛けてその斧を振り下ろした。
 大振りの為、クオンはそれを難なく躱すが……轟音……まるで何かが爆発したような音を響かせると、ガリオンが斧を振り下ろした地面がまるでクレーターのように凹む……以前の怪力でもかなり地面を凹ませていたが今回はその比ではない……巨大な岩でも落ちてきたのかというくらいの大きなクレーターであった。


(……マジかよ)
「マジみたいだね……」


 ジーニアスが授けたという力……いったいこれは何なんだ?
 これがジーニアスの天啓スキルなのだろうか?他人の天啓スキルを強化する?……いや、狂化か……なんにしても敵にこんな力のある人間がいるとなるとかなり厄介である。
 ただ、それ程量産をしていないところを見ると、使い勝手の良い力ではないのかもしれない。

 以前、戦った軍の敵が全員この状態であればいくら僕やディータでも危なかっただろう。


「ギャハハハハ!怖気づいちまったか坊ちゃんよぉ!」


 とはいえ……一万もの大軍でいればの話である。
 目の前にいるガリオンは理性が残っているとはいえ、以前、戦った狂人ほど脅威には感じない……いや、彼自身がまだ強くなった自分の力を扱いきれていないだけかもしれないが……。

 どちらにしても……。


「力自慢に負けることはない……」
「あ゛あ゛?……ムカつくぜ……ホントにムカつかせやがる!!」


 再び大振りで片手斧を振り回すガリオン……だが、その攻撃はクオンに掠りもしない。


「なんでだ!なんで当たらねぇ!!ジーニアスの野郎に力を貰ったのになんでだ!!」
「……貰っただけだからですよ」
「どういう意味だ!!」
「その力を使いこなせていない……それに力に頼るだけであなた自身の技量は変わっていない……それじゃ僕には当たりません」
「ざけんな!力は力だろうが!!」
「昔、僕の尊敬する人が言っていました……力を持つ者は同時に心も鍛えなければいけないと……貴方は力に振り回されて心を鍛えられていません……だから弱いんです」
「弱い……?俺が弱いだとぉ!……ヒヒヒヒヒ!もういい!もういいいいい!キレたぜ……テメェが言う心なんざ必要ねぇんだよ!敵を殺すのに心なんざいるわけねぇだろ!ああ!……捨ててやるこんなもん!ギャハハハハ!」


 ガリオンが突然、叫びだす。
 何を言っているのだろう………おかしくなってしまったのか?


(相棒……なんか様子が変だぜ?)
「うん……」


 ガリオンの様子が明らかにおかしい……僕の言葉のせいで頭にきた……と言うだけではないのだ。
 目が血走り始め、依然戦った狂人と同じような感じになって行く……だが、それで止まらない。

 彼の髪の色が変わっていった……まるで邪鬼のように赤い髪へと変化していくのだ。
 そして、血走っていた目もやがて金色へと変わっていく。


(お、おい相棒……これじゃ、まるで……)
「ああ……邪鬼だ……」
「ふ……フヒャヒャヒャヒャ……これが邪神の力か……最高じゃねぇか!」


 邪神……確か、邪鬼を作った神様の事だったはずだ……。
 その神様の力……?どういうことだ?彼に力を与えたのはジーニアスのはずだ……まさか、ジーニアスが邪神?……いや、以前見た彼が邪神とは思えない……だとしたら?

 考えても解らないか……情報が足らなすぎる。
 今解るのは邪神の力を与えることが出来ること、そしてやっぱりレンシアに協力している邪鬼がいるであろうことくらいか……それと…‥。


 今の状況はかなりヤバいってことくらいかな。


「まさか、邪鬼と戦うことになるなんてね」
(だけど相棒……邪鬼になろうが敵さんの技術は変わらねぇ筈だ)
「うん……勝ち目は十分にあるはずだ」


 そう思う僕とクレイジュだったが、その考えは一瞬で砕かれた。
 ガリオンが手をこちらにかざすと、赤い魔力弾のようなものを発射してくる。
 今までガリオンは魔法など使わなかった……邪鬼になって使えるようになった技ということなのだろう……いきなりの事で驚いたが、僕はなんとかそれを躱す。躱した赤い球は弾け爆発した。あれをまともに喰らっていたら危なかっただろう。


「……危ない」
(相棒!?)
「なっ!?」


 避けて体制の崩れた僕にガリオンは斧を振り上げ走り寄ってきていた。
 クレイジュの声でなんとか避けることが出来たが……いけない。確かにガリオンの技術が高くなったわけではないが、赤い魔力弾という攻撃方法が増えただけで俄然戦いにくくなった。
 ガリオンの攻撃力だけは侮れないのだ。


「ギャハハハハハハハ!!」
「ガリオン、こんなことして楽しいんですか!他人から与えられた力で僕を倒せれば満足なんですか!!」
「ギャハハハハハハハ!!!!!!」


 僕の声はすでにガリオンに届いていない……そう言えばガリオンは心を捨てると言っていた……邪鬼になったことで理性が完全になくなったようだ……つまり今のガリオンは狂った邪鬼ということだ……。厄介だ。


(相棒……手を抜ける状態じゃなくなっちまったぜ?)
「だね……このまま彼を放っておくと街にも被害が出てしまいそうだ……全力で行くよ相棒」
(ああ!)
輝竜秘力ヒドゥンクレイジュ


 クオンは体を輝かせ、クレイジュの秘められた力を解放するのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...