闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
369 / 412
2部 4章

第二幕 4章 9話 ジェラーノの真意

しおりを挟む

「大人しく降参する気はある?」
「ふざけるなっ……誰が貴様らなんぞにっ!」


 だよね……アンリエッタのお父さんだ……出来れば殺したくなかったんだけど……見逃すわけにもいかない。かといって捕らえても大人しく捕まっているわけもないだろう……なら……。

 私は持っていたバトーネに魔力を通す。


「なら……とどめを刺させてもらうよ!」
「そうはいくか!!やれ!!」


 ジェラーノ言葉が部屋に響く。
 その瞬間、私の後ろから4つの影が私に襲い掛かる。


「カモメちゃん!?」
「しまっ……!?」


 4つの影……ガリオンの仲間の狂人となった冒険者たちだ……くっ、もしかしたら元に戻せるかもと気絶にさせたのが甘かった……まさか、こんなに早く気がつくなんて!

 4人の攻撃を私は避けることは出来ない……一人二人ならバトーネで撃退できるが……ダメージ覚悟でやるしかないかっ。
 私は4人の方を振り返るとバトーネを構え、右にいる2二人をなぎ払う。魔力を通したバトーネは風の力を得てその攻撃を刃のように鋭くした。
 私の攻撃でお腹を裂かれた二人はそのまま絶命したのか、赤い粒子になり霧散する。
 だが、残りの二人は無防備な私の左側からそのまま攻撃を続行していた。
 二人の武器は槍と短剣……かなりのダメージを受けることになるだろう……キツイな。
 そう思った瞬間、二人の頭がごろりと地面に転がり、私に攻撃が届く前に赤い粒子と変わる。


「……え?」
「大丈夫?」


 私に向って攻撃をしてきた二人を斬りつけたのはクオンであった。
 彼は優しい笑顔を浮かべながら私に言葉をかける。


「クオンいつのまに!?」
「広場に投げ出された後、すぐ戻ってきたんだよ」


 すぐ?でもあれから、結構時間経っているような?


「でも、普通に合流してもジェラーノの算術でこっちの攻撃を読まれちゃうからね。気配を消して攻撃の隙を狙ってたんだ」


 あ、そうか……計算でこっちの攻撃を読まれるとしても、そもそも計算式の中に入ってなければ読まれることは無い。現にレナが来たときジェラーノは攻撃に当たっていた。
 だからクオンも気配を消して、不意打ちを仕掛けようとしてたのか……そこまで考えて私はクオンの顔をみる……別にかっこいいなとか思ったわけじゃないよ。彼のオデコがちょっと赤くなっていたのを見たのだ。あれってやっぱり……?


「クオンそのおでこ……」
「っ!?……な、なんでもないよ!」


 やっぱり、レナのゴムボールのような光の弾に当たったんだね。
 痛そう~。


「それよりも……」
「うん」


 お茶目な会話はここまでである。
 私はジェラーノを見る……私のアクアウィレスで着けた傷から赤い血が流れ出ている。
 あれだけの傷だ、邪鬼とはいえまともに戦うことは出来ないだろう。
 なら、たとえこちらの攻撃を読まれても問題ない。
 私はバトーネを構える。


「ジェラーノ……悪いけど貴方を倒すよ」
「ふ、倒せるものならやってみるがいい……だが、私はこの街の人間を殺しつくすまで決して死なん!」
「なんでよ!……なんでそんなに街の人を憎むのさ!」
「言ったであろう……我が妻を殺した罰よ……」
「殺したのは魔物でしょ!街の人達のせいじゃない!」
「いいや、あのゴミどものせいでリンリイは死んだのだ!あいつらがいなければリンリイは死ぬことはなかったのだ!」


 なんで?どうしてそう思うの?
 せっかくアンリエッタのお母さんが命を懸けて護った人たちをどうして……?


「私は憎いのだよ……最愛の妻を奪ったこの街の人間が!こいつらさえいなければ妻は死なずに済んだのにと!」


 ……………違う。
 そうか……そういうことなんだ……。


「違いますね」
「何?」


 クオンが私と同じ悲しい表情をしている。
 そうだ……クオンも同じ経験をしている……きっと、ジェラーノの気持ちがわかるんだろう。


「貴方が憎んでいるのは街の人じゃない……」
「ふざけるなっ!私はこの街の人間全てを憎んでいる!!殺してやりたいほどにな!!」
「では、この街の人間を殺した後は?」
「はっ……当然、他の街の人間も殺すまでよ……奴らも同じ人間……きっとまた誰かを殺す……その罪深き傲慢でな!」
「なら……その次は?」
「魔物どもを駆逐する……奴らも同罪よ」
「次は?」
「貴様っ、さっきから何を言いたいのだ!!」
「最後はどうするんです?誰もかれも殺した後……貴方は?」
「ハハハハっ……その時は笑って自分を殺すまでさ……それで終わりだ」


 …………。


「なんで自分を殺すんです?すべての復讐が終わったのなら自分を殺す必要はないでしょう?」
「……………いや、殺す」
「でしょうね、貴方が一番憎んでいるのは誰でもない自分なんじゃないですか?」
「……何?……知ったような口をきくな!!」


 ううん、きっとそう……私もお母さんが死んだとき……お父さんが死んだとき……何よりも悔しかったのは自分がそれを助けられなかったことだ。その時、今くらいの力があれば二人とも助けられたかもしれないのにと……悔しくて悲しくて……今でも時々そう思ってしまう。

 きっと、クオンも……だけど私にはクオンがいた……他にも護りたい人がいた。
 だから、もう誰も失わないようにと強くなった……体も……心も!


 昔お父さんが言っていた……力を得ても心が鍛えられていなければそれは暴力になると……きっとジェラーノは負けたんだ……自分の心に……だから、全てを殺そうとする。


「ジェラーノ……あなたの願いを僕が叶えてあげる……貴方を殺す」
「……ふ、ふふふふふふ……ハハハハハハハ!!」
「……?」


 いきなり笑い出すジェラーノ……何がおかしいの?


「餓鬼が解ったような口を……貴様の考えは見当違いよ!私は間違えてなどおらん!私は正しいのだ!」
「ジェラーノ……」
「気安く私の名を呼ぶな!!」


 ジェラーノが掌に赤い光球を作り出しこちらに向かって投げる。
 だが、それは見当違いの方向へと飛んでいき……一つの大きな柱にぶつかり炸裂した。


「そうだね、僕は見当違いな事を言っているかもしれない……だけど、その状態じゃ僕たちから逃げることは出来ないよ?」


 だね……まともに攻撃も出来ない状態じゃクオンから逃げるのは無理だ。


「ククククク」
「何がおかしい……?」
「っ!しまった、クオンちゃんカモメちゃん!!」


 レナが叫ぶのと同時に先ほど赤い光球が炸裂した柱が崩れ落ちた。
 そして、それが原因か、館全体が崩れ始める。


「そんな、柱一本で!?」
「一本ではない……貴様にけしかけた4人……お前に攻撃をする前にも命令を下していたのだ」


 まさか、ここに来る前に他の主要な柱を壊してきたって言うの?


「私の計算通りだ……最後にその柱を崩せばこの館は崩壊する」
「館を壊せば逃げられると思っているの!」
「ああ、なぜなら貴様らは人助けで手一杯だろうからな」
「どういうこと!?」
「あらかじめ地下にここの使用人を一人、閉じ込めておいたのさ……果たして貴様らの仲間は無事に見つけて脱出させられたかな?」


 なっ!?
 それを聞いた私達は急いで、地下へと向かう。
 その姿を楽しそうに見ているジェラーノの姿がムカつくが……彼の言う通り、今彼を攻撃していては間に合わなくなるだろう……いや、ジェラーノが得意の算術のスキルで倒壊までの時間を調整したのだろう……くう……全部相手の計算通りか……ジェラーノを逃がすのは危険だけどだからと言って見捨てるわけにはいかないよ……。


「ふん……気に入らない連中だ」

 私達が地下へと向かったのを見たジェラーノはそう言うと、その場から姿を消した。
 私達は、地下への階段を降り、その先にあった扉を開くと、眠らされて転がされている一人のメイドを見つける……よかった、息はあるみたい。
 その子を担いで館の外へ出ると、丁度、館が完全に崩れてしまった。
 その館跡にジェラーノの姿はもうない……危険な相手を取り逃がしてしまったのかもしれない。
 私は、崩れた館を見ながら不安な気持ちを抱いていたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...