闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 4章

第二幕 4章 10話 災厄再び

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「ぐ……がはっ」


 ラリアスの街から少し離れた草原に一人の男が倒れていた。
 髪の色は赤く、目の色は金色であるその男は、右胸に大きな穴を空け、今にも絶命しそうである。
 その男の名はジェラーノ。
 先ほどまで闇の魔女と呼ばれる少女とその仲間たちと戦いを繰り広げ、そして敗れたのだ。


「闇の魔女め……許さん……許さんぞっ」


 ジェラーノは苦虫を潰したような表情で、地面に拳を振り下ろす。
 だが、その拳にはもうほとんど力が入っておらず、地面の上に広がる草を少し歪める程度にしかならなかった。
 頭を巡らせ、もしもの為の時に保険をいくつも用意してあった。
 だが、それでも、致命的なダメージを受けてしまったジェラーノはこのまま朽ち果てる運命を迎えようとしていたのだ。
 ジェラーノが悔しさのあまり闇の魔女と何度も何度も口ずさむ。
 その声もどんどん弱々しくなってきたその時……。


「へぇ、貴方もあの女に恨みがあるの?」


 透き通った女性の声が聞こえた。
 その女性の声はとても綺麗であった……その筈なのに、まるで地獄のそこから聞こえてくるような恐怖をジェラーノは感じたのだ。

 燃えるような深紅の長い髪を靡かせながらその女性は地面に膝をついているジェラーノに近寄ってくる。
 ジェラーノは警戒する……復讐を遂げるまで自分は死ねない……。


「警戒しなくていいわよ……もどきとはいえ、貴方は邪鬼でしょう?それなら私の物よ……傷つけたりしないわ」


 物だと?私は誰の物でもない……。ふざけるなっという気持ちを込め、その女性を睨もうとしたジェラーノだったが、女性の姿を見た瞬間、その気持ちは消え去り、畏怖の気持ちでいっぱいになる。
 この方に逆らってはいけないとまるで本能がそう告げるかのように……。


「ふふ、さすがは邪鬼の王の力ね……いえ、この場合は邪鬼の神の力かしら……まあ、どちらでも同じか」


 この女は何を言っているのだ……邪鬼の王?邪鬼の神?……どういうことだ?


「私は災厄の魔女と呼ばれる者よ……ねえ、貴方……闇の魔女に復讐したい?」
「…………無論だ」


 どう答えるか迷ったジェラーノであったが、素直に答える。
 災厄の魔女と名乗ったこの女に、嘘の類をつくのは得策ではない……本能でそう感じたのだ。


「なら、私についてきなさい……復讐させてあげるわ」
「馬鹿な……私が誰かの下につくなど……」
「なら、このままのたれ死ぬ?それをあなたの心は許せるのかしら?自分を裏切った者……自分の信じる者をすべて壊した者たちをそのまま野放しに出来るの?」
「……っ!?」


 自分の信じるもの全てを壊した奴ら……その言葉を聞いた時、ジェラーノはもう一度、災厄の魔女の顔を見た………同じだ………この女も私と同じ思いを持っている。


「出来るのか?私が憎むのはこの世のすべての者だ……」
「奇遇ね、私も同じよ?この世界全てを壊してあげるつもり」
「………いいだろう……私の命をくれてやる……だが、約束は違えるなよ?」
「ええ、もちろん」


 ジェラーノの言葉を聞いた災厄の魔女は……満足そうに微笑むのであった。
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