闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 4章

第二幕 4章 17話 生存者

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「地獄の炎か……厄介だね」


 バトロメス達を撃退し、私達は先ほどの相手の事を考える。
 レナの浄化の炎が無ければ危なかったかもしれない。
 それほどまでにあの炎は強かった……もしレナがいない状態で対峙したらどうしよう……ううん、その時はその時だ……最悪、光と闇の合成魔法を使おう。


「カモメちゃん……光と闇の合成魔法は使っちゃ駄目よ?」
「うぇ!?」


 たはー、私が何考えていたのかレナにはバレていたみたい。


「でも、もしアイツと戦うときにレナがいなかったら……」
「その時は逃げちゃいなさい」
「うぇ!?」


 う、うーん……確かにそれでもいいけど……逃げられるのかなぁ。


「とにかく使っちゃ駄目……これ以上使うと貴方の身体がどうなるか分からないわ」
「……うん、わかった」


 確かに、前回、光と闇の合成魔法を使った時、体がいつも以上に疲労感を感じた……。
 これ以上使うのは危険だというレナの言うことも解る……うん、出来るだけ使わないようにしよう。
 もしかしたら、使わなくても勝てる方法があるかもしれないしね。


「っと、それで、アンナさんだっけ?…‥って、ディータいつまで縛ってるのさ」
「いや、何か魚みたいで面白かったから……つい?」
「おおう……」


 ディータは地面で体を魚のように飛び跳ねさせながら抗議しているアンナを見てにやにやと笑っていた……ディータ、それはちょっとひどいよ……確かに魚みたいで面白いけど……。


「レ、レン……解いてあげて」
「あ、ああ……」
「ぷはっ!……一体、どういうつもり!!」

 レンが口にされていた猿轡を外すと、アンナは大声で怒鳴る……いや、まあ、あんなことをされれば当然だけどね。


「落ち着けアンナ、ディータはお前を連れていかれないために……」
「連れていかれないため?馬鹿!それが問題なんでしょう!私が行かなかったら貴方達は狙われるのよ!」
「あら、馬鹿は貴方よ……アンナだっけ?私達にとって白の傭兵団は元々敵なのよ?その相手が態々私達を狙ってくれるというのなら好都合よ」
「な、何を言っているの!?白の傭兵団なのよ!貴方達だって噂くらい聞いたことあるでしょ!」


 残虐非道……仕事を遂行するためならば女子供でも容赦なく殺す……だっけ?
 確かに普通に考えれば触らぬ神にたたりなしである……でも、レンシアに乗っ取られたアンダールシアが白の傭兵団を雇っているのだ……彼らとの戦いは避けられない。

 いや、本格的な戦いになる前にここで白の傭兵団を潰せるのであればそれが一番なのではないだろうか?
 確かに強敵だけど、先ほどのバトロメスにしても絶対に勝てない相手と言う訳ではないのだ。
 人間みたいな人形を持っていたりと不明な点も多いので楽観は出来ないが……。


「大丈夫、私達だって強いんだよ?さっきのバトロメスだって撃退したんだから」
「何を言っているの!レン、貴方なら分かっているでしょう!本当に恐ろしいのはバトロメスじゃない!」
「バトロメスじゃない?」


 でも、バトロメスって団長なんだよね?ってことは白の傭兵団のトップなんじゃ?


「ルークード……」
「そうよ、アイツがいる限り誰も白の傭兵団を止めることなんて出来ないのよ!!」
「誰の事ですの?」


 レナに治癒魔法をかけてもらい、バトロメスにやられた傷を感知させたエリンシアがレンに尋ねる。


「バトロメスの弟だ……肩書はただの傭兵団の一員なのだが……」
「あいつの強さは異常よ!アイツ一人で一つの国が潰せると言われているくらいなのよ!!」
「つまり、そいつがいるから私達は勝てないって言いたいのね?」
「そうよ!ううん、それだけじゃない!レンが出て行った後に傭兵団に入ったボンパルっていう男が機械で作った人間そっくりの人形を作りだして、傭兵団を大きくしたわ!」

 さっきいたギャーゴと呼ばれていた男の事だろう……確かに人間ではなく人形のような雰囲気だった。


「あの人形が大量にいるっていうこと?」
「数は……まだ、10体くらいよ……1体作るのに時間が掛かるみたいで」
「それくらいなら問題ないわね」
「問題大有りよ!さっきのバトロメスとガロ、それに人形一体に苦戦していたのにそいつらをまとめて相手にして生きていられるわけないじゃない!」


 確かに……そいつら全員を相手にするのはキツイ……でも。


「だったら、一緒に相手にしなければいいんじゃない?」
「……はい?」
「一緒にいないところを奇襲するとか方法はいろいろあると思うけど?」


 そうだ、別に真正面から戦う必要はない。
 敵の兵力が多いなら少しずつ減らしていけばいいのだ。


「そんな、上手く行くわけないでしょう……」
「まあ、上手く行かなかったら全員まとめて倒すだけだよ……その時はその時♪」
「話にならないわ……レン、貴方だけでも逃げなさい」
「否定だ」
「何を言っているの!お願い、私の言うことを聞いて!」
「そして、また君を犠牲にしろと?残念だが俺はもう逃げない」
「私がしたことを怒っているのね、確かに貴方に嘘をついたのは謝る、だけど、貴方だけでも普通に生きてほしかったの……貴方は優しい子よ……こんな傭兵団にいていい子じゃなかった!」
「違う……俺は君に怒ってなどいない……むしろ感謝している」
「それならっ」
「君のお陰で、俺は素晴らしい仲間に会えた……逃げることを止めた……だから、俺は戦う。この仲間たちと一緒に」
「レン……なんで、何で分かってくれないの……」


 レンの態度に涙を流すアンナ……姉弟のように傭兵団で育ってきたとレンは言っていた。
 血は繋がっていない弟の為に自分を犠牲にするような人だ……きっと、優しい人なんだろう。
 でも、なんか違和感がある……なぜ、ここまで?


「何にしても、戦うか逃げるか決めるのはレンさんですわ。そのレンさんが戦うと言っているのですから貴方が口を出すことではありませんわよ」
「貴方に何が解るというの!レンはっ……っ!」


 アンナが途中まで何かを言いかけると表情を曇らせ、それ以上の言葉を続けなかった。


「無理よ……こんな人数で白の傭兵団を倒すことなんて出来ない」


 自嘲気味に笑いながらつぶやくアンナ……この人がそこまで言う程に白の傭兵団は巨大な敵なのだろう……だからと言って、ここで逃げかえるわけにはいかない。
 いつかは戦わなければいけない相手なのだ……逃げるわけにはいかない。


「人数なら他にもいるよ」


 私がどう言葉をかけていいか迷っていると、聞きなれた声が背後から聞こえてくる。


「クオン、よかった!無事だったんだ」
「うん、そっちでも戦闘があったみたいだったけど、大丈夫?」
「大丈夫、白の傭兵団の団長と出会ったんだけど……なんとか撃退したよ」
「バトロメスとだと!それは本当か!」


 私がクオンと話していると、背丈の低い何かが私の前へと現れる。


「ふぇ?」
「ふぇ?ではない!バトロメスを撃退したというのは本当かと聞いている!」
「ほ、本当だけど……だ、誰?」
「僕たちに矢を放った相手さ」
「え、こんな子供が?」
「うん、どうやら、この町の生き残りらしい……それで、他にも生き残っている人がいるらしいんだ」


 おお、よかった……この町の人間を全員殺したと言っていたからどうしようかと思っていたけど……よかった、生き残った人はいるんだね……。

 目の前の少年を見ながら私は安堵の息を漏らすのだった。
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