闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
376 / 412
2部 4章

第二幕 4章 16話 少年

しおりを挟む

 カモメ達がバトロメスと戦っている時、弓矢を放った相手を追っていたクオンは路地裏で周囲を警戒していた。
 というのも、彼を狙う弓矢が彼を狙って四方から襲い掛かってくるからである。


「くっ……敵は一人じゃなかったのか……」
(最低でも4人はいそうな感じだな……)


 クレイジュが前後左右から襲い掛かってくる弓矢を見ながらそう言った。
 クオンの前方から矢が飛来したと思えば、その次の瞬間には背後からも飛んでくる。
 こんな芸当、一人では出来ないだろう……そう思うのだが……。


(そう思うんだけどよぉ……気配が……)
「うん、一人分しかないね」


 さっきまで追いかけていたであろう人物の気配はしっかりと前方に感じる……だが、それ以外の気配は感じないのだ……よほど気配の隠すのがうまい人物が他にいるのか……それとも……。


(天啓スキルか?)
「かもしれない……リーナのように空間を操って別の場所から矢を放っているのかも」


 そうであるのならば、敵の気配が一つしかないのに四方から矢が飛来してくるのも説明がつく。
 まあ、厄介極まりないのだが。

 だが、気配を完全に消すことが出来る達人が3人以上いるというよりはマシであろう。
 

(じゃあ、行くか?)
「うん、ここでこうしてても何にもならないしね」


 どこから飛んでくるか分からない矢を躱し続けるのも大変である。
 それならば、こちらから出て行った方がいいだろう……だが、もし気配を完全に消せる達人がいた場合、敵の一人に向かっていけば、同時に4方向から狙ってくる可能性も高い……一か八かか……

 それに、カモメ達の方も心配である。
 先ほどから、こことは別の場所で戦闘音が聞こえてくる。
 向こうでも何かあったのだろう……なら、悠長に敵の様子を伺っているわけにはいくまい。


「クレイジュ、行くよ!」
(おうよ!)


 そう言い、僕らは飛び出す。
 飛び出した僕らを見て、敵が慌てる気配を感じる……やはり、気配は一つだ。
 そして、同時に矢が放たれる様子はない。
 飛んでくる矢は一本だけだ……それも、慌てているからなのか、前方からしか飛んでこない。

 どうやら、敵はやはり一人だけのようだ。

 こちらも、強引に飛び出してしまったが、正解だったようである。
 気配の元へと走り、クレイジュを振り下ろすと、小さな悲鳴と共に敵の弓を真っ二つに斬り裂いた。


「男の……子?」


 クレイジュを振り下ろした先にいたのは、今のクオンの攻撃で尻もちを土てしまったのであろう少年が一人、地面にペタリと座り込んでいる。


「ひっ」
(相棒……こりゃ、一体?)
「君は?……なぜ、僕らに攻撃を仕掛けてきたんだい?」


 クオンはクレイジュを下ろさずに少年に問いただす。
 少年は恐怖からか、小刻みに震えながらも、クオンを睨みつけていた。
 そして、絞り出したかのように震えた声で答える。


「なぜ……なぜだって!父上と母上の仇に決まってる!」
(どういうことだ、相棒?)
「さあ……?」


 少年の言っていることが理解できないクオンは頭を捻る……。


「何か勘違いしてないかな?僕は君に初めて会うと思うんだけど……」
「ああ、会うのは初めてさ……だけど、お前が白の傭兵団である以上、僕の両親の仇であることには変わらない!」
「白の傭兵団……?」


 白の傭兵団と言えば、レンが以前いた傭兵団のことだ……確か残虐非道な傭兵団だとレンは言っていた……ということはつまり、この子の両親は白の傭兵団に殺されたということだ……そして、もしかしたら、町がこれほどまでに人がいないのは白の傭兵団のせいなのではないだろうか?

 そして、白の傭兵団はアンダールシアについている……これはマズい状況なのではないだろうか?



「何か勘違いをしているのかもしれないけど、僕は白の傭兵団ではないよ?」
「嘘だ!お前は町にいた!この町の人間のほとんどは白の傭兵団に殺されて、今や残るのはごく少数……その全てを僕は知ってるんだ!お前はこの町の人間じゃない!……なら、白の傭兵団に決まってる!」


 街の人間のほとんどが殺された!?……白の傭兵団に間違われているのも問題だが、そっちの方が大問題である……ローランシアの首都であるこの町の人間が殆ど殺されたというのであれば、事実上、ローランシアは滅んだと言っていい……。


「いや、本当に白の傭兵団ではないんだ……僕はラリアスに亡命したアンダールシアの王女様に協力してほしいとローランシアに頼むためにここに来た……むしろ、白の傭兵団の敵だよ」
「アンダールシアの姫様?……確かメリッサ様は、実の母を殺し、逃亡中だって……」
「それは違う、彼女はレンシアに嵌められたんだ……本当は王族を殺し、王国を乗っ取ろうとしたレンシアの連中から逃げるために母親が命懸けで逃がしたんだ……それを奴らはメリッサに濡れ衣を着せ、指名手配にした……」
「……本当か?」
「本当だ、もし僕が白の傭兵団の一員ならこんなことを話しはせず君を斬っている……違うかい?」
「…………」


 信じてもらえないか……僕の言葉に彼は下向き考えている。
 確かに両親と町の人を殺されているのであれば、そう簡単に人を信用できないだろう……。
 僕はそう思い、クレイジュを鞘へと納めた。


「信用できないかもしれない……だけど、勘違いであるなら、僕は君を斬る理由がない……だから、このまま仲間の元に戻ろうと思う……良ければ君も一緒に来て判断してもらえないか?メリッサも一緒に来ているし、仲間と話せば信じてもらえるかもしれない」


 男の僕と話すより、同じ女性であるメリッサやカモメと話した方がきっと信用しやすいだろう。
 それに、先ほどから続く向こうの戦闘音も気になる……急いでカモメの元に戻りたい。


「わかった……確かに、そんな回りくどいことを白の傭兵団がするとは思えないし……お前を信じてみよう……メリッサ様が来ているというのなら会わせてくれ」
「解った」


 クオンは頷くと、少年の眼を見る。
 まだ、怯えてはいるが、力強い眼をしている。
 まだ、幼さを残す少年であるというのに、心の強い子だなとクオンは感心するのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...