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2部 4章
第二幕 4章 38話 ルークード
しおりを挟む「待てぇ!!」
「ちっ、どういうことだ?団長は何やってやんがんだ!」
私はエリンシアと別れた後、再びラージェを追いかけている。
絶対に逃がさないからね!
「爆発炎弾!」
「うぉっと!」
私の放った炎の魔法をラージェは綺麗に空中で回転しながら躱す。
「おいおい、しつこい女は嫌われちまうぜ?」
「うるさい!アンタなんかに好かれたくないよ!」
ラージェはかなり追い詰められているはずだ……私と正面から戦っても勝ち目はない。
なのに、どうしてそんなに余裕でいられるんだろう……まだ何かあるのかな?
「……ふう」
「……?……もう逃げないの?」
しばらくそんな追いかけっこが続いていたが、ラージェは観念したのかいきなり逃げるのを止めた。
そして、にやけ面を崩さないまま、ゆっくりとこちらを向いてくる。
「ああ、もうアンタは俺を追っては来れないだろうからな」
「どういう意味?……!?」
ラージェの言葉に疑問を持った次の瞬間……私の背筋に悪寒が走った。
ラージェのいる通路はT字路になっている……そのT字路を左に抜けたほうに……なにか、とてつもない何かがいる……そう、私の直感が言っているのだ。
「……何……この感じ?」
「お、さすがだねぇ……気づいたんだ?ルークードの旦那!助けてくだせぇ!」
ラージェが叫ぶと、T字路の先から、一人の男が歩いてきた。
長髪の白髪の男である……その男は異様な雰囲気を漂わせている。
まるでその男の周りだけ別世界になっているんじゃないかというくらい、その男はこの場にいること自体違和感を与える……あいつは死神なのでは?……私にそう思わせる程……その男は異常であった。
そして、私はその男の手の先に視線を移す……男が手に掴んでいるものを見て、私は胸を鷲掴みにされたような感覚に陥る。
「クオン!!!」
ルークードの手にはボロボロになったクオンが引きずられていた。
そんな……クオンがなんで!?
「だから言ったろ?コイツがどうなってるかは分からねぇってよ……残念だったなぁ、運悪くルークードの旦那と出くわしちまったみたいで……ああ、いや……アンタらの狙いは白の傭兵団だったっけ?じゃあ、いずれにしろこうなってたわけだ」
「クオン!」
ルークードが手に引きずっていたクオンをこちらに放り投げた。
クオンはそれにあらがう力が残っていないかのように放物線を描きこちらに飛ばされ、転がる。
私はすぐさまクオンに駆け寄り、治癒魔法を唱えた。
「クオン!クオン!!!大丈夫!!!?」
「カ……モメ……ごめん……ドーガが連れて……いかれた……」
間違いない……今度のは偽物なんかじゃない……クオンだ……。
正直また偽物なのを期待してしまったのだが……眼を見ればわかる……優しくて綺麗なクオンの目は偽物なんかに真似は出来ない……。
「大丈夫……ドーガは私が取り返すから!今は喋らないで!」
クオンには鋭利なもので斬り裂かれた傷がいくつも付いていた。
恐らくルークードが持っている異常に長い刀でつけられた傷だろう……。
しかし、どうする?……治癒魔法を止めるわけにはいかない……この傷、下手をしたら死んでしまう。
だが、あの死神が私達をこのまま見逃すとも思えない……このままじゃ……。
「ルークードの旦那……あの魔女も任せちまっていいですかい?」
「構わん」
「助かります……俺じゃ勝てねぇ相手でしたので」
「行け」
「へい」
ラージェはそう言うと、またも私の前から逃げていく……よく考えるとおかしくないか?
ルークードが強いのは解る、クオンがここまで完璧に負けるなんて正直考えられないくらいだ……そんな相手に私が勝てるとは思えない……だから、私と戦わせるということは解るのだが、なぜラージェはこの場からいなくなる必要があるのだろう?
別の場所に行けば、他の私の仲間と出会うかもしれない。そうなったらラージェが勝てる可能性は極めて低いだろう。強いルークードと一緒にいたほうがいいはずである……でもそうしないのは、何か彼にはまだ目的があるのだろうか?
だが、それが分かったところで私にはどうしようもない……追いかけることも出来ないし、ルークードから逃げることも出来ないだろう。
どうする……このままじゃクオンも危険だ……出来ればレナに預けたいが……レナは他の皆に今の状況を知らせに行っているはず……運よくこの場に来てくれる可能性は低いだろう……。
「死ね」
「なっ!?」
私がどうするか考えている間に、ルークードは持っていた長刀を抜き放ち、一瞬にして目の前へと移動してきていた……速すぎる!?
抜き離れた長刀が、瞬きをする間に私の顔の目の前へと迫っていた。
避けようと考える暇もない……駄目だ。
「ちっ」
だが、その長刀は私に届く前にとまる……。
私の腕の中で倒れていたクオンが、クレイジュを抜き放ち、その長刀を止めていたのだ。
クオンのお腹からは赤い血が流れている。
全身に力を入れた為、傷口が開いたのだろう。
「クオン!!」
「逃げてカモメ……コイツは僕がやる……」
「無理だよその傷じゃ!!」
「そうよ、根暗坊主は引っ込んでなさい」
その声と同時に、ルークードが闇の魔法に飲み込まれ、吹き飛ばされる。
「ディータ!!」
「レナに聞いたわ……作戦がバレていたんですってね……メリッサ、ローラと一緒に根暗坊主をレナの所に運んであげて」
「はい!」
レナも近くにいるのか………良かった、それなら助かるかも……。
「カモメ、悪いけど貴方は力を貸してちょうだい……コイツはヤバいわね」
「うん……クオンがあそこまでやられるような相手だよ……力を合わせないとヤバい」
私はクオンをメリッサとローラに任せて、ディータの隣へと移動する。
先ほどのディータの魔法は恐らく闇魔滅砲だろう。
闇の魔法の中でも威力の高い魔法だ……それをあの男は直撃を受けたはずである。
それなのに、何事もなかったかのように男は立ち上がりこちらを見ていた。
その眼はまるで何も見ていないような、死人の眼のように見える程、無感情であった。
その眼を見た瞬間、私は背筋にまたも悪寒が走るのであった。
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