闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 4章

第二幕 4章 37話 バトロメス再び

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「さあ、答えな嬢ちゃん……俺の名をどこで聞いた?」
「ジーニアスからだよ」
「っ!……嬢ちゃん、嘘はいけねぇなぁ……ジーニアスの旦那が俺の事を誰かに言う訳がねぇ」
「そうだね、別に私に言ったわけじゃないよ」
「どういうことだい?」
「ココアの家を襲った時に貴方の名前を呼んでいたでしょ?ツバサに変装した貴方に」
「………嬢ちゃん、一体何者だい?10年以上前の出来事の筈だぜそれは?しかも、俺とジーニアスの旦那……後は死んだ青髪の嬢ちゃん以外知らねぇはずだ」
「ココアに教えてもらったんだよ……アンタたちがやった卑劣な事……全部!」
「意味が分からねぇ……あの嬢ちゃんは死んだはずだぜ?どうやって……いや、お前さんが事実を知っているのは確かか……それじゃあ、お前さんも生かしてはおけねぇな」
「私を殺せると思うの?」
「俺には無理だな……だがよぉ!はっはっは!ちょうどいいところに来てくれたぜバトロメスの親分!」


 私の後ろに向かって、ラージェが叫ぶ……しまった、会話に夢中で敵が後ろに近づいていたのに気づかなかった!私の後ろから黒い炎が襲い掛かってきた……この炎か!


「風よ!光よ!!」


 私は合成魔法の要領で、風と光の障壁を張る。
 障壁は黒い炎を防ぎきり、なんとか私の元までは届かずに済んだ。


「また会ったな、闇の魔女」
「バトロメス……」
「どうやら、あの聖なる炎の使い手は一緒じゃないようだな?」
「くっ……」


 そう、私にはあの聖なる炎は使えない。
 魔法の得意な私だけど、苦手なものもある……ガンガンに攻撃力を高める魔法、炎の魔法や闇の魔法なんかは得意なのだが、光の魔法や氷の魔法みたいに細かい集中力の必要な魔法は得意ではないのだ。

 全く使えないわけではないけれど、中でも聖なる炎はとんでもない集中力が必要となる。
 使っている間に気を抜けばすぐにその効果がかき消されてしまい一気にピンチになるだろう。
 その為、ああいう魔法は私もディータも得意ではないのだ。
 とはいえ、バトロメスには聖なる炎がないとかなりきつい。
 バトロメス本人の戦闘力よりあの地獄の炎というのが厄介なのだ……。

 ……試してみるしかないか!


聖なる炎メギド・フレア!!」
「何!?」


 私の放った聖なる炎が、バトロメスに向かって奔る。
 だが、その炎はバトロメスに届く前にかき消されてしまった。


「くっ……」
「はっ、驚かせやがって……使いこなせていないではないか」


 駄目だ、やっぱり私にはこの手の魔法は使いこなせない。
 魔法を使っている時も他の事に気を配ったりする私にはこの魔法だけに集中なんて出来ないよ。
 まあ、だからこそ合成魔法というものが使えたりするんだけど。


「ハハハ、じゃあ、今度はこっちの番だな……おいラージェ!お前は次に向かえ!」
「へい!」
「待ちなさい!」
「おっと、闇の魔女……お前の相手は俺だ」


 私がこの場から逃げようとするラージェを追いかけようとすると黒い炎が私の前を横切る。
 くう……ココアの仇が……それに、アイツの変身能力はやっぱり厄介だ……ここで逃がしたくはないのに!


「おいおい、今は自分の心配をした方がいいんじゃないか?闇の魔女……お前、俺に勝てるのかよ?」
「くっ……舐めないでよね……聖なる炎が使えなくても勝ってみせるよ!」
「おもしれえ!やってみろ!!」


 地獄の炎がまたも私に向って襲い掛かってくる。
 光と風の合成障壁であればなんとか防ぐことが出来る……聖なる炎が相性がいいというだけで、他の攻撃が絶対効かないと言う訳ではない……威力が高ければきっと大丈夫なはずだ。

 でも、どうする……?
 依然戦った時はなんちゃって黒炎滅撃フレアザードでやっと怯ませることが出来た……あれだけの大技を何度もは使えないよ……。

 何とか隙を作ってぶっ放すしかないか。


「どうした?反撃をしないのか?お前の考えていることが手に取るようにわかるぞ?大技を俺の隙をついて当てようというのだろう?」


 ぐう……読まれてる。


「だが、隙を作ろうにも俺の地獄の炎を防ぐの精一杯では何も出来んだろう!」


 その通りだ……ぶっ放すしかないというのにこのままでは相手の隙を作ることも出来ない……。
 もし障壁をといたらその瞬間、私は丸焼きである。
 かといって、このまま防いでいてもいずれはじり貧である……どうする?


「ハッハッハ!お前ひとりではどうしようもあるまい!」


 くう……その通りだ……ヤバい、手詰まりだよ……。
 こうなったらいっそ、この炎に突っ込んで気合で抜けるしか……。
 いやいや、丸焼けまっしぐらだよね……むぅ。


「あら、カモメさんは一人じゃありませんわよ?」
「何!?……ぐおっ!」


 聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、バトロメスが悲鳴を上げる。
 エリンシアである。
 彼女がその拳をバトロメスの脇腹にめり込ませたのだ。


「ちっ!」


 バトロメスは地獄の炎を止めると、エリンシアから距離を取る。
 

「カモメさん大丈夫ですの!」
「うん、大丈夫!」
「良かったですわ、では、この男はワタクシに任せてくださいまし!」
「え、でも……」
「大丈夫……秘策がありますの♪」
「解った……でもレンは?」


 エリンシアはレンと一緒にいたはずである。
 だが、この場にはレンはいない。


「ここに向かう途中でガロとかいう白の傭兵団と出くわしましたの……レンさんはそいつの相手をしておりますわ」
「そっか……解った。エリンシアも気を付けて」
「ええ、カモメさんも気を付けてくださいまし!どうやらワタクシたちの作戦はバレていまっていたようですわ」
「うん、ラージェって言う変身の得意な奴がいたんだけど、そいつが私たちの中に紛れてたみたい」
「そう言うことですの……それは厄介ですわね」
「うん、私はそいつを追うよ。また誰かに化けられてもいけないし」
「解りましたわ」
「おいおい、のんきに喋ってていいのかよ!」


 私達が話し合っていると、バトロメスは地獄の炎を放ってくる。
 呑気に待っていてはくれないか……クオンの事とかも聞きたかったんだけど、エリンシアが口に出さないということは知らないのだろう。
 いや、先ずはあの炎をどうにかしないと……そう思い私は再び風と光の合成障壁を展開しようとする……が。


「その炎、ワタクシにはもう効きませんわよ?」
「何っ!?」


 エリンシアが炎に向かって走り出し、あろうことか地獄の炎に向かって蹴りを放つ。
 ちょ、ちょっとエリンシア!?それはいくら何でも無謀……じゃ……ない?

 私は目を見開き、驚いた……エリンシアの蹴りで炎がかき消されたのだ……どういうこと!?
 私が驚き、エリンシアを見ると……わぁお……エリンシアが燃えている……。

 いや、正確にはあれは聖なる炎を身に纏っているのだろうか……白く輝く炎がエリンシアの周りを静かに揺らめいていた。


「え、エリンシア……聖なる炎が使えたの!?」
「さっき、レナさんが使っているのを見て覚えましたの……結構簡単ですわよ?」


 うっそぉ……そう言えばエリンシアって光の魔法が得意だったっけ。
 でもだからって、光の魔法の中でも難しい魔法をこうもあっさりと使えちゃうなんて……エリンシアって天才なんじゃ……いや、うん……天才なのかも。


「さあ、カモメさんは早くいってくださいまし」
「うん、わかった……後は任せた」
「お任せされましたわ!」


 正直、バトロメスをどうするか悩んでいたのだけれど……エリンシアのお陰でなんとかなりそうだ。
 聖なる炎を纏ったエリンシアに、バトロメスが勝てるとは思えない。
 エリンシア、すごい!


 私は、白く煌めくエリンシアを尻目に、ラージェの逃げたほうへと再び飛んで移動するのであった。
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