闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 4章

第二幕 4章 36話 ラージェ

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「クオン!!」


 私は、クオン達が襲撃した場所へと降り立った。
 辺りを探しながらクオンとドーガの姿を探す……だが、呼びかけても返事の帰ってくる様子はない。
 もうすでに次の襲撃場所へと移動したのだろうか?
 最初の襲撃の北東からクオン達は東へと向かい、そのまま中央へと移動する予定のはずだ……なら、このまま私も東に移動してみよう。

 私がそう考えて東へ移動しようとしたその時……今にも消え入りそうな声が私の耳に入ってきた。


「か……もめ……」


 私の耳がその声を拾った瞬間、私はその声の方向を見る……今の……クオン!?
 クオンの声が聞こえたほうを見ると、瓦礫が組み合わさっており、丁度中心の辺りが空洞のようになっている。その空洞から声が聞こえた。

 あの中にいるの!?

 私は慌てて駆け寄ると、クオンの名前を呼んだ。


「クオン、そこにいるの!?」
「……カモメ……」


 今度ははっきりと声が聞こえる、やっぱりこの中にクオンがいるんだ……そうと解れば……。
 

「待ってて、今この瓦礫をどかすから……」
「待って、魔法を使うとこの瓦礫が……」
「大丈夫だよ、闇雷纏シュベルクレシェント!」


 さすがに魔法で吹き飛ばすわけには行かないので身体強化の魔法をしようし、瓦礫を一個ずつ崩れてクオンが潰れないよう気を付けながらどかしていく。
 慎重にどかしながら、なんとか、クオンが出てこれるだけの隙間をつくると、その隙間からクオンの様子を伺った。
 彼はボロボロになりながら奇跡的にその瓦礫の空洞の中に横たわっていた。
 運が良かったよ……まあ、クオンなら瓦礫の下敷きになっていてもそう簡単には死んだりしないだろうけど……。


「クオン大丈夫!?」
「あ……ああ、生きているよ」


 クオンは驚いた表情をしながら私の問いに答える……何をそんなに驚いているのか解らないけど、とりあえず、無事でよかった。


「今、治癒魔法をかけるね」
「ありがとう」


 私はクオンの近くに駆け寄ると、治癒魔法を使い、クオンの傷を治そうとする。
 

「クオン、何があったの?」
「それが、いきなり白の傭兵団に襲われたんだ」


 やっぱり、ラージェが他の仲間に知らせたのだろう。
 それで、ドーガのいるここが狙われたのだ……あ、そういえば……。

「クオン……」
「ごめん、カモメ……大事な赤い宝玉を奪われてしまった」
「え?」
「白の傭兵団の狙っていた宝玉だよ……必死に守ろうとしたんだけど奪われてしまったんだ」


 私はその言葉を聞いた瞬間、治癒魔法をかけるのを止めた。
 そして……。

「どうしたの、カモメ?」
「ねえ、クオン……私に言うことは他にもあるでしょ?」
「他に?えっと……ごめん、なんだろう……宝玉以上に大事な事なんてないと思うけど……」


 私はその言葉に、怒りを覚える。
 馬鹿にしてる……これってこんなにも怒りを覚えるものなんだ……。


「そう……ねえ?」
「うん?どうしたの?」
「私の仲間を馬鹿にしたこと……絶対許さないから」
「……え?」
暴風轟炎ヴィンドフラム!」
「え……なっ!?」


 私はクオンに対して合成魔法を使う……クオンはそれをギリギリのところで躱す……いや、クオンではない……ラージェだ。
 私の大事な仲間のクオンを馬鹿にして!
 絶対に許さないから!


「ぐ……あ……カモメ……なんで……?」


 まだ言うか……。


「気安く名前を呼ばないで!アンタはクオンじゃないでしょ!ラージェ!」
「………どこで気づいた?俺の変装は完璧なはずだ……いや、それよりもどこで俺の名前を聞いた?」
「どこで?……クオンが宝玉を一番大事だなんて言うわけないでしょ!そんなものより、まず最初にドーガの事を私に言うはずだよ!」


 そう、一緒にいたはずのドーガがここにはいない……その上、クレイジュも持っていなかった。
 だからおかしいと思った……あの優しいクオンがドーガの事をすぐに言わないわけがないんだ。
 いや、それだけではない……瓦礫に囲まれ怪我をして身動きが取れないのだろうと私は思った。
 だが、確かに見た目はボロボロだったのだが、クオンの怪我はそこまで酷くなかった……普通の人なら確かに大怪我に見えるのだけど、あのクオンがそれでドーガを助けに向かわないわけがない。

 私の知っているクオンならその程度の大怪我でおとなしくしてはいない……瓦礫を自力でどかし、ドーガを探しに行っているはずだ。

 だが、クオンはここから動いていなかったしドーガのことを一言も言わなかった。
 だから、偽物と確信したのだ。


「ちっ……意味が解らん、あんな餓鬼が宝玉より大事だというのか?いや、そうかお前たちはあの宝玉の価値を知らねぇのか」
「知らないよ……でも、知っていたとしても変わらない……クオンは何より先にドーガの事を心配したはずだよ」
「なるほど……そこまでの甘ちゃんなのか」
「違う……クオンの優しさはそんな陳腐なものじゃない……クオンを馬鹿にするな」
「おお……怖ぇ……さっきの魔法といい……俺じゃ相手にもならねぇな、その上、あの瓦礫をどかすほどの馬鹿力ときたもんだ」


 なるほど、さっきはそれで驚いたような表情をしていたのか。
 あれは身体強化のお陰だけど……馬鹿力って女の子に言う言葉じゃないよ!?


「なあ、嬢ちゃん……見逃してくれねぇか?」
「お断りだよ……クオンを馬鹿にしたこと後悔させてあげる」


 それに、ツバサとココアにしたことも……。


「おお、なんだ?嬢ちゃん、あの坊主にホの字なのか?」
「んぁあ!?……何言ってるのよ!?」
「おおー、当たりか……年頃だもんな……なかなかお似合いじゃねぇの?」
「う、うるさい!そんなんじゃないもん!」

 
 段々、私の顔が熱くなってくる……そんなんじゃないもん……確かにクオンは大事な仲間だけど……大事な……って、だああああああ!何考えてるんだ私!


「ほい、隙あり!」
「うわぁ!?」


 私が一人で悶えていると、ラージェがいつの間にか距離を縮めてきていた。
 目の前に迫っていたラージェの短剣が私の喉元目掛けて進んでくる。
 私はそれを、仰け反ることで何とか躱し、そのまま地面に手を付けて、足を振り上げラージェを蹴り飛ばす。


「うお、器用な事をするな嬢ちゃん」
「あっぶな……そっちは卑怯な事をするね、おっちゃん」
「誰がおっちゃんだ!」
「それより、本物のクオン達はどうしたの!」
「言うと思うか?」
「言いたくなるまでぶっ叩いてあげようか?」
「おー、怖い怖い……まあ、可哀そうだから教えてやろう……教えても可哀そうだけどな」
「どういう意味?」
「簡単なことさ……死んだよ、二人とも」


 そう言った瞬間、ラージェはこちらに走り寄ってくる。
 なるほど、また私の隙を突こうとしたのか。


「嘘だね……見え見えだよ!」
「なっ!?」


 私が振りぬいたバトーネを寸でのところで躱したラージェだが、予想通りの結果にならず驚いているようだった。


「なんだ嬢ちゃん、意外とドライなのかい?」
「まさか……クオンがあんたらなんかに簡単に殺されるわけないじゃない……嘘なのバレバレだよ」
「ちっ、随分と信頼してやがんのな?慌ててあの坊主を探しに来たようだったから効果があるかと思ったんだけどな……だがよぉ、確かに俺は坊主の死ぬところは見てねぇが……生きているとは限らんぜ?」
「どういう意味?」
「ルークードの旦那にはお前らの誰も敵わねぇってことさ」


 ルークード……確かレンたちが気をつけろって言っていた奴だね……そんなに強いのだろうか?
 いや、白の傭兵団の団長もかなり強かった……確かに危険がないわけではないだろう……でも、それでもクオンは絶対死んだりしない……だって、私とずっと一緒にいてくれる相棒だもん。


「それでもクオンは死んだりしないよ……で、クオン達は今どこにいるの?」
「知らねぇな」
「なら、さっさとアンタを倒して探しに行くよ」
「おいおい、その前に俺の質問にも答えてくれよ……俺は嬢ちゃんの質問に答えたんだぜ?」
「質問?」
「さっき聞いたろ?……俺の名前をどこできいた?」


 そう、再び問いかけてくるラージェ……その時の声のトーンは先ほどまでの軽口と違い圧のある声であった。
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