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2部 4章
第二幕 4章 45話 救援
しおりを挟む「レンは殺させない!」
「ああ?……ああ……アンナか……そうか、お前はそういう行動を取るよなぁ。何よりもレンが大事なんだからよぉ?」
「そうよ……レンを殺そうというのならガロ……あなたを殺すわ!」
アンナの眼が鋭くガロを見据える。
しかし、ガロはその眼光を受けてもどこ吹く風である。
悠然と笑い、アンナを見下していた。
「ハハハハ!お前如きが俺に勝てると思うのかよ?邪鬼になったこの俺に!」
「……っ」
レンの全力射出を受けて、片腕を失っているガロではあるが。
それでも、アンナは敵ではないと判断したのである。
確かに、アンナの強みは暗殺である。
最初の一撃こそ、アンナの最大の一撃なのだ。
その攻撃をガロは受けても物ともしていない……避けられたわけでも、アンナの手元が狂ったわけでもない。普通であれば確実に仕留められた一撃だったのだ……それなのに、ガロは死に至らなかった。
いや、大怪我とも呼ぶことが出来ない程度の怪我である。
これでは、ガロを倒すことは出来ない……それをもちろんガロもそしてアンナも理解していた。
「アンナ下がれ!」
「嫌よ!」
レンもそれに気づいたのか、アンナを制止するがアンナは首を横に振った。
「おーおー、仲のいいことで……そんだけ仲がいいなら一緒に死んじまえよ」
ガロが拳を振り上げ、アンナへと殴り掛かる。
アンナは持ち前のスピードでそれを避けようとするが、邪鬼になったガロはアンナのスピードよりさらに速く動く。
「嘘!?」
「アンナ!?」
「終わりだな」
目の前に迫ったガロの拳がアンナへと振り下ろされる。
しかし、アンナへと向かっていた拳が急に方向を変え、アンナから逸れ地面へと激突した。
「な、何……?」
「ちっ……まだ仲間がいたのかよ?」
「はあ……やっと追いついた……走るの早いわねぇ……アンタ」
「ローラ!」
アンナを救ったのはローラの鞭であった。
ローラは鞭を振るうと、アンナへと振り下ろされた拳に巻き付け、それを引き、拳の方向をズラしたのである。
「アンタらねぇ……こんなバカ力の奴相手に、なに真正面から戦ってるのよ」
「おい女……俺はいま機嫌が悪いんだ……邪魔すんなら殺すぜ?」
「はいはい、アンタみたいな馬鹿はみんなおんなじこというのね……そんなこと言われたからってハイそうですか、すみません。って帰るわけないでしょ?」
「ば……馬鹿だとぉ!?」
「見るからに馬鹿そうな顔してるし、実際馬鹿だし……間違ってないでしょ?」
「殺す!殺す!!」
「はいはい」
みるみると顔を真っ赤にしてローラを睨むガロ。
だがそんなガロをローラは相手にせず、それがさらにガロの怒りを買う。
「死ねぇえええ!!!」
拳を振り上げ、今まで以上に速いスピードでローラへと殴り掛かるガロ。
もちろんローラはガロより早くは動けない……ガロに追いつかれていたアンナにすら置いて行かれるローラである。
だが、ガロの拳がローラの元に届くことは無かった。
いや、ガロはローラの近くにもよれず、その前に盛大にすっころんだのだ。
「あら、足と元注意しないと危ないわよ?……ってもう遅いわね」
ローラが再び鞭をしならせ、ガロの進行方向にある地面に小さなくぼみを作ったのだ。
そこにガロが足をとられて盛大に転ぶこととなった。
「て、てめぇ……」
「あら、自分が悪いんじゃない、私はただそこに穴を掘りたかっただけよ?転びたくなかったら避ければいいのに」
「ふざけやがって!!!」
「あ、ほいっと」
再びローラが鞭を振るうと、今度はガロの頭上へと伸びた。
それを見て、ガロが頭上を見上げる……だが、そこには何もなかった……。
「ああん?一体何をしやがった!!」
「別に何もしてないわよ?鞭を振るいたかったから振るっただけ……アンタが勝手に何かあると思って見上げたんでしょ?ぷぷぷっ……ダサイわねぇ」
「あんだとぉ!?」
「ああ、でも上には何もないけど、下はそうでもないわよ?」
そう言って、下を指さすローラ、だが、ガロはそれをみて不敵に笑う。
「はっ、そうやって今度は下を見させようってんだろ?そうはいかねぇ……があっ!?」
「あ~あ、せっかく教えてあげたのに」
ローラの土魔法が、ガロの下で魔法陣を描き、そこから大地の槍がガロを目掛けて伸びていた。
下を見れば魔法陣が自分の足元に出来ていることに気づき、避けれたかもしれなかったガロであるが、下を見なかったガロはその槍を顎にクリーンヒットさせる。
「頑丈ねえ……普通なら今ので頭貫かれている筈なんだけど?」
「てめぇ……てめぇ……てめぇええ!!」
「どんどんと語彙が無くなっているわね?馬鹿が増すわよ?」
「うるせぇ!!テメェからまず殺してやる!絶対殺してやる!!!」
「それは無理よ」
「ああ?ふざけんな、テメェの攻撃じゃ俺は殺せねぇぞ!俺が負けるわけねぇだろお!!」
「そうね」
ガロの訴えに、ローラはコクリと頷く。
さも、当然のことねと言わんばかりにあっさりと頷いたローラを見てガロは困惑する。
「でも、私の狙いは別だもの」
「なんだとぉ?どういう意味だ!」
「私の狙いはアンタの注意をこっちに向けることと時間稼ぎよ」
「時間稼ぎだと?まだ仲間が来るってのか?だがよぉ、テメェら如きが何人来ようと……」
「いいや、チェックメイトだ……ガロ」
ガロの言葉を遮ったのはレンであった。
ローラがガロの注意と時間を稼いでいる間に、レンは先ほど消費したクロスボウの弦を張り替えていたのだ……そう、それにより、もう一発……全力射出が撃てる。
そして、今度こそ確実に仕留める……そう言わんがばかりに、レンはガロのすぐ真後ろまで近寄っていた。
そして……。
「レ、レン!?」
「さらばだ……全力射出!」
ガロの後頭部に突き付けられたクロスボウの引き金をレンは引く。
そして、先ほどと同じようにすさまじい威力の全力射出がガロの頭部を吹き飛ばした。
全力射出の轟音が鳴りやむと……辺りは静かになる……。
レンの前には頭部を失い、体だけになったガロの死体が横たわっていた。
それを見てレンは一つ溜息を吐くと……。
「俺もお前が嫌いだ」
そう呟き、その場に崩れ落ちるのであった。
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