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2章
ビルトデルト
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カモメがフードの男の元へ付いた頃、クオンはヴァンパイアの少年ビルトデルトと戦いを始めていた。
ビルトデルトの薙ぎ払いをクオンが受け止め、クオンの袈裟斬りをビルトデルトが避ける。
どちらも力よりも早さを重視した戦い方の為、攻撃が当たらずにいた。
「ふぅん、人間の割には結構やるね、おにーさん」
「君もね・・・さすが、ヴァンパイアだ歳を重ねているだけはある」
お互いに皮肉を交えながら褒めあい、戦いを続ける。
互いの攻撃を寸でのところで躱しながら次の攻撃を繰り出す二人に周りにいた黄泉鴉たちは近づけずにいた。
「そろそろ、ウォーミングアップは終わりにするよ、おにーさん」
「こっちもだ」
そう言うと、二人のスピードがさらに増した。
すでに周りにいる黄泉鴉たちには二人がどんな攻撃をしているのかも見えないほど早くなっている。
その光景に恐怖を抱いたのか、その場から離れるも者もいた・・・賢明である。
「ちっ・・・本当についてきたよ、僕のスピードに。」
ビルトデルトは目の前で自分の攻撃を捌き、隙あれば攻撃してくるクオンに悪態をつく。
ビルトデルトはヴァンパイアの中でもスピードには自信があった。
少年のような見た目なのも相手を油断させ、一瞬で殺せるという利点があるからだ。
まあ、中身が子供のようだからというのもあるかもしれないが。
彼が好きなものは面白いこと、今回、黄泉鴉に協力しているのも別に構成員だからというわけではない。
ただ単に、フードの男のやろうとしていることが面白そうだったというのと好物を食べれるからだ。
彼らヴァンパイアの好物は人間の血である。
それも、ビルトデルトが好むのは深い絶望を抱いた人間の血だ。
その為、この黄泉鴉の集団は彼にとっては高級豚が群れを成しているようにも見えたのだ。
フードの男は取引を持ちかけた、協力するのであれば自分たちの血を上げようと。
ビルトデルトは二つ返事でイエスと答えた。
彼にとっては最高級の料理が毎日食べられるということなのだ、その上、ツァインを滅ぼせばツァインの国民は絶望する。
その国民の血を啜ることもできるのだ、断るはずがない。
そして、そんな彼が一番嫌いなのは邪魔をされることである。
以前、ウェアウルフの集団を使い、ツァインの人たちを徐々に追いつめ絶望させようとしていた。
だが、それを邪魔したのは闇の魔女である。
ビルトデルトにとってそれは一番我慢できないことであったのだ、しかも、自分が持っていた高級な魔導具を二個も破壊されてしまった。
大損害である。
「とっとと、おにーさんを殺して、おねーさんを八つ裂きにしないと気が済まないんだよね・・・だから邪魔しないで欲しいなぁ」
「断る」
ビルトデルトが今、一番したいことはカモメを殺すこと、それを邪魔するクオンに苛立ちを覚えていた。
「これを喰らってもそんなことが言えるかな!」
そう言ったビルトデルトが持つ剣が白く輝いた。
そして、振り下ろされたその剣に危険を感じ、クオンは受け止めず、後ろに飛びのいてそれを躱す・・・だが。
地面に近づいた瞬間、ビルトデルトの剣から光の波がクオンへと飛んできた。
「がぁっ!」
光の波の直撃を受けたクオンはそのまま後ろへと吹き飛ばされた。
「これは・・・」
「僕らヴァンパイアが苦手とする光の魔法さ!」
本来、ヴァンパイアは光の魔法を苦手としている、その為、光の魔法を使う事は出来ず、抵抗力もあまりないのだが・・・。
「これは魔剣でね・・・この剣を持っていると光の魔法の抵抗力が上がってさらに光の魔法を使えるし、剣に纏わせることもできるのさ!」
「魔剣・・・」
つまりこのヴァンパイアに弱点は無いということだ。
とはいえ、元々魔法は風の魔法しか使えないクオンである。
その風の魔法も最近、カモメに教えてもらいながらやっと使えるようになったばかりだ。
普通に使ってもあまり戦闘の役には立たない。
普通に使っても・・・であるが。
クオンは器用である。
戦闘では剣を使い、敵の考えを読み、今回のように追跡なども出来たりする。
そして、戦闘以外でも料理ができたり、裁縫ができたりと大体のことはなんでもできたりするのだ。
そして、今回覚えた風の魔法。
普通に使えば大して威力を出せない、せいぜい簡単なバリアを張って敵の攻撃を和らげるくらいだろう。
だが、それではせっかく使えるのにもったいないとクオンは思った。
そこで・・・
「実戦で使うのは初めてだけど・・・っ!」
「なっ!?」
クオンが風の魔法を唱える、するとビルトデルトが驚愕した。
それもそのはずだ、先ほどまでとは比べ物にならないスピードでクオンが移動したのだ。
ビルトデルトの眼にもクオンが一瞬で消え、自分の目の前に現れたように見えた。
そして、クオンの剣がビルトデルトに当たる。
「くっ」
ビルトデルトがクオンを見ると・・・すでにそこにクオンの姿はなかった。
自分の背後にすでに移動しているのだ。
そして斬る、また、消えて斬る、消えて斬る、消えて斬る、斬る斬る斬る。
「なんなんだよ!一体何が起きてるんだよ!」
ビルトデルトが悲鳴を上げる。
簡単に言うとクオンが風の魔法を使い始めたのだ。
ただ、クオンの使っている魔法は身体能力向上の魔法・・・というわけではない。
身体強化の魔法ではここまで劇的には強くならないのだ、クオンの魔力では。
では、クオン何をしてここまでの速さを手に入れているのかというと、先ほども言ったがクオンは器用だ。
普通の魔導士であれば、カモメのように自分の掌に魔力を発生させてそれを放つというのが主流である。
というより、普通の人は掌に魔力を溜めるの精一杯なのだ。なぜかというと他の場所だと制御が難しい。
以前、口から魔法を放とうとして魔力制御に失敗し歯をすべて失ったという魔法使いがいた。
その魔法使いは二度と掌以外で魔法を使おうとはしなかった。
しかしクオンは掌以外の場所で魔力を制御することに成功したのだ。
そう、その場所は足の裏である。
クオンは足の裏で風の魔法を使い、風の爆発を利用して速度を上げているのだ。
もちろん、制御を間違えればそのままどこかへ突っ込んでいってしまう。クオンも練習し始めたことは誤って色んな所に突っ込んだ。
だが、風の魔法をクッションにしたため、怪我にはつながらなかったらしい。
そして今は完全にその力を制御している。
これを使えば、普段の2倍以上の速度で移動できるのだ。
その為、クオンと同じくらいの速度で動いていたビルトデルトでも捕らえることができないのである。
「くそう!どこだよ!どこにいるんだよ!!」
クオンはその速度を使って、常にビルトデルトの死角に移動している。
その為、今のビルトデルトはどこにいるかもわからない相手に斬り刻まれているのだ。
だが・・・。
「ああ、もううざったい!魔剣よ!!!」
魔剣から白い光が辺りへと降り注いだ。
範囲攻撃である、これならばクオンがどこにいようと攻撃できるのだ。
風の魔法を使ってクオンは素早く範囲外に移動した。
「そこにいたね・・・ひどいなぁ、子供を斬り刻もうとするなんて・・・」
「・・・傷がない?」
「正確には治ったのさ・・・僕らヴァンパイアには超再生能力があるからね」
そう、クオンの武器は相手の魔剣と違い普通の剣である。
ヴァンパイアに深いダメージを与えらるほどの威力は出せないのだ。
その為、小さなダメージを重ねていこうと思ったのだが、超再生能力という能力の為それもかなわなくなった。
「おにーさんのスピードはすごいと思うけど、その武器じゃ僕は倒せないよ?」
「・・・・・・」
クオンは自分の武器を見つめる。
確かにこの剣は普通の剣である、銀の武器でもないし、彼の魔剣のようなものでもない。
その上、光の魔法を使うことのできないクオンはこういう相手に決定打を持っていないのだ。
普通の魔物や人間相手であれば問題ないのだが、このヴァンパイアやこの先また魔族と戦うことになった時、クオンは戦えなくなる。
このままではまずいと色々と剣を探しては見たのだが、魔剣なんていうのはそうそう見つからず、あっても店に売られるようなものはそこまで良いものではない。
簡単な自己強化魔法がかかっている程度なのだ、しかも、それでも馬鹿みたいに高い。
ならば、自分で探すしかないと思っていたのだが、逃亡生活だったため、ダンジョンに潜ることも出来ず後回しにしてしまっていた。
さて、どうしたものか・・・ビルトデルトの言う通り、今の僕にはあいつを倒す術はない・・・ん?
ふと、一つ気づいたことがある。
クオンはその思い付きにニヤリと笑い、ビルトデルトを見た。
「おや、気が触れちゃった?まあ、仕方ないよね、絶対的強者には勝てないものさ・・・おにーさん頑張ったと思うよ?」
「いや、もう少し頑張ってみようと思うんだ」
「まだ、諦めないんだ?しつこいねぇ・・・どうやって僕を倒すつもりさ?」
「それはお楽しみかな」
そう言うとクオンは再び風の魔法を使い移動する。
瞬時に間合いを詰めたクオンはビルトデルトの剣を持たない右手首に一撃を放つ。だが、ヴァンパイアの身体は硬く傷をつけるのが精一杯だった。
(さすがに切り落とすのは無理か)
「あはは、なるほど!細い手首ならいけると思ったのかな?残念だったね!まあ、切り落とされても再生するけどね!」
勝ち誇ったように高笑いをするビルトデルトに再び攻撃を仕掛けるクオン。
何度も何度も同じ右手首に攻撃を仕掛けるクオン。
再生をするとはいえ痛みは感じるため鬱陶しく苛立ちを覚えるビルトデルトである。
「何度も何度も同じ所を狙ってれば行動を読まれるとは思わないのかな?やっぱり人間は馬鹿だね!」
ビルトデルトはクオンが狙う右手とは逆の左手に持った魔剣を振るう。
「この瞬間を待っていたんだ!」
先程、ビルトデルトが言ったように同じ行動を繰り返していれば行動を読まれる。だけどそれは逆に相手の行動を誘導できるということだ。
クオンの力だけでは手首を切り落とすことは出来ないけど相手の剣を振るう力が合わされば・・・
「ぎゃああああ!」
クオンの考えは的中し、見事ビルトデルトの左手首を切り飛ばした。
「くそっ!よくも・・・でも、さっきも言ったけどこんなのすぐ再生するよ!」
「そうだね、でも、狙いはそれじゃないんだ」
「・・・え?」
クオンは風の魔法を使い移動する、先程切り飛ばしたビルトデルトの左手首の所へと・・・いや、その手首が持っていた魔剣のもとへと。
「それは僕の!」
「確かヴァンパイアは光の魔法が苦手なんだよね、そして、この剣は光の魔法を宿してる。この剣を手離した君は光の耐性も下がったはずだ・・・違うかな?」
「う・・・待って、話し合おうよ・・・ね?」
クオンは再び移動し、ビルトデルトの前にたった。
「ひっ!」
今まで大したダメージにならずともクオンの攻撃を避けることが出来なかったビルトデルトは次に繰り出すクオンの攻撃に恐怖を覚え尻餅を着いた。
「ま、待って、もうツァインの人を襲ったりしないし黄泉鴉にも手を貸さないから!」
「そんな話を信じるのはカモメくらいだよ」
「なら、魔女のおねーさんを呼んで・・・ぎゃ!」
「呼ぶわけないだろ・・・魔剣よ!」
クオンがビルトデルトに魔剣を突き刺し魔力を込めると魔剣が白く輝きだした。光の魔法が発動したのである。
「ぎゃああああ!」
光の魔法を体内から放出されたビルトデルトは灰へと姿を変えた。灰の中にはビルトデルトの魔石が転がっていた。
「いい剣だ」
クオンはそう呟くと灰の中から魔剣の鞘を拾い魔剣を納めた。
「カモメは・・・」
そう思いカモメが向かった方へ視線を向けるとカモメは黄泉鴉達にたかられていた。
たかってくる黄泉鴉を魔法で凪ぎ払うもまるでゾンビのように起き上がってくる黄泉鴉達に怖いのか涙目になりながらも魔法を放っていた。
その光景を見たクオンはあわててそちらに駆け出すのだった。
ビルトデルトの薙ぎ払いをクオンが受け止め、クオンの袈裟斬りをビルトデルトが避ける。
どちらも力よりも早さを重視した戦い方の為、攻撃が当たらずにいた。
「ふぅん、人間の割には結構やるね、おにーさん」
「君もね・・・さすが、ヴァンパイアだ歳を重ねているだけはある」
お互いに皮肉を交えながら褒めあい、戦いを続ける。
互いの攻撃を寸でのところで躱しながら次の攻撃を繰り出す二人に周りにいた黄泉鴉たちは近づけずにいた。
「そろそろ、ウォーミングアップは終わりにするよ、おにーさん」
「こっちもだ」
そう言うと、二人のスピードがさらに増した。
すでに周りにいる黄泉鴉たちには二人がどんな攻撃をしているのかも見えないほど早くなっている。
その光景に恐怖を抱いたのか、その場から離れるも者もいた・・・賢明である。
「ちっ・・・本当についてきたよ、僕のスピードに。」
ビルトデルトは目の前で自分の攻撃を捌き、隙あれば攻撃してくるクオンに悪態をつく。
ビルトデルトはヴァンパイアの中でもスピードには自信があった。
少年のような見た目なのも相手を油断させ、一瞬で殺せるという利点があるからだ。
まあ、中身が子供のようだからというのもあるかもしれないが。
彼が好きなものは面白いこと、今回、黄泉鴉に協力しているのも別に構成員だからというわけではない。
ただ単に、フードの男のやろうとしていることが面白そうだったというのと好物を食べれるからだ。
彼らヴァンパイアの好物は人間の血である。
それも、ビルトデルトが好むのは深い絶望を抱いた人間の血だ。
その為、この黄泉鴉の集団は彼にとっては高級豚が群れを成しているようにも見えたのだ。
フードの男は取引を持ちかけた、協力するのであれば自分たちの血を上げようと。
ビルトデルトは二つ返事でイエスと答えた。
彼にとっては最高級の料理が毎日食べられるということなのだ、その上、ツァインを滅ぼせばツァインの国民は絶望する。
その国民の血を啜ることもできるのだ、断るはずがない。
そして、そんな彼が一番嫌いなのは邪魔をされることである。
以前、ウェアウルフの集団を使い、ツァインの人たちを徐々に追いつめ絶望させようとしていた。
だが、それを邪魔したのは闇の魔女である。
ビルトデルトにとってそれは一番我慢できないことであったのだ、しかも、自分が持っていた高級な魔導具を二個も破壊されてしまった。
大損害である。
「とっとと、おにーさんを殺して、おねーさんを八つ裂きにしないと気が済まないんだよね・・・だから邪魔しないで欲しいなぁ」
「断る」
ビルトデルトが今、一番したいことはカモメを殺すこと、それを邪魔するクオンに苛立ちを覚えていた。
「これを喰らってもそんなことが言えるかな!」
そう言ったビルトデルトが持つ剣が白く輝いた。
そして、振り下ろされたその剣に危険を感じ、クオンは受け止めず、後ろに飛びのいてそれを躱す・・・だが。
地面に近づいた瞬間、ビルトデルトの剣から光の波がクオンへと飛んできた。
「がぁっ!」
光の波の直撃を受けたクオンはそのまま後ろへと吹き飛ばされた。
「これは・・・」
「僕らヴァンパイアが苦手とする光の魔法さ!」
本来、ヴァンパイアは光の魔法を苦手としている、その為、光の魔法を使う事は出来ず、抵抗力もあまりないのだが・・・。
「これは魔剣でね・・・この剣を持っていると光の魔法の抵抗力が上がってさらに光の魔法を使えるし、剣に纏わせることもできるのさ!」
「魔剣・・・」
つまりこのヴァンパイアに弱点は無いということだ。
とはいえ、元々魔法は風の魔法しか使えないクオンである。
その風の魔法も最近、カモメに教えてもらいながらやっと使えるようになったばかりだ。
普通に使ってもあまり戦闘の役には立たない。
普通に使っても・・・であるが。
クオンは器用である。
戦闘では剣を使い、敵の考えを読み、今回のように追跡なども出来たりする。
そして、戦闘以外でも料理ができたり、裁縫ができたりと大体のことはなんでもできたりするのだ。
そして、今回覚えた風の魔法。
普通に使えば大して威力を出せない、せいぜい簡単なバリアを張って敵の攻撃を和らげるくらいだろう。
だが、それではせっかく使えるのにもったいないとクオンは思った。
そこで・・・
「実戦で使うのは初めてだけど・・・っ!」
「なっ!?」
クオンが風の魔法を唱える、するとビルトデルトが驚愕した。
それもそのはずだ、先ほどまでとは比べ物にならないスピードでクオンが移動したのだ。
ビルトデルトの眼にもクオンが一瞬で消え、自分の目の前に現れたように見えた。
そして、クオンの剣がビルトデルトに当たる。
「くっ」
ビルトデルトがクオンを見ると・・・すでにそこにクオンの姿はなかった。
自分の背後にすでに移動しているのだ。
そして斬る、また、消えて斬る、消えて斬る、消えて斬る、斬る斬る斬る。
「なんなんだよ!一体何が起きてるんだよ!」
ビルトデルトが悲鳴を上げる。
簡単に言うとクオンが風の魔法を使い始めたのだ。
ただ、クオンの使っている魔法は身体能力向上の魔法・・・というわけではない。
身体強化の魔法ではここまで劇的には強くならないのだ、クオンの魔力では。
では、クオン何をしてここまでの速さを手に入れているのかというと、先ほども言ったがクオンは器用だ。
普通の魔導士であれば、カモメのように自分の掌に魔力を発生させてそれを放つというのが主流である。
というより、普通の人は掌に魔力を溜めるの精一杯なのだ。なぜかというと他の場所だと制御が難しい。
以前、口から魔法を放とうとして魔力制御に失敗し歯をすべて失ったという魔法使いがいた。
その魔法使いは二度と掌以外で魔法を使おうとはしなかった。
しかしクオンは掌以外の場所で魔力を制御することに成功したのだ。
そう、その場所は足の裏である。
クオンは足の裏で風の魔法を使い、風の爆発を利用して速度を上げているのだ。
もちろん、制御を間違えればそのままどこかへ突っ込んでいってしまう。クオンも練習し始めたことは誤って色んな所に突っ込んだ。
だが、風の魔法をクッションにしたため、怪我にはつながらなかったらしい。
そして今は完全にその力を制御している。
これを使えば、普段の2倍以上の速度で移動できるのだ。
その為、クオンと同じくらいの速度で動いていたビルトデルトでも捕らえることができないのである。
「くそう!どこだよ!どこにいるんだよ!!」
クオンはその速度を使って、常にビルトデルトの死角に移動している。
その為、今のビルトデルトはどこにいるかもわからない相手に斬り刻まれているのだ。
だが・・・。
「ああ、もううざったい!魔剣よ!!!」
魔剣から白い光が辺りへと降り注いだ。
範囲攻撃である、これならばクオンがどこにいようと攻撃できるのだ。
風の魔法を使ってクオンは素早く範囲外に移動した。
「そこにいたね・・・ひどいなぁ、子供を斬り刻もうとするなんて・・・」
「・・・傷がない?」
「正確には治ったのさ・・・僕らヴァンパイアには超再生能力があるからね」
そう、クオンの武器は相手の魔剣と違い普通の剣である。
ヴァンパイアに深いダメージを与えらるほどの威力は出せないのだ。
その為、小さなダメージを重ねていこうと思ったのだが、超再生能力という能力の為それもかなわなくなった。
「おにーさんのスピードはすごいと思うけど、その武器じゃ僕は倒せないよ?」
「・・・・・・」
クオンは自分の武器を見つめる。
確かにこの剣は普通の剣である、銀の武器でもないし、彼の魔剣のようなものでもない。
その上、光の魔法を使うことのできないクオンはこういう相手に決定打を持っていないのだ。
普通の魔物や人間相手であれば問題ないのだが、このヴァンパイアやこの先また魔族と戦うことになった時、クオンは戦えなくなる。
このままではまずいと色々と剣を探しては見たのだが、魔剣なんていうのはそうそう見つからず、あっても店に売られるようなものはそこまで良いものではない。
簡単な自己強化魔法がかかっている程度なのだ、しかも、それでも馬鹿みたいに高い。
ならば、自分で探すしかないと思っていたのだが、逃亡生活だったため、ダンジョンに潜ることも出来ず後回しにしてしまっていた。
さて、どうしたものか・・・ビルトデルトの言う通り、今の僕にはあいつを倒す術はない・・・ん?
ふと、一つ気づいたことがある。
クオンはその思い付きにニヤリと笑い、ビルトデルトを見た。
「おや、気が触れちゃった?まあ、仕方ないよね、絶対的強者には勝てないものさ・・・おにーさん頑張ったと思うよ?」
「いや、もう少し頑張ってみようと思うんだ」
「まだ、諦めないんだ?しつこいねぇ・・・どうやって僕を倒すつもりさ?」
「それはお楽しみかな」
そう言うとクオンは再び風の魔法を使い移動する。
瞬時に間合いを詰めたクオンはビルトデルトの剣を持たない右手首に一撃を放つ。だが、ヴァンパイアの身体は硬く傷をつけるのが精一杯だった。
(さすがに切り落とすのは無理か)
「あはは、なるほど!細い手首ならいけると思ったのかな?残念だったね!まあ、切り落とされても再生するけどね!」
勝ち誇ったように高笑いをするビルトデルトに再び攻撃を仕掛けるクオン。
何度も何度も同じ右手首に攻撃を仕掛けるクオン。
再生をするとはいえ痛みは感じるため鬱陶しく苛立ちを覚えるビルトデルトである。
「何度も何度も同じ所を狙ってれば行動を読まれるとは思わないのかな?やっぱり人間は馬鹿だね!」
ビルトデルトはクオンが狙う右手とは逆の左手に持った魔剣を振るう。
「この瞬間を待っていたんだ!」
先程、ビルトデルトが言ったように同じ行動を繰り返していれば行動を読まれる。だけどそれは逆に相手の行動を誘導できるということだ。
クオンの力だけでは手首を切り落とすことは出来ないけど相手の剣を振るう力が合わされば・・・
「ぎゃああああ!」
クオンの考えは的中し、見事ビルトデルトの左手首を切り飛ばした。
「くそっ!よくも・・・でも、さっきも言ったけどこんなのすぐ再生するよ!」
「そうだね、でも、狙いはそれじゃないんだ」
「・・・え?」
クオンは風の魔法を使い移動する、先程切り飛ばしたビルトデルトの左手首の所へと・・・いや、その手首が持っていた魔剣のもとへと。
「それは僕の!」
「確かヴァンパイアは光の魔法が苦手なんだよね、そして、この剣は光の魔法を宿してる。この剣を手離した君は光の耐性も下がったはずだ・・・違うかな?」
「う・・・待って、話し合おうよ・・・ね?」
クオンは再び移動し、ビルトデルトの前にたった。
「ひっ!」
今まで大したダメージにならずともクオンの攻撃を避けることが出来なかったビルトデルトは次に繰り出すクオンの攻撃に恐怖を覚え尻餅を着いた。
「ま、待って、もうツァインの人を襲ったりしないし黄泉鴉にも手を貸さないから!」
「そんな話を信じるのはカモメくらいだよ」
「なら、魔女のおねーさんを呼んで・・・ぎゃ!」
「呼ぶわけないだろ・・・魔剣よ!」
クオンがビルトデルトに魔剣を突き刺し魔力を込めると魔剣が白く輝きだした。光の魔法が発動したのである。
「ぎゃああああ!」
光の魔法を体内から放出されたビルトデルトは灰へと姿を変えた。灰の中にはビルトデルトの魔石が転がっていた。
「いい剣だ」
クオンはそう呟くと灰の中から魔剣の鞘を拾い魔剣を納めた。
「カモメは・・・」
そう思いカモメが向かった方へ視線を向けるとカモメは黄泉鴉達にたかられていた。
たかってくる黄泉鴉を魔法で凪ぎ払うもまるでゾンビのように起き上がってくる黄泉鴉達に怖いのか涙目になりながらも魔法を放っていた。
その光景を見たクオンはあわててそちらに駆け出すのだった。
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