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2章
魔人
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「お二人はワタクシの後ろに!」
エリンシアがコハクとリーナを庇いながらも銃を構えると男はエリンシアの方に気が付く。
「なぜここに!?・・・そちらのエルフの少年は・・・そうですか、あの魔女たちはエルフの少女を助けるための囮ですか・・・。」
「あら、だとしたらどうしますの?」
「その少女の力は惜しいですが、あの魔女が来る前に邪魔は排除しなければ・・・旋風刃《ヴィルベルサイフ》!」
風の刃がエリンシア達に襲い掛かる。
「お二人とも私の後ろかでないでくさいまし!光壁《ライトシールド》!」
エリンシアは光の壁を張り風の刃を防いだ。
「なに!?」
「あら、大したことないんですの・・・ね!」
科の背刃を防いだエリンシアは、疾風のごとく男の懐に入り拳を放った。
「いけない、その男には風の結界が!」
コハクが叫ぶ通りにエリンシアの拳は風の結界に阻まれてしまった。
エリンシアの一撃はとても重い攻撃だったのか鈍い音が洞窟の中に木霊する。
「ふ、ふふふ、危ない危ない、少し焦ってしまいましたよ」
「意外と堅いですわね・・・なら、結界ごと蹴り飛ばしますわ!」
そう言い、エリンシアは風の結界ごと男を蹴り飛ばした。
エリンシアの蹴りは風の結界を壊せはしなかったもののそのまま押しのけ男は結界を纏ったまま吹き飛ばされる。
「な、なんて出鱈目な・・・」
男は驚愕する、風の結界を破られるわけではなくそのまま蹴り飛ばされるなど初めての経験だった。
そして、男は自分を蹴り飛ばした相手を見て息を飲む。
エリンシアは魔導銃を構え魔力を込めていた。
「炸裂弾!」
炎の魔力を込めた弾丸は男の風の結界に当たると炸裂し風の結界を壊す。
魔導銃で壊せるのであれば蹴らずに最初から撃てばよかったのではと思うかもしれないが、近くで炸裂させるともしかしたらコハクたちに怪我をさせる可能性があったためエリンシアは一度敵を離してから魔導銃を使うことにしたのだ。
「もう一発ですわ、炸裂弾」
「がああああ!」
そして、二発目の弾丸は風の結界に阻まれることなく男へと命中した。
「思ったより弱いですわね?カモメさん一体何をしているんですの?」
この程度の相手を逃すほど外にいるヴァンパイアは強かったのだろうか?と少し外にいる二人を心配し始めるエリンシア。
だが、そのことに気を取られたが為に男が魔法陣に這って移動していることに気が付くのが遅れてしまった。
「!・・・しまったですわ!」
男が魔法陣に近づいているのに気づいたエリンシアが魔導銃を放つ、だが、魔法陣が赤く光り、その光が弾を防ぎ男に届く前に弾かれた。
「それなら、炸裂弾」
先程の風の結界と同じように炎の魔法を込めた魔弾で結界を破ろうとするエリンシアだったが、魔弾が炸裂するも魔法陣から出る障壁は敗れることなく魔弾をも弾いた。
そして、その様子を見た男が傷つきながらもニヤリと笑う。
「ふ、ふふふ・・・魔人さえ復活すれば・・・あなた達など・・・この目でツァインが滅ぶところが見れないのは残念ですが仕方ありません・・・魔人よ!我が肉体を贄とし今再びこの地に君臨せよ!」
魔法陣の輝きが増し、赤い光が辺りを包み込む。
大地が唸り始め、洞窟がその揺れに耐えきれず崩壊を始めた。
このままでは、自分たちも生き埋めになってしまうと思ったエリンシアがコハクとリーナとヒスイに声を掛ける。
「洞窟が崩れますわ!逃げますわよ!!」
そう言って、エリンシア達は洞窟の外に退却した。
黄泉鴉たちを浄化したカモメ達が洞窟の中へフードの男たちを追って入ろうとすると、突如大きな地震が起こり面を喰らう。
「じ、地震、中のエリンシア達は大丈夫!?」
エリンシア達がペッちゃんこになっちゃうよと思い焦ったが、中から外に向かって走ってくる影を見つけて安堵した。
「エリンシア!」
「カモメさん!もうっ、このおドジさん!あの男を取り逃がすなんてなにやってますの!」
「う・・・ごめん、ちょっと予想外の事があって、それよりそっちの女の子が?」
「ええ、リーナさんですわ」
「さすがエリンシア、よかったね、コハク」
「ありがとうございます」
コハクは少し申し訳なさそうな顔でお礼を言った。それが気になって聞いてみると
「どうしたの?」
「あの、ごめんなさい。ヴァンパイアがいると聞いた時に俺はあなた達を囮にしてでもリーナを助けようとしました。あんなに優しくしてくれたのに・・・」
「へ?」
どういうことだろ?元から囮を買って出たのは私たちだ。何か問題があるのかな?
「えっと、どゆこと?」
『普通ならヴァンパイアは危険な相手よ。コハクはあなた達を危険な目に遭わせたことを知っても見捨てようとしたということでしょう』
「あ、なるほど。・・・えっと、コハク」
「はい」
「気にしなくていいよ、ヴァンパイアはクオンが倒したし、私たちはそれくらいなら問題ないしね」
「え・・・ヴァンパイアを倒した!?」
「すごい・・・」
信じられないという顔をしながらも周りに何もいないこの状況がすでにその証拠になっているのだ。
信じるしかないだろう。
「まったく、それより、怪我はしてませんの?」
「あ、うん、大丈夫だよ」
「そう、ならいいですわ」
エリンシアは過保護だなぁと思いながらも鳴りやんだ地震の発生源を訪ねる。
「ねえ、この地震って」
「あの男が魔人を復活させようとした結果ですわ」
「ってことは、失敗?」
フードの男は崩れる洞窟の中から出てくる様子がない、ってことは中でぺちゃんこになっちゃてるんじゃないだろうか?
そう思っていると、一際大きな揺れが一回、大地が上下に揺れたような感覚が私たちを襲うと、目の前の洞窟は完全に崩壊した。
これでは中の男は完全に死んでしまっているだろう。
彼は一体どんな恨みが王様にあったんだろうか?結局よくわからないままだった。
そう思っていると瓦礫のしたから嫌な感じがする。
クオンとエリンシアも感じ取ったのか臨戦態勢をとる。
「リーナとコハクはヒスイと一緒に離れてて!」
「は、はい!」
瓦礫の一部が大きく揺れると崩れ落ちた、そしてその下から一人の男が立ち上がる。
フードの男だ。あの崩落から生き残ったの?
予想外のタフさだと思っているとそうではないことが分かった、男の体が赤く光っている。
嫌な感じの正体はあれか・・・。
「フヒ、ヒヒヒ・・・ワが肉体がホシいか・・・イイですよ・・・私のニクタイを使ってワが復讐を・・・」
ブツブツと何かを言っている男がいきなりカクンと首を下に向けた。
すると、彼の体がボコボコと音を上げながら隆起する。
「気持ちわるっ」
『カモメ油断をしては駄目よ!』
「う、うん!」
隆起した男の体が段々と形を変え整って行く。
赤いからだをした、角を二本生やし、悪魔のような形をした赤い翼の生き物がその場に現れるのだった。
「魔人・・・」
クオンがぽつりと言葉を溢す。
「ひっ」
リーナが悲鳴を上げた、それはそうだ。私だってあの魔人を見ていると恐怖を覚える。
色々な魔物と戦ったりしている私やクオン、エリンシアですら冷や汗を掻くのだ、今まで平和に暮らしていた二人には死そのものがそこに立っているように感じるだろう。
『やるしかないわね』
「うん」
この化け物から逃げるのは困難だろう、なら倒すしかない。
「魔人さん、寝起きの所悪いけどまた眠ってもらうよ!氷牙咆哮《アイシクルルジート》!」
私は氷を纏った風の咆哮の合成魔法を魔人に向けていきなり放った。
完全に不意を突いたし、魔人はこちらすら向いていない。凍らして一気に砕いてしまおう。
そう思ったのだが、魔人は私の魔法との間に障壁を発生させ、私の合成魔法を軽々防いだ。
「げ・・・」
「あれを軽々防ぐんですのね」
「厄介だね」
私達が口々に言うと、いきなり攻撃されてもこちらに興味がないのか魔人は明後日の方向を見たままだった。
一体、どこ見ているんだろう。
東南の方になにがあったっけ・・・そう思い考えると東南にあるものを思い出し焦る。
「くっ・・・魔水風圧弾!」
私は慌てて、貫通力のある魔法で障壁を突き破り魔人を倒そうとするが、魔人はそれを防ごうとはせず躱し、翼で飛び始めた。
「まずいっ」
「何がまずいんですの!」
「あいつ、さっきからずっとツァインの方を見てる!」
そう、あいつが見ているのはツァインのある方角だ。
そして、あの魔人を蘇らしその肉体を上げた男はツァインに・・・王様に恨みがあると言っていた。
ということは・・・
魔人は静かに上へと飛翔し、とてつもないスピードで東南へと飛び去ってしまった。
しまった・・・このままだとツァインが・・・。
ウェアウルフなんて比じゃない、さっきのヴァンパイアよりも脅威だとわかる魔人がツァインに向かって行ってしまった。
「あのスピードじゃ追いつけない」
私は風の魔法で追いかけようとしたが私のスピードじゃ追いつけそうになかった・・・どうしよう。
「急いで戻らないとツァインが滅ぼされちゃう!」
「何か方法は・・・」
「コハクさん、エルフの貴方でしたら近道とか知りませんですの!?」
エリンシアが無茶を言う、それどころかヴァイスの森から出たことのないコハクたちにここからの近道なんて分かるわけがないよ・・・大分混乱してるね・・・私もだけど。
「いえ、さすがに空を飛ぶ以上の近道は・・・」
「あ、あの!」
慌てている私たちにリーナが声を掛けた。
「私の空間魔法でヴァイスの森までなら移動できます、ここよりは近いので少しは近道になるかと・・・」
「リーナ!」
「兄様、この方たちは私たちを救ってくれました・・・隠し事はしたくありません」
「空間魔法?」
「はい、空間を操る魔法のことです」
とんでもない魔法である、簡単にリーナに説明してもらったがその魔法を使えばウェアウルフ事件の時に私たちが壊した、あの高級な魔導具と同じことができるらしい。
しかし、リーナが言ったことのある場所でないと正確に飛ばせない為、ヴァイスの森が限界だということだ。
コハクをツァインに飛ばした時はランダムテレポートらしく、今使えばもしかしたら近くなるかもしれないが、逆に遠くなる可能性もあるということだった。
その上、消費が激しいらしく飛ばせるのは一人で、その後しばらくは魔力が回復するまで使えないとのことだった。
「じゃあ、空を飛べる私が行くね」
「頼んだよ」
「気を付けてくださいまし」
「うん!」
ヴァイスの森から風の魔法で飛んでいける私が、行くことに決定した。
「じゃあ、リーナお願い」
「はい」
リーナが空間魔法を唱えると辺りの景色が歪みだす。
なんか変な感じだ、そして辺りがまるでモザイクのように何があるのか分からないくらいグニャグニャになると、再び景色が再生され始めた。
しっかりと形を戻した景色は先ほどまでとは全然違う場所であった。
「本当に一瞬でヴァイスの森に来ちゃったよ」
『凄い魔法ね』
どうやら、闇の女神であるディータも知らない魔法らしい。
ディータが異次元にいる間に生まれた魔法だったようだ。
さて、のんびりしているとツァインが大変なことになる、私はすぐに風の魔法を唱えて空からツァインへ戻るのだった。
エリンシアがコハクとリーナを庇いながらも銃を構えると男はエリンシアの方に気が付く。
「なぜここに!?・・・そちらのエルフの少年は・・・そうですか、あの魔女たちはエルフの少女を助けるための囮ですか・・・。」
「あら、だとしたらどうしますの?」
「その少女の力は惜しいですが、あの魔女が来る前に邪魔は排除しなければ・・・旋風刃《ヴィルベルサイフ》!」
風の刃がエリンシア達に襲い掛かる。
「お二人とも私の後ろかでないでくさいまし!光壁《ライトシールド》!」
エリンシアは光の壁を張り風の刃を防いだ。
「なに!?」
「あら、大したことないんですの・・・ね!」
科の背刃を防いだエリンシアは、疾風のごとく男の懐に入り拳を放った。
「いけない、その男には風の結界が!」
コハクが叫ぶ通りにエリンシアの拳は風の結界に阻まれてしまった。
エリンシアの一撃はとても重い攻撃だったのか鈍い音が洞窟の中に木霊する。
「ふ、ふふふ、危ない危ない、少し焦ってしまいましたよ」
「意外と堅いですわね・・・なら、結界ごと蹴り飛ばしますわ!」
そう言い、エリンシアは風の結界ごと男を蹴り飛ばした。
エリンシアの蹴りは風の結界を壊せはしなかったもののそのまま押しのけ男は結界を纏ったまま吹き飛ばされる。
「な、なんて出鱈目な・・・」
男は驚愕する、風の結界を破られるわけではなくそのまま蹴り飛ばされるなど初めての経験だった。
そして、男は自分を蹴り飛ばした相手を見て息を飲む。
エリンシアは魔導銃を構え魔力を込めていた。
「炸裂弾!」
炎の魔力を込めた弾丸は男の風の結界に当たると炸裂し風の結界を壊す。
魔導銃で壊せるのであれば蹴らずに最初から撃てばよかったのではと思うかもしれないが、近くで炸裂させるともしかしたらコハクたちに怪我をさせる可能性があったためエリンシアは一度敵を離してから魔導銃を使うことにしたのだ。
「もう一発ですわ、炸裂弾」
「がああああ!」
そして、二発目の弾丸は風の結界に阻まれることなく男へと命中した。
「思ったより弱いですわね?カモメさん一体何をしているんですの?」
この程度の相手を逃すほど外にいるヴァンパイアは強かったのだろうか?と少し外にいる二人を心配し始めるエリンシア。
だが、そのことに気を取られたが為に男が魔法陣に這って移動していることに気が付くのが遅れてしまった。
「!・・・しまったですわ!」
男が魔法陣に近づいているのに気づいたエリンシアが魔導銃を放つ、だが、魔法陣が赤く光り、その光が弾を防ぎ男に届く前に弾かれた。
「それなら、炸裂弾」
先程の風の結界と同じように炎の魔法を込めた魔弾で結界を破ろうとするエリンシアだったが、魔弾が炸裂するも魔法陣から出る障壁は敗れることなく魔弾をも弾いた。
そして、その様子を見た男が傷つきながらもニヤリと笑う。
「ふ、ふふふ・・・魔人さえ復活すれば・・・あなた達など・・・この目でツァインが滅ぶところが見れないのは残念ですが仕方ありません・・・魔人よ!我が肉体を贄とし今再びこの地に君臨せよ!」
魔法陣の輝きが増し、赤い光が辺りを包み込む。
大地が唸り始め、洞窟がその揺れに耐えきれず崩壊を始めた。
このままでは、自分たちも生き埋めになってしまうと思ったエリンシアがコハクとリーナとヒスイに声を掛ける。
「洞窟が崩れますわ!逃げますわよ!!」
そう言って、エリンシア達は洞窟の外に退却した。
黄泉鴉たちを浄化したカモメ達が洞窟の中へフードの男たちを追って入ろうとすると、突如大きな地震が起こり面を喰らう。
「じ、地震、中のエリンシア達は大丈夫!?」
エリンシア達がペッちゃんこになっちゃうよと思い焦ったが、中から外に向かって走ってくる影を見つけて安堵した。
「エリンシア!」
「カモメさん!もうっ、このおドジさん!あの男を取り逃がすなんてなにやってますの!」
「う・・・ごめん、ちょっと予想外の事があって、それよりそっちの女の子が?」
「ええ、リーナさんですわ」
「さすがエリンシア、よかったね、コハク」
「ありがとうございます」
コハクは少し申し訳なさそうな顔でお礼を言った。それが気になって聞いてみると
「どうしたの?」
「あの、ごめんなさい。ヴァンパイアがいると聞いた時に俺はあなた達を囮にしてでもリーナを助けようとしました。あんなに優しくしてくれたのに・・・」
「へ?」
どういうことだろ?元から囮を買って出たのは私たちだ。何か問題があるのかな?
「えっと、どゆこと?」
『普通ならヴァンパイアは危険な相手よ。コハクはあなた達を危険な目に遭わせたことを知っても見捨てようとしたということでしょう』
「あ、なるほど。・・・えっと、コハク」
「はい」
「気にしなくていいよ、ヴァンパイアはクオンが倒したし、私たちはそれくらいなら問題ないしね」
「え・・・ヴァンパイアを倒した!?」
「すごい・・・」
信じられないという顔をしながらも周りに何もいないこの状況がすでにその証拠になっているのだ。
信じるしかないだろう。
「まったく、それより、怪我はしてませんの?」
「あ、うん、大丈夫だよ」
「そう、ならいいですわ」
エリンシアは過保護だなぁと思いながらも鳴りやんだ地震の発生源を訪ねる。
「ねえ、この地震って」
「あの男が魔人を復活させようとした結果ですわ」
「ってことは、失敗?」
フードの男は崩れる洞窟の中から出てくる様子がない、ってことは中でぺちゃんこになっちゃてるんじゃないだろうか?
そう思っていると、一際大きな揺れが一回、大地が上下に揺れたような感覚が私たちを襲うと、目の前の洞窟は完全に崩壊した。
これでは中の男は完全に死んでしまっているだろう。
彼は一体どんな恨みが王様にあったんだろうか?結局よくわからないままだった。
そう思っていると瓦礫のしたから嫌な感じがする。
クオンとエリンシアも感じ取ったのか臨戦態勢をとる。
「リーナとコハクはヒスイと一緒に離れてて!」
「は、はい!」
瓦礫の一部が大きく揺れると崩れ落ちた、そしてその下から一人の男が立ち上がる。
フードの男だ。あの崩落から生き残ったの?
予想外のタフさだと思っているとそうではないことが分かった、男の体が赤く光っている。
嫌な感じの正体はあれか・・・。
「フヒ、ヒヒヒ・・・ワが肉体がホシいか・・・イイですよ・・・私のニクタイを使ってワが復讐を・・・」
ブツブツと何かを言っている男がいきなりカクンと首を下に向けた。
すると、彼の体がボコボコと音を上げながら隆起する。
「気持ちわるっ」
『カモメ油断をしては駄目よ!』
「う、うん!」
隆起した男の体が段々と形を変え整って行く。
赤いからだをした、角を二本生やし、悪魔のような形をした赤い翼の生き物がその場に現れるのだった。
「魔人・・・」
クオンがぽつりと言葉を溢す。
「ひっ」
リーナが悲鳴を上げた、それはそうだ。私だってあの魔人を見ていると恐怖を覚える。
色々な魔物と戦ったりしている私やクオン、エリンシアですら冷や汗を掻くのだ、今まで平和に暮らしていた二人には死そのものがそこに立っているように感じるだろう。
『やるしかないわね』
「うん」
この化け物から逃げるのは困難だろう、なら倒すしかない。
「魔人さん、寝起きの所悪いけどまた眠ってもらうよ!氷牙咆哮《アイシクルルジート》!」
私は氷を纏った風の咆哮の合成魔法を魔人に向けていきなり放った。
完全に不意を突いたし、魔人はこちらすら向いていない。凍らして一気に砕いてしまおう。
そう思ったのだが、魔人は私の魔法との間に障壁を発生させ、私の合成魔法を軽々防いだ。
「げ・・・」
「あれを軽々防ぐんですのね」
「厄介だね」
私達が口々に言うと、いきなり攻撃されてもこちらに興味がないのか魔人は明後日の方向を見たままだった。
一体、どこ見ているんだろう。
東南の方になにがあったっけ・・・そう思い考えると東南にあるものを思い出し焦る。
「くっ・・・魔水風圧弾!」
私は慌てて、貫通力のある魔法で障壁を突き破り魔人を倒そうとするが、魔人はそれを防ごうとはせず躱し、翼で飛び始めた。
「まずいっ」
「何がまずいんですの!」
「あいつ、さっきからずっとツァインの方を見てる!」
そう、あいつが見ているのはツァインのある方角だ。
そして、あの魔人を蘇らしその肉体を上げた男はツァインに・・・王様に恨みがあると言っていた。
ということは・・・
魔人は静かに上へと飛翔し、とてつもないスピードで東南へと飛び去ってしまった。
しまった・・・このままだとツァインが・・・。
ウェアウルフなんて比じゃない、さっきのヴァンパイアよりも脅威だとわかる魔人がツァインに向かって行ってしまった。
「あのスピードじゃ追いつけない」
私は風の魔法で追いかけようとしたが私のスピードじゃ追いつけそうになかった・・・どうしよう。
「急いで戻らないとツァインが滅ぼされちゃう!」
「何か方法は・・・」
「コハクさん、エルフの貴方でしたら近道とか知りませんですの!?」
エリンシアが無茶を言う、それどころかヴァイスの森から出たことのないコハクたちにここからの近道なんて分かるわけがないよ・・・大分混乱してるね・・・私もだけど。
「いえ、さすがに空を飛ぶ以上の近道は・・・」
「あ、あの!」
慌てている私たちにリーナが声を掛けた。
「私の空間魔法でヴァイスの森までなら移動できます、ここよりは近いので少しは近道になるかと・・・」
「リーナ!」
「兄様、この方たちは私たちを救ってくれました・・・隠し事はしたくありません」
「空間魔法?」
「はい、空間を操る魔法のことです」
とんでもない魔法である、簡単にリーナに説明してもらったがその魔法を使えばウェアウルフ事件の時に私たちが壊した、あの高級な魔導具と同じことができるらしい。
しかし、リーナが言ったことのある場所でないと正確に飛ばせない為、ヴァイスの森が限界だということだ。
コハクをツァインに飛ばした時はランダムテレポートらしく、今使えばもしかしたら近くなるかもしれないが、逆に遠くなる可能性もあるということだった。
その上、消費が激しいらしく飛ばせるのは一人で、その後しばらくは魔力が回復するまで使えないとのことだった。
「じゃあ、空を飛べる私が行くね」
「頼んだよ」
「気を付けてくださいまし」
「うん!」
ヴァイスの森から風の魔法で飛んでいける私が、行くことに決定した。
「じゃあ、リーナお願い」
「はい」
リーナが空間魔法を唱えると辺りの景色が歪みだす。
なんか変な感じだ、そして辺りがまるでモザイクのように何があるのか分からないくらいグニャグニャになると、再び景色が再生され始めた。
しっかりと形を戻した景色は先ほどまでとは全然違う場所であった。
「本当に一瞬でヴァイスの森に来ちゃったよ」
『凄い魔法ね』
どうやら、闇の女神であるディータも知らない魔法らしい。
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