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5章
アレクセイ
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「エリンシアのお父さんを殺して欲しい?」
クオンは予想外の言葉にエリザベスへ対しての警戒心を強める。
エリンシアのお父さんは弟さんを助けるために自らを犠牲にして兵士に捕らえられたという事の筈だ。
その人を助けるというのなら解るが……なぜ?
「驚かれるのも無理ありませんわね……ワタクシもアレクセイが正気の状態でしたらこのようなことは頼みませんわ」
「正気じゃないと?」
どういう事だろう、大臣に洗脳でもされたというのか?
「詳しくおはなし致しますわ」
そう言うと、エリザベスはアレクセイの様子がおかしくなった時の事を話し始めた。
アレクセイが王国に捕まった後、エリザベスは王国の兵士にお金を握らせ、お城の中に潜入することに成功したらしい、エリンシアの母親だけあって行動力がすごい。
だけど、城の中にはアレクセイの姿が見当たらなかった、地下牢屋はもちろんどこかの部屋に閉じ込められているということも無かったらしい。
城を離れ、別の場所に幽閉さえれているのかと考えたその時、大臣と宮廷魔術師らしき人間が話しているところに遭遇したのだという。その時の会話がこんな感じだった。
「あれは本当に大丈夫なんじゃろうな?」
「ええ、お任せを」
「ワシに楯突いた愚かな男を従順な下僕にできるのは嬉しいがのう……あのような凶暴な姿では心配にもなるというものじゃ」
「ふふふ、彼は最高にいい素体でしたよ……ご家族の方が見られてたら最高に喜ぶでしょう」
ワシに楯突いた、ご家族、それだけしかアレクセイと重なる部分が無かったにもかかわらずエリザベスは不安を覚えたという。もしかして、アレクセイの事を言っているのではないかと。
「しかし、あ奴らはどこに閉じ込めておるのじゃ?姿が見えんが」
「兵士たちが怯えますからねぇ、今は城の西側の地下に作った、新しい研究所に纏めて閉じ込めております」
大きな不安を覚えたエリザベスはその場を離れ、話に出てきた城の西側の地下にある研究所へと侵入を試みた。
侵入は容易く成功した。なぜなら、兵士が見張っている訳でもなかったので、見つかる危険も無く普通に侵入できたのだ。いや、兵士がいないというより、兵士も近寄りたくないという感じで不自然なほど誰もいなかったのだ。
そして、目当ての地下へと潜ると、そこにはまるで化け物のような姿をした異形の者たち数十体いたのだ。
「異形の者?」
クオンがエリザベスに尋ねるとエリザベスはその異形の者たちの姿かたちを詳しく、答える。
「ええ、目が赤く、肌が黒い。そして、飢えた獣のように鋭い眼光を放っておりました……そのような者たちが無数にそして……」
その中に、綺麗な服を着た男の姿を発見する。
そして、エリザベスにはその綺麗な服に見覚えがあった。
「アレクセイ!」そう叫び、その男に近づくとそこには確かにアレクセイなのだ・・・なのだが、そのアレクセイの目は赤く光っていた。
「エ…エリざべ…す」
「アレクセイ!どうしたのです!一体何をされたんですの!」
「わ…わがらな……い、オレハ……シンダと……おもっだ……ガァア」
苦しいのか、まともに喋ることのできないアレクセイだったが、エリザベスを見ると自分の意識を取り戻したのか赤い瞳に優しさを灯す。
「ココは……きけん……ニゲ……ロ」
「出来ません!アナタを置いて逃げれるわけありませんわ!」
「オレは……一度……コロサレタ……モウスグ……オレジャなくなる」
アレクセイは自分の後ろの方にいる赤い瞳と黒い肌の化け物たちを見て、そう言った。
つまりそれは、あそこにいる化け物たちは元はアレクセイと同じ人間だったという事なのだろう。
「息子タチを……タノム……」
「わかりましたわ……旦那のお願いは聞かないといけませんものね」
目尻に涙を浮かべながらも笑顔でアレクセイにそう言ったエリザベスに、化け物へと変異しかけているアレクセイは優しく微笑みかけた。
「アイシテる」
「ワタクシもですわ」
見つめあい、お互いの心を伝え合うと、エリザベスはその場を後にするのだった。
「ロレンス……エリザベス…………エリンシア……スマナイ」
「一度死んだ……赤い瞳……」
「アレクセイをあのような姿で放っては置きたくありませんの……出来ることならあの人に安らぎを与えてくださいませ……クオンさん、どうされましたの?」
「その化け物たちは牙や爪が尖っていたりしませんでしか?」
「え、ええ、しておりましたが……あの化け物をご存知ですの?」
クオンには一つ心当たりがあった、それは5年近く前、カモメ達とこの国で最初に出会い、ヴィクトールさんが命を落とした魔族との戦いの時の事だ。その時、クオンの家族の仇である盗賊がこのグランルーンに出没していると聞き、クオン達は調査を開始していた。そして、その盗賊たちは一人の魔族の実験に利用されていたのだ。その実験が魔鬼という古の戦いで魔族が使っていた使い魔を作る研究である。
魔鬼は人間の死体から出来上がる化け物で、その個体の強さは素材となった人間の強さも影響するらしい。子供の頃、クオンとカモメが協力してなんとか倒したような相手である。その力は並の魔物よりも強い。
そんなのが数十体城の地下に隠されているとなると…
「カモメ達が危ない!」
「クオンさん?」
「エリザベスさん、僕は城に行かないといけません、市民の避難をお任せできないでしょうか?」
「ええ、それは構いませんわ」
クオンの慌てた様子に、エリザベスは察する。
「アレクセイさんの件、お約束はできませんが、出来る限りやってみます」
「ありがとうございますわ」
エリザベスはお礼を言うと、扉の外に控えていた使用人に扉を開けさせる。
クオンはグラシアールを後にし、急ぎ、城へと向かうのだった。
魔鬼だけならばカモメ達なら何とかできるかもしれない…だが、魔鬼がいるという事はやはり魔族がいるということなのだ。そして……
「嫌な予感がする」
クオンは予感は的中していた。
クオンは予想外の言葉にエリザベスへ対しての警戒心を強める。
エリンシアのお父さんは弟さんを助けるために自らを犠牲にして兵士に捕らえられたという事の筈だ。
その人を助けるというのなら解るが……なぜ?
「驚かれるのも無理ありませんわね……ワタクシもアレクセイが正気の状態でしたらこのようなことは頼みませんわ」
「正気じゃないと?」
どういう事だろう、大臣に洗脳でもされたというのか?
「詳しくおはなし致しますわ」
そう言うと、エリザベスはアレクセイの様子がおかしくなった時の事を話し始めた。
アレクセイが王国に捕まった後、エリザベスは王国の兵士にお金を握らせ、お城の中に潜入することに成功したらしい、エリンシアの母親だけあって行動力がすごい。
だけど、城の中にはアレクセイの姿が見当たらなかった、地下牢屋はもちろんどこかの部屋に閉じ込められているということも無かったらしい。
城を離れ、別の場所に幽閉さえれているのかと考えたその時、大臣と宮廷魔術師らしき人間が話しているところに遭遇したのだという。その時の会話がこんな感じだった。
「あれは本当に大丈夫なんじゃろうな?」
「ええ、お任せを」
「ワシに楯突いた愚かな男を従順な下僕にできるのは嬉しいがのう……あのような凶暴な姿では心配にもなるというものじゃ」
「ふふふ、彼は最高にいい素体でしたよ……ご家族の方が見られてたら最高に喜ぶでしょう」
ワシに楯突いた、ご家族、それだけしかアレクセイと重なる部分が無かったにもかかわらずエリザベスは不安を覚えたという。もしかして、アレクセイの事を言っているのではないかと。
「しかし、あ奴らはどこに閉じ込めておるのじゃ?姿が見えんが」
「兵士たちが怯えますからねぇ、今は城の西側の地下に作った、新しい研究所に纏めて閉じ込めております」
大きな不安を覚えたエリザベスはその場を離れ、話に出てきた城の西側の地下にある研究所へと侵入を試みた。
侵入は容易く成功した。なぜなら、兵士が見張っている訳でもなかったので、見つかる危険も無く普通に侵入できたのだ。いや、兵士がいないというより、兵士も近寄りたくないという感じで不自然なほど誰もいなかったのだ。
そして、目当ての地下へと潜ると、そこにはまるで化け物のような姿をした異形の者たち数十体いたのだ。
「異形の者?」
クオンがエリザベスに尋ねるとエリザベスはその異形の者たちの姿かたちを詳しく、答える。
「ええ、目が赤く、肌が黒い。そして、飢えた獣のように鋭い眼光を放っておりました……そのような者たちが無数にそして……」
その中に、綺麗な服を着た男の姿を発見する。
そして、エリザベスにはその綺麗な服に見覚えがあった。
「アレクセイ!」そう叫び、その男に近づくとそこには確かにアレクセイなのだ・・・なのだが、そのアレクセイの目は赤く光っていた。
「エ…エリざべ…す」
「アレクセイ!どうしたのです!一体何をされたんですの!」
「わ…わがらな……い、オレハ……シンダと……おもっだ……ガァア」
苦しいのか、まともに喋ることのできないアレクセイだったが、エリザベスを見ると自分の意識を取り戻したのか赤い瞳に優しさを灯す。
「ココは……きけん……ニゲ……ロ」
「出来ません!アナタを置いて逃げれるわけありませんわ!」
「オレは……一度……コロサレタ……モウスグ……オレジャなくなる」
アレクセイは自分の後ろの方にいる赤い瞳と黒い肌の化け物たちを見て、そう言った。
つまりそれは、あそこにいる化け物たちは元はアレクセイと同じ人間だったという事なのだろう。
「息子タチを……タノム……」
「わかりましたわ……旦那のお願いは聞かないといけませんものね」
目尻に涙を浮かべながらも笑顔でアレクセイにそう言ったエリザベスに、化け物へと変異しかけているアレクセイは優しく微笑みかけた。
「アイシテる」
「ワタクシもですわ」
見つめあい、お互いの心を伝え合うと、エリザベスはその場を後にするのだった。
「ロレンス……エリザベス…………エリンシア……スマナイ」
「一度死んだ……赤い瞳……」
「アレクセイをあのような姿で放っては置きたくありませんの……出来ることならあの人に安らぎを与えてくださいませ……クオンさん、どうされましたの?」
「その化け物たちは牙や爪が尖っていたりしませんでしか?」
「え、ええ、しておりましたが……あの化け物をご存知ですの?」
クオンには一つ心当たりがあった、それは5年近く前、カモメ達とこの国で最初に出会い、ヴィクトールさんが命を落とした魔族との戦いの時の事だ。その時、クオンの家族の仇である盗賊がこのグランルーンに出没していると聞き、クオン達は調査を開始していた。そして、その盗賊たちは一人の魔族の実験に利用されていたのだ。その実験が魔鬼という古の戦いで魔族が使っていた使い魔を作る研究である。
魔鬼は人間の死体から出来上がる化け物で、その個体の強さは素材となった人間の強さも影響するらしい。子供の頃、クオンとカモメが協力してなんとか倒したような相手である。その力は並の魔物よりも強い。
そんなのが数十体城の地下に隠されているとなると…
「カモメ達が危ない!」
「クオンさん?」
「エリザベスさん、僕は城に行かないといけません、市民の避難をお任せできないでしょうか?」
「ええ、それは構いませんわ」
クオンの慌てた様子に、エリザベスは察する。
「アレクセイさんの件、お約束はできませんが、出来る限りやってみます」
「ありがとうございますわ」
エリザベスはお礼を言うと、扉の外に控えていた使用人に扉を開けさせる。
クオンはグラシアールを後にし、急ぎ、城へと向かうのだった。
魔鬼だけならばカモメ達なら何とかできるかもしれない…だが、魔鬼がいるという事はやはり魔族がいるということなのだ。そして……
「嫌な予感がする」
クオンは予感は的中していた。
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