闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
142 / 412
5章

大魔鬼

しおりを挟む
「エリンシア!!」
「解っておりますわ!こんな大量の魔鬼、外へ出すわけにはまいりませんわ!」


 目の前の地下部屋を埋め尽くすように現れた魔鬼達、この魔鬼達が地上に出て市民を襲い始めればラインハルト達の避難は失敗に終わるだろう。
 いくらラインハルトがいるとはいえ、この数を相手にして逃げることは出来ない。ましてや、王子も一緒となると市民を守る余裕はないなだろう。

 エリンシア達は地下部屋の扉の前に陣を取り、襲い来る魔鬼達を迎撃し始めた。


「これは……力を温存とか考えている場合ではありませんわね!」
「そうね、こいつらはここで全滅させるわよ!」


 エリンシアは銃をディータは闇の魔法で魔鬼達に襲い掛かる。

 二人の全力攻撃であれば、いくら魔物よりも強力な魔鬼と言えども恐れることはない……そう思っていたのだが……。

 エリンシアの弾丸を喰らった魔鬼が地面へ倒れると、後ろにいた魔鬼が、その倒れた魔鬼を食べ始めた。


「な、何をしてますの……」
「失敗作……と言ったところなのかしら?生きてる魔鬼も共食いを始めたわね」


 ディータの言う通り、まだ倒れていない魔鬼同士も共食いを始めていた。
 その光景を気味悪がりながらも止めることをせず、しばらく傍観していたエリンシア達だが、異変に気付く。


「なんか、大きくなってない?」
「ワタクシもそう思いましたわ……」


 共食いを始めた魔鬼達が一回り大きく見えるのだ。

 いや、確実に大きくなっている。共食いを始めた魔鬼の数が片手で足りる頃になると、魔鬼の大きさは元の倍くらいになっていた。
 だが、それでも共食いは終わらない。最後の一匹になるまで続けようというのか、数の少なくなった魔鬼達は依然、お互いを食べ始めた。


「これはマズいんじゃありませんの?」
「ええ、嫌な感じね」


 最後の一匹になった時には、その大きさは元の三倍くらいになり、かなり広く天井の高い地下室であったが、ギリギリの大きさにまでなっていた。
 そして、その邪悪さも数倍に跳ね上がっており、エリンシアとディータですら戦慄するほどであった。


「数が減って楽になったわね」
「おほほほ、本当ですわね」


 軽口をたたく二人であるが、その表情には焦りが見える。
 二人の背中には不安と緊張からか一筋の汗が流れ落ちていた。


「グオオオオオオオ!!!」


 今までの魔鬼のような甲高い声ではなく、低い地獄の悪魔のような声が地下部屋に響き渡る。


「エリンシア!全力で行くわよ!」
「解りましたわ!!」


 武器を構え、魔法の準備をする二人、だが、そこにその場にいる者とは違う声が聞こえる。


「エ……リ゛ンシア゛……」
「……え?」


 声はしゃがれ、まともな言葉とも言い難い声が、エリンシアの耳に届いた。


「どうしたの、エリンシア?」
「いえ、そんな筈ありませんわね……なんでもありませんわ!」

 
 気のせいだ、その人物の声がこんなところで聞こえるわけがない。そう思い戦いに集中し直すエリンシア。二人が再び構えた時、目の前の大きな魔鬼、あえて表現を変えるなら『大魔鬼』とでも言える存在がエリンシア達に向かい歩き始めた。


「図体が大きい分、動きが鈍いわね!闇の刃オプスラミナ!」
「食べ過ぎでお腹が重いんじゃありませんの!聖滅弾セイクリッドブリッツ!!」


 巨大なため、命中を定める必要もなく、エリンシア達の攻撃が当たる……だが。


「嘘でしょ!?」
「怯みもしませんわね……」


 直撃したはずである、現に当たった場所からは血のような緑の液体が出たのだが、大魔鬼はその攻撃に怯むこともない……いや、攻撃されたと認識しているかも解らないほどそのまま、行進を続けていた。
 そして、今しがた傷つけ血が出ていた場所も次の瞬間には自然治癒をしましたと言わんばかりの回復力で塞がってしまっている。


「これは……」
「ちょっとおデタラメ過ぎますわね……」


 大魔鬼が二人に近づくと、その巨大な腕を振るう。
 二人はその攻撃を躱すが、唯、振っただけの腕の攻撃の風圧で二人は弾き飛ばされてしまった。


「くっ」
「やってくれますわね」


 地下の部屋は頑丈に作られているのか、それだけの衝撃を受けても崩れることはない。
 それを見た二人はお互いに頷きあうと、全力の一撃を放った。


「今、私が使える最大の呪文よ!闇魔滅砲イビルスレイヤー!!!」
「こちらも全力全開ですわ!!聖滅全力魔弾セイクリッドフルバスター!!」


 二人の最大攻撃が同時に大魔鬼へと襲い掛かる。 
 大魔鬼はその巨体から攻撃を避けることも出来ず、直撃を受ける。


「どうよ!」


 ディータの攻撃は大魔鬼の右腕を消し飛ばし、エリンシアの攻撃は大魔鬼のどてっ腹に風穴を開けた。


「ワタクシ達に掛かればただ大きいだけの魔鬼なんて敵ではありませんわ!」


 脅威であろう大魔鬼ではあるが、動きが鈍ければ倒す方法はある、そう言うエリンシアであったが、次の瞬間――――――絶句した。
 魔鬼は消し飛ばされた右腕、風穴の空いた腹を一瞬で元に戻してしまったのだ。


「デタラメ過ぎるでしょ……」
「どうやって倒せと言うんですの……」


 呆然とする二人、だが、瞬時に生えた腕が、エリンシアに襲い掛かる。


「エリンシア!」
「しまっ……きゃああああ!!」


 理不尽な状況に動きを止めてしまったエリンシアはまとも大魔鬼の攻撃を喰らってしまい、床を跳ね壁へと叩き付けられた。
 そして、そのエリンシアに止めを刺そうと、近づく大魔鬼。


「させない!!闇魔滅砲イビルスレイヤー!!!」


 そうはさせじと、今度は足を消し飛ばすディータだが、大魔鬼は左足の膝から下が無くなろうとも、気にせず歩く。そして次の一歩の時には消し飛ばされた左足はまた生えていた。


「そんな!エリンシア、逃げて!」
「くっ……」


 思いっきり壁に叩きつけられたエリンシアはそのダメージからすぐに動くことが出来ない。
 そして……大魔鬼はエリンシアの元に辿り着くと拳を握り天高く持ち上げた。
 ―――――――そして、エリンシア目掛けて振り下ろすのであった。


「エリンシア!!!!」


 大魔鬼の拳はエリンシアのいた場所に正確に振り下ろされる。
 だが、振り下ろされたときにはエリンシアはその場にいなかった。
 エリンシアが避けたのではない、何者かがエリンシアを抱え、その場を離れたのだ。


「だ、誰ですの?」
「エ゛……エリンジア゛」
「……え?」


 エリンシアにはその声に聞き覚えがある……いや、間違うわけもない。子供の頃から何度も聞いた声なのだ。多少、しゃがれ、聞き取りにくい喋り方だとしても、間違うわけがなかった。


「おとう……さま?」
「ブジ……カ?」


 しっかりとした背広は所々破れているが、それは父親のお気に入りの服の一つである。エリンシアには見慣れた服であった。


「お父様なぜこのような場所に!……え……そんな……」


 戦う力のない父親がなぜこんな危険な場所にいるのだろう、自分を助ける為?そう思い、父親に問いただそうとしたエリンシアだったが、その父親の姿を見て、絶望する。
 なぜなら、今、自分を助けた父親は、いつもの青い瞳ではなく、その色は赤。そして色白であった肌はどす黒く変わっていたのだ……そう、その姿は先ほど何十匹も現れた魔鬼の姿そのものであった。


「嘘!いやですわ、お父様!!」
「ズ……マナイ゛……」


 魔鬼に成り果てながらも正気を保っているエリンシアの父アレクセイは悲しそうな表情を浮かべるも、エリンシアを見ることはなかった。
 
 そして、獲物を逃がしたことに気付いた大魔鬼が再び、エリンシアの方へと歩き始めるのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...