闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
194 / 412
6章

アスカの想い

しおりを挟む
「もうっ、どうしたら気が発動するの!わかんない、わかんないよ!!」


 何とかして、気を発動させ『魔』の力を抑え込もうとする、だが、一向に気が発動する気配はない。
 カモメは自分には気を発動させることが出来ないんじゃないかと焦り始めていた。


(焦っては駄目)
「え……誰?」


 カモメは不意に聞こえてきた声に驚き、辺りを見回す。
 すると、自分の後ろに小さな光の玉が浮いているのが見えた。


「ディータ?……ううん、違う……あなたは誰?」
(ふふ、大きくなったのね……嬉しいわカモメ)
「え……?」


 最初はか細い小さな声だったが、段々とクリアに聞こえてくるようになるその声に、カモメは聞き覚えがあった。だけど、その声は何年も前に失われた声である……大好きで、でも自分のせいでなくなってしまった暖かい声だったのだ。


「お母……さん?」
(久しぶり、カモメ……っていうのはちょっと違うかしらね)
「お母さん!」

 
 小さな光は一際大きく輝くと、人の形へと変わった……それは紛れもなくカモメの母親……アスカの姿だったのだ。
 
カモメの瞳からは大粒の涙がこぼれ始めた。
 子供の頃、自分を庇って死んでしまった母親が今、目の前に現れたのだ。


(よしよし、でも、カモメ。泣いている場合じゃないわよ)


 カモメの頭を撫で、優しく諭すように語り掛けるアスカ。
 カモメは眼に涙をいっぱい溜めアスカに抱き着きながらも顔を上げるのであった。
 

(今、外ではあなたの仲間が必死にあなたを抑えてくれているわ……あなたにも聞こえるでしょう?)
「うん、クオンにディータ、エリンシアもいる」
(良い友達に出会えたわね、さすが私の娘よ)
「えへへ」


 母親に自分の仲間を褒められ、笑顔を出すカモメ。
 そんなカモメを見て、優しい笑顔で返すアスカだが、真剣な顔に変わり、抱き着いているカモメを自分から離した。


(あの子たちを助けるためにも早く、気を発動させないとね)
「でも……どうやったら発動するのかわからない……私の心ってどんなものなんだろう……」
(難しく考えすぎているのよ、複雑に考えすぎているのよ)
「でも、色々あって複雑だよ……怒ったり悲しんだり……どれも自分の筈なのにそのどれかが本当の自分の心だなんて思えないよ……」
(ええ、そうね。それは間違っていないわ……確かに人間の心は複雑……それが合わさって人間が出来ているのよね……でも、気の発動はその心をすべて理解しないといけないわけではないわ)
「どういうこと?」


 確か、皆は自分の一番正直な心を解放させたときに、気は発動すると言っていた。
 少なくとも、アネルさんやコハク、ラガナなどはそれで発動出来たようだったのだが……。



(心にはね、二つの種類があるの……一つは心を揺さぶる激しい感情、怒りとか喜びとかね)


 それは分かる、恐らく、それを最大限に発揮したときに気が発動するのだろうとカモメは思っていた。


(もう一つはね、波の無い水面のように穏やかな感情よ、安らぎとか慈しみとかね)
「ふーん、でも私は多分前者の方だよね?」


 穏やかだとか、人を慈しむ心とかは特に持っている気がしないカモメであったので、そうアスカに言うが。アスカはそんなカモメに軽くクスリと笑うと、頭を撫でながらこう言った。


(ハズレ、貴方は後者よ。なぜならあなたは慈愛の女神の血を引いているのだから)
「リーンのことは知っているけど……でも、血を引いているからって……」
(そうね、血を引いているからってあなたは慈愛の女神とは違う。でも、それが無かったとしてもあなたの力は優しさや愛情だったと思うわよ?あなたはどんなにつらい目にあっても、人への優しさを忘れなかったじゃない、それは貴方の心が優しいお陰よ)
「そう……かな」
(お母さんの言う事、信じられない?)
「うっ……ずるいよ、そんないい方されたら信じるしかないじゃん」
(うふふ、知らなかったのお母さんはずるい女なのよ?)
「もうっ」


 先ほどまで焦りに焦っていたカモメであったはずなのに、いつの間にかアスカのペースに飲まれ、心に穏やかさを取り戻していた。


「静かに……心を穏やかに……波の無い水面のように……」


 アスカの言う通りに焦らず、心を落ち着けて、自分の中の気を発動させようとするカモメ。
 そうしているうちに、不思議とクオンやエリンシア、ディータとこれまで出会った人の顔が思い浮かんだ。そして、その顔を見るたびに、自分の心が満たされていくように感じるのであった……そして。



「……これ」
(出来たじゃない)


 カモメの周りには激しくはないが力強いオーラのようなものが溢れ出していた。


(それが、気よ……)
「そっか……気ってこんなに温かいものだったんだ」
(ふふふ、それだけあなたの心が温かいという事よ……そして、その状態ならあなたは女神の力もきっと引き出すことが出来るわ)
「女神の力…?」
(ええ、慈愛の女神であるあなたのお祖母ちゃんから引き継いだ力……アナタならきっと使いこなせるわ)
「お母さん、なんでそんなこと知ってるの?ううん、どうして私の心の中にお母さんが?」


 母親に会えたことに喜んでいたカモメだったが、気を発動させ、冷静さを取り戻したからなのか当然の疑問が今頃になって口を出る。


(それはね、私も昔、今の貴方と同じように『魔』の力に苦しんだことがあるの……そして、きっとあなたも同じ苦しみを経験するんじゃないかと思ってね……アナタにあげたあのバトーネに私の記憶と心を少しだけ移したの)
「そんなこと出来るの?」
(あら、知らなかった?魔導具を作らせたら私の右に出る人なんていないのよ?)


 全然知らなかった。
 今思って見れば、確かに母親の周りには魔導具がいっぱいあったような気がするが、それは冒険で手に入れた物だろうと思っていたのだ。
 

(もし、あなたが私と同じ経験をして、その時自分が傍にいられなかった時のためにお父さんに頼んでおいたの……このバトーネをあなたにあげてねって♪)


 子供の頃からずっと使ってきたこのバトーネにそんな思いが籠っていたなんて……母親の愛情に素直に嬉しいと感じるカモメであった。


(とは言っても、私の力じゃ少しの間話すことが精一杯。名残惜しいけどそろそろお別れかな)
「え……そんなっ」
(消えちゃう前に、カモメのカッコいい姿が見たいな♪)
「お母さん……うん、見せてあげるよ!お母さんの娘はすごいってところ!」


 眼から零れる涙を腕で拭いながら、カモメは精一杯の笑顔でそう言った。
 そして、溢れ出す自分の気を輝かせると、一面、暗黒の世界だったカモメの心の中が明るくなっていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...