闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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7章

魔王との戦い⑪

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「よくもっ!!!」


 クオンの怒りの声を上げ、リーンへと斬りかかる。


「あら、良い声ですね」


 だが、その攻撃をあっさりとかわしたリーンはクオンと躱しざまにクオンへ爆発の魔法を浴びせる。


「ぐっ」
「クオンさん!」
「よそ見は危ないですよ?」
「なっ!?光祝福リヒトブレス!」


 とっさに自信を強化し、リーンの魔法の攻撃を軽減するエリンシアだが、その威力は強く、軽減してもダメージは大きかった。


「きゃあああああ!」
「あら、良い反射神経ですね……ふう、そろそろあなた達との遊びも飽きてきましたね」
「くっ」


 傷つき、やっとのことで膝を付き起き上がる二人。
 その二人にリーンは掌に魔力を込め、残酷な笑みを浮かべた。







 ディータ達の元へ投げ捨てられてきたコロに必死に近づこうとするディータとレナ。
 近づくと、目の前で横たわるコロがディータに聞こえる程度の力のない声でつぶやいた。


「なっ、アンタまで何言ってんのよ!そんなこと出来るわけないでしょ!」
「ディータさん、優しいですね……ありがとうございます……カモメさんにも伝えてください僕がお礼を言っていたって……」
「やめなさい!今レナが回復するからそこで大人しくしてなさい!」


 コロはお腹に空いた穴から夥しいほどの血を流しながら足に力をいれ立ち上がる。


「ここまで体が破壊されてしまうと治癒魔法でも治すことは出来ません」


 回復のスペシャリストでもあるコロが言うのだ、恐らくその通りなのだろう。
 でも、だからと言ってはいそうですかと言えるディータではない。


「やってみないと分からないわよ!レナは光の女神なのよ!レナなら……」
「そうです、諦めたりなんかしません、ですから、コロちゃん……こっちに」
「ありがとうございます、でも、自分で分かるんですもう駄目だって……」
「コロちゃん……」

 
 レナは目の前のコロの姿に千年前の姉の姿が被る。
 そう、千年前、ディータが自分の死を悟った時と同じ表情をしているのだ。
 あの時も、自分の回復魔法では姉を救うことは出来なかった。
 そして、恐らく今回も……


「ディータさん、さっきの話お願いしますね」
「ま、待ちなさい!!」



 コロの周りから魔力が溢れ出す。
 澄んだ声が異空間にある地獄と化した部屋に響き渡った。

 コロの歌だ。

 お腹を貫かれ、苦しいだろうに、コロは必死に一つ一つの言葉をメロディに乗せて紡ぐ。
 その声は、クオン達の元へも届いた。


「……コロ?」
「身体の傷が……治っていきますわ」
「ぐっ……なに、耳障りな音……」


 その澄んだ声を聴いて、リーンが苦しそうにする。


「私達の体力も……」
「回復してます……」


 ディータとレナも体力だけだが回復をし始めていた。


「まだ生きていたのね、あの子……目障りな!」


 リーンが手をクオン達からコロへと向け直す。


「させないわぁああん!!」


 レディの拳がリーンを捉える。
 その衝撃で体勢を崩したリーンは爆発の魔法を放つが、照準が狂い、コロへと命中はしなかった。


「レディさん、離れて!」


 苦しそうな声で精一杯の大声を上げたコロ……その姿は魔力に溢れ輝いていた……いや、それはもう魔力と言うよりも命の輝きとでも言うかのように眩い光を放っていたのだ。


「わかったわぁん!」
「僕の全部の力を……光神裁ラ・ピュリオン!!」


 回復や歌で人を癒すことを得意としたコロ。
 元々の魔物姿では人や魔物に忌み嫌われるような姿であった為、その力を発揮することはほとんどなかった。異常種と呼ばれる彼はその姿から、同じクリケットバグの魔物たちからも迫害され、ずっと一人ぼっちであった。

 そのコロが、ラガナやレディ、ミャアと出会い、仲間を得る、彼にとって同じ異常種である三人は本当の家族の様であった。
 そして、人間でありながら、自分の本当の姿を見ていても、優しく話しかけてくれるカモメ。
 隣に座っても嫌な顔をせず、話を聞いてくれたりもしていた。

 そんなカモメ達がコロは大好きだった。ずっと、カモメ達と一緒にいられたらどんなに幸せだろう……でも、残念ながらそれは出来ないようだった……。


「カモメさん、クオンさん、エリンシアさん、レナさん……僕と仲良くしてくれてありがとうございます……レディさん、ラガナさん、ミャアさん……僕を見つけてくれてありがとう………」


 そう言った、コロは最後にディータを見る。


「ディータさん、後はお願いします」


 とても優しい笑顔でディータを見るコロは次第に光の粒子へと変わり、消滅してしまった。
 そして、コロのいた場所には魔石がひとつ……転がるのだった。


「ぐっ……ぐあああああああああああ!!」


 コロの最後の力を振り絞った光神裁ラ・ピュリオン
 光の魔法の中で最上位の威力を誇る、その魔法である。


「凄い威力ですわ……」
「コロ……」


 光の柱が天を突き抜けその猛威を振るう……だが。


「なんちゃって♪」


 巨大な光の柱がまるでガラスを割るように甲高い音を立てて砕けてしまった。


「素晴らしい威力でしたけど、ごめんなさいね、私の身体慈愛の女神の物なんです、普通の光の魔法では効きません♪」
「なっ……」


 コロの命を懸けた一撃も、傷を付けることすら出来なかった。
 余裕の笑みを浮かべるリーンにクオンとエリンシアは憎しみを込めた眼で睨むことしかできなかったのだ。


「良い眼付ですね、実にそそられます」


 『魔』である彼女は憎しみや怒りと言う感情を好む傾向にある、その感情を込められた目線を向けられ、恍惚とした表情で喜ぶのであった。


「光の魔法は駄目なのね……なら闇の魔法はどうかしら?闇の牢爆オプスマイン!」


 リーンの背後から飛び掛かった、ディータが闇の魔法を放つ。
 リーンの周りを闇の球体が包み込む。
 そして、球体の中でいくつもの闇の魔法の爆発が響き渡った。


「トドメよ!闇魔滅砲イビルスレイヤー!」


 ディータの闇の魔法が球体がなくなり、ボロボロになった状態で出てきたリーンに直撃をする。
 リーンはそれを避けることが出来ず、闇の魔法に飲み込まれ吹き飛ばされた。


「ディータさん……魔力が回復しましたの?」
「ええ……コロのお陰でね」


 そう答えるディータの表情はあまり嬉しそうではなかった。
 それもその筈である、ディータはコロの魔石を食べたのだ。

 そう、コロがリーンにお腹を貫かれディータ達の元へ投げ捨てられたとき、ディータに言った言葉は……


「ディータさん、僕が死んだら魔石を食べて、魔力を回復してください……」


 そう言ったのだ……もちろんディータは耳を疑った、いくら死んだ後のことは言え、自分を食べろと言っているのと同じことなのだから。
 今まで、多くの魔物の魔石を食べたディータであったが、いくら死んだあととはいえ、仲間の魔石を食べることには抵抗がある……あるが……最後のコロの姿を見て、その思いに応えないわけにはいかない……いや、コロの魔石を食べ、コロの意志を受け継ぎたいと思ったのだ。


 そして、異常種であるコロの魔石を食べたことにより、ディータの魔力は全盛期のそれへと戻りつつあった。


「厄介なのが目を覚ましましたね……」
「私の仲間を傷つけて……唯じゃおかないわよ……」


 指を鳴らしながら凶悪そうな顔でリーンを睨む、闇の女神であった。
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