闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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7章

魔王との戦い⑫

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「やっと戻ってきた!」


 誰もいない街、誰もいない城に黒髪の少女とエルフの少女が降り立つ。
 カモメとリーナだ。


「リーナ、この城なんだけど……どう?」
「はい、確かに空間が乱れてます……これなら空間をつなげることが出来ると思います」
「ホント!良かった、それじゃ早速お願い」
「はい」


 リーナは何もない場所へ手をかざし、眼を閉じ何かを探っているという感じである。
 そして、閉じていた眼を開くと目の前に人が一人入れるくらいの穴が出来上がった。


「繋がったの?」
「はい、この穴を潜れば皆さんの所へ戻れるはずです」
「ありがとう、リーナ!」
「いえ、お役に立ててうれしいです」
「それじゃ早速行ってくるよ、リーナはここで待ってて」
「本当はついて行きたいのですが、私の力では足手纏いになってしまいます……ですので、皆さんが無事に帰ってこれるよう祈ってます……カモメさん、負けないでくださいね」
「とーぜん!」


 カモメが異空間へと繋がる穴を潜ると、全速力で追ってきたのだろう、コハクとヒスイがリーナの元へと辿り着いていた。






 



 異空間に作られたヴァルネッサ城に轟音が響き渡る。



電爆撃ライトニングブラスト!!」


 ディータから放たれた雷がリーンに向けて迸る。
 リーンはそれを魔法の壁で防ぐが、ディータの攻撃に気を取られ注意がおろそかになっていた右後ろからエリンシアが魔弾を放つ。


「くっ」


 何とかその魔弾も弾くリーンだが、今度は体勢をも崩してしまう、そして……。



「がっ!?」


 クオンがリーンの背中を斬り裂く。
 ディータが加わったことにより、劣勢となり始めたリーン。


「やりますねぇ……」
「アンタは言う程大したことないわね!」


 休む暇など与えないと言わんばかりにディータは魔法を連発した。
 リーンはそれをギリギリのところで躱す。
 その光景を魔王は気に入らないとでも言うかの如く鋭い目つきで見ていた。


「あらあら、これはピンチですかねぇ」
「ディータさんが加わっただけでえらい違いですわね」
「リーンにも疲れが出てきたのかもしれないね」


 優勢になっているが、油断はしないクオンとエリンシア。
 だが、徐々にリーンに攻撃を当てられるようになって来た為、見えてきた希望に顔を明るくする。


「喰らいなさい!闇魔滅砲イビルスレイヤー!」
「きゃあああああああああ!!」


 闇の魔法に飲み込まれ、リーンが悲鳴を上げる。
 

「やりましたわ!」
「…………」


 歓喜の声を上げるエリンシア、だが、ディータの表情は険しいままである。


「何のつもり?」


 ディータが実に腹立たしいというように、怒気の含んだ声でリーンに尋ねた。


「あら、バレちゃいました?」
「当たり前でしょう……さっきまで魔王を含めた三人を相手に余裕だった相手が魔王が戦っていないのに私が入ったがけで劣勢になるわけないでしょう」
「あらあら、残念、幻の勝利に喜んでもらおうと思ったんですけどねぇ」
「幻の勝利?」
「ええ、出来れば貴方がたを殺したいところなんですけど実のところ、そう言うわけにも行かないんですよ……私の計画上……ですので私が死のうかなと」
「………意味が分からないわね」


 先ほどまでこちらを殺そうと戦っていたリーン……いや、現にこちらはコロを殺されている。
 そのリーンがなぜ、今になってわざと負けようとするのか?


「ふふふ、でしょうね、でも、意味はあるんですよ?」
「どうせくだらない意味でしょ?」
「ヒドイですよ、ディータさん……でも、バレちゃったのなら負ける意味はありませんね……本当はこのまま気付かれずに死んだふりしたかったんですけど」



 まったく意味が分からない、こいつは一体何をしたいのか……ここで死んだふりをする意味は一体なんだというのか……。


「なら、作戦変更ですかね……そうですねぇ、ああ、貴方がいいかしら?」


 そう言うと、リーンはレナを見てニッコリとほほ笑んだ。
 すでに魔力を使い果たしているレナは戦いに参加できず、見守ることしかできていない。
 ディータ達の魔法を喰らい、片膝を付いていたリーンは瞬きをするほどの一瞬でレナの隣へと移動していた。


「なっ!?」
「レナ、離れて!!」


 コロのお陰で魔力は回復していないものの、体力は回復しているレナが即座にその場を離れようと後ろに飛びのく………が。


「逃がしません」
「え!?」


 レナの動きが止まる。
 いや、レナは必死に動こうとしているが、身体が動かないのだ。


「はい、大人しくしてくださいね」
「止めなさい!」


 制止の声と共に、闇の魔法をリーンに向かって放つディータ。
 だが、リーンは片手でその闇の魔法を受け止めると、その闇の魔法は霧散した。


「な……っ」
「はい、出来上がり♪」


 そう言うと、身動きがとれなくなっていたレナをまるでルビーのような色をした大きな宝石のようなものが包み込む。
 そして、それがレナを包み込むとレナはルビーの色をしたクリスタルに閉じ込められ動かなくなった。


「安心してください、殺してはいませんよ?……人質です♪」
「人質ですって……一体何のために!」
「慌てないでくださいよぅ、ちゃんと説明しますから♪」
「必要ないわ!今すぐ返しなさい!!」


 ディータが吠える。
 だが、ディータの繰り出す攻撃は悉く、防がれる。
 それも余裕の表情で……今のディータは以前の力を取り戻している。
 闇の女神としてこの世界の生き物たちを護っていたときのディータと遜色のない力を持っているのだが……その力をもってしてもリーンには届かないのだ。


 このままではレナを連れ去られる……焦るディータだったが、次の瞬間、驚きに眼を見開いた。


「がっ……」


 ディータが次の攻撃を繰り出そうとした瞬間、リーンの胸から腕が生えたのだ。
 いや、違う、リーンの背後から魔王が胸を貫いたのだ。


「油断だな、イルザを操り、我が腹をぶち抜いた礼だ……」


 そう言うと、魔王は銀色の魔力を放ち、腕で貫いたリーンを銀色の炎で燃やす。


「きゃあああああああ!」
「貴様が何を企んでいたが知らんが……貴様はここで消滅するのだ」


 燃える銀色の炎でリーンは消し炭となった。
 その光景を見て魔王はニヤリと笑うのであった。

 その場にはクリスタルに閉じ込められたレナと不敵に笑う魔王。
 そして、その光景を唖然と見るクオン達の姿があった。

 だが、ディータだけは一人、違う場所を見据えるのであった。
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