闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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7章

魔王との戦い⑬

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 リーンを消滅させ、不敵に笑う魔王。
 


「……やりましたの?」
「……まだよ」


 
 エリンシアのの言葉を否定し、警戒を怠らないディータ。
 先ほどまで何度もリーンの幻術に騙されているのだ。

 今回もまた、幻術かもしれない。


「また、幻術なのかな……」


 ディータの様子を見て、クオンもまた、警戒をし直す。
 そして、それに倣い、エリンシアもまた、警戒をし直した。


「……………」


 どれくらいの時間だろう、数分、いや、十数分は警戒をし続けたかもしれない。
 だが、リーンが再び出てくる様子はない。


「……どういうこと?」
「ふんっ、どうやら先ほどの我が消滅させたのが本体だったようだな」


 ディータ達を見て、魔王もまた警戒を始めていたのだが、いくら待てどもリーンが出てこない為、魔王は鼻を鳴らし警戒を解いた。



「いえ、それはおかしいわ……」
「何がおかしいと言うのだ?」


 魔王の問いに、ディータは未だ、クリスタルに閉じ込められた状態の自分の妹を見た。


「この手の魔法は、術者が死ねば解けるはずよ……でも、レナはクリスタルに閉じ込められたままだわ」
「ふん、ならばこの術は術者が死んでも解けぬというだけではないか?」
「そうは思えないのだけれど……」


 紅いクリスタルに閉じ込められたレナの元に近寄るディータ。
 クリスタルに触れてみるが、クリスタルに掛けられた魔法は解ける気配は無かった。


「やっぱりおかしいわ……」
「くだらんっ、あ奴は死んだ……我がこの手で殺したのだ……がっ」


 リーンを消滅させた感触を思い出すように自分の手を見る魔王が、突如、頭を押さえて膝を付いた。


「どうしたの!」


 その様子を見て、何事かと魔王の方を見るディータ達。
 だが、魔王は頭を抱えたまま、返事をしなかった。


「ぐ……」
「ヒドイですよぉ、魔王さん?」
「なっ……貴様、どこだ!」


 魔王は突如聞こえたリーンの声に、頭を抑えながらも周りを確認する。


「やっぱり生きていたのね……」
「でもどこにいるのぉん?」


 ディータとレディが辺りを見回すも、リーンの姿は見当たらない。


「があああっ!!」


 敵の姿は見えないというのに、魔王は苦痛の声を上げる。
 一体魔王の身に何が起きているというのだろうか。


「あはは、苦しいですか魔王さん?」
「一体何をしたのだ……くっ……」
「待ってくださいね、今、頭の中をいじらせてもらってますから♪」
「何ッ!?」


 リーンの言葉に、魔王の表情が変わる。
 頭をいじるとは一体どいうことなのか、目の前で苦しむ魔王の傍には誰もいない。
 だが、間違いなく魔王は何かをされているのだ……。


「くっ、どこだ、どこにいるのだ!」
「私ですか?嫌だなぁ、さっきからずっと傍にいるじゃないですか」
「馬鹿な!どこにもおらぬではないか!」


 姿の見えないリーンは、まるで揶揄うように笑いながらしゃべっている。


「ディータさん、どういうことですの……魔王は一体何を……?」
「分からない、分からないけど、リーンが何かをしているのは確かよ」
「幻術で姿を消しているのかしらぁん?」
「かもしれないわね、それなら、闇の刃オプスラミナ!!」


 ディータの放った闇の魔法が、魔王の周りを縦横無尽に駆け巡る。
 ディータの思うように動く闇の刃が、もし本当に魔王の近くにリーンがいて、姿を消しているのであれば闇の刃がリーンを捉えるはずだ、闇の刃は魔王の周りはくまなく飛び回っている。
 ……だが。
 闇の刃は一向に何かにぶつかることも無く虚空へと消えた。


「一体、何がどうなっているんですの……」


 現実に目の前で苦しむ魔王がいるというのに、一体何が起きているのかわからないこの状況にエリンシアは狼狽する……が。


「うふふ、あとちょっとで、魔王さんは私の下僕になりさがっちゃいまーす♪」
「………なんだとっ?」
「うふふふ、そして次は闇の女神さんかな?ちゃーんと、皆やってあげますからね♪」
「ふざけるな!卑怯よ!姿を現しなさい!」


 怒りの言葉を放つディータであるが、リーンはそれを楽しむかのようにクスクスと笑い続けるのだ。


「さあ、魔王さん、もうすぐ……もうすぐです」
「ぐ……やめろっ」
「やめませーん、さあ、仕上げです……って、きゃああ!?」


 突如、リーンの悲鳴が聞こえたと思うとこの場にいる全員の視界が揺らぐ。


「何!?」
「一体何が起こってますの!?」


 視界が揺らぎ、まるで蝋燭の炎の周りが熱で揺らいでるかのような状態になると……次の瞬間。
 その揺らぎが止まる……そして。


「皆、お待たせ!……大丈夫?」


 そこにはバトーネを持ち、ディータ達を心配するような顔をするカモメの姿があった。


「カモメ……あなたいつの間に?」
「カモメさん、やっと来ましたのね……ってあら?」
「僕ら、なんで床に寝ているんだ?」
「さっきまでリーンと戦っていた筈よぉん」


 景色の揺らぎが治ると、ディータ達は全員、床の上に寝ていた。
 そして、カモメ立つ、その先にはリーンがカモメにバトーネで殴られたのか、頬を抑えながらこちらを睨んでいた。


「皆、倒れてたから、やられちゃったのかと思って心配したよ……でも、大丈夫みたいで良かった」
「……そうか……幻術はリーンが幻のようになるわけじゃなく」
「私達、全員に掛けられていたのね……」


 つまり先ほどまでの戦いは全て、リーンに見せられた幻術だったという事だ。


「でも、どこから幻術ですの?」
「……どうやら、全部がと言うわけじゃないみたいだね」


 クリスタルに閉じ込められたレナを見つけたクオンが、顔を顰めながらそう言う。


「ではコロさんは……」
「コロ?コロがどうしたの?姿が見えないから気になってたけど……」
「コロは殺されたわ……あいつに」
「……そんな」


 カモメの表情が曇る。


「いたた……まさか、闇の魔女ちゃんがこんなにも遅れて登場するなんてねぇ……油断してたわ」
「貴方、コロを殺したの?」
「コロ?ああ……あの魔物ね……ええ、殺したわよ?邪魔だったんですもの」


 そう笑いながら言ったリーンが、次の瞬間、強い衝撃に吹き飛ばされ壁に叩きつけられていた。


「……なっ!?」
「絶対に許さない……よくも、コロを!!」


 気を開放し、バトーネに纏わせ、カモメはそれを構え、怒りを露にした。

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