闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 2章

暗殺者

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「冒険者?冒険者なら自分に益のないことはしない生き物だろう?自分の身を一番に考え、自分の身の丈に合わぬことはしないそして、自分より弱いものに力を振るいそれで金を得る生き物だ」
「違う!私の知っている冒険者は人を助けるために、そして人を護るために力を振るう人の事だよ!」
「絵空事を……」
「絵空事なんかじゃない、私のお父さんはそういう冒険者だった。そして私はその背中に憧れて冒険者になったんだよ……だから私は泣いている女の子を見捨てないし、アンタみたいに危ない人間を放っておくことも出来ない!」
「くだらないな……貴様の死ぬ理由はそれでいいのか?」
「残念、私は死なないよーだ!」


 私が舌を出し、男を挑発すると、男はこちらへと向かってくる。
 ………速い!

 男の繰り出したショートソードを私は新しく手に入れたバトーネで受け止める。
 

「……ほう」
「わっと、危ない危ない」


 私が攻撃を受け止めたことが意外だったのか、男の動きが一瞬止まる……もちろん、私はそれを見逃したりしない。
 新しいバトーネの威力、見せてあげるよ!

 私は、風の魔法をバトーネに纏わせ、バトーネの周りに風の刃を展開させる。
 そして、私の放った一撃は男のショートソードをいとも簡単に真っ二つにしたのだ。


「……うわ、すごっ」


 想像以上の威力である。
 魔導具屋のおじさん、最初の時はそんなにすごい魔導具は作れないと言っていたのに、こんなにもすごい魔導具を作ってくれるなんて……これなら、前のバトーネに引けを取らないよ。


「続けていくよ!」


 私は纏わせた風を、撃ちだすように相手に放つ、その威力は大したもので、その弾丸を避けた男の後ろの壁を抉っていた。
 

「ちっ……」
「逃がさないよ!」


 男の意識がこちらから外れ、自分の逃げ道を探す。
 それに気づいた私は、すぐさま相手との距離を縮めた。


「出直す……だが、その娘は必ず殺す……必ずだ」


 男は持っていた魔導具を自分の足元に投げつけると、その魔導具から黒い霧のようなものがあふれ出す。…くっ、それで姿を隠して逃げるつもりか……そのまま突っ込む?いや、駄目だ。もし、相手が私と入れ違いにこっちに出てくればあの子が危ない。

 そう思った私は、その場で反転し、少女の近くへと駆け寄った。
 そして、黒い霧が晴れると、そこには男の姿はなくなっていた。


「逃げ足だけは一流だね……」
「あ、あの……」


 バトーネをしまいながら嘆息する私に、少女が話しかけてくる。


「ん?」
「その、ありがとうございます……」
「どういたしまして、それより、なんであんな奴に襲われてたのか聞いてもいい?」
「う……うう……うわあああああああ!」


 命の危機が去ってか、私が普通に話しかけたからか、緊張の糸が切れてしまい少女はわんわんと泣き出した。


「……もう大丈夫だよ。」


 私は少しでも少女が安心できるように優しく、その子を抱きしめてあげた。


 しばらく私の腕の中で泣き続けていた少女が、だんだんと落ち着いてきた。


「大丈夫?」
「は、はい……みっともないところお見せしてしまい、申し訳ありません」
「ううん、怖い目にあったんだもん、みっともなくなんてないよ」
「ありがとうございます……そ、その、貴方?」
「私はカモメ……最近この街で冒険者になった者だよ」
「カモメ様……」


 さ、様って……私は様付けされるような人間じゃないんだけどなぁ。


「あ、あの、カモメ様はもしかして……闇の魔女……では?」
「うぐっ……」


 こんな子までその名前広まってるのかぁ……あんまり広まって欲しくないんだけどなぁ。


「えっと、うん……そうだよ?」
「やっぱり!カモメ様、私を……この国を助けてください!!!」
「……へ?」


 私を助けてというのは分かるんだけど……現に変な奴に襲われてたし……でも、この国をって……どういうこと?
 うーん、なんか雲行き怪しくなってきたかな……。すごく嫌な予感。

 でも、彼女の必死な表情を見てしまうと、詳しい話を聞かずにさよならなんて出来ないよね……。


「とりあえず、場所を移動しよっか……まずは詳しい話を聞かせて」
「は、はい!」


 そう言うと、私は灯りの魔法を頭上に放ち、クオンへ合図を送った。
 これを送ればクオンはここにすぐ来てくれるだろう。
 クオンが来たら、とりあえず、私たちの止まっている宿にこの子を連れて行こうかな。

 私がそう考えていると、クオンはすぐにここに来てくれた。


「カモメ、見つかったのかい?」
「うん、さっきの奴と一戦交えたよ」
「え、どういうこと?……それに、その子は?」
「詳しいことはこれから、とりあえず、宿に戻ろう」
「……わかった」


 クオンは私の言葉に同意してくれる。
 何が何だか分からないだろうに、私の言葉を信じてくれるのだ。
 クオンのこういうところはホント大好きだよ。
 自分の事を本当に信頼してくれているのがわかるのだ……もちろん、反対の立場なら私もすぐにクオンの言うことに従うだろう。だって、クオンが意味のないことをするはずないもんね。

 クオンの優しさに少しあったかい気持ちになりながら私は少女を連れて宿屋へと戻るのだった。
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