闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
297 / 412
2部 2章

運命

しおりを挟む
「おはよー」


 私は、背伸びをし、ベッドで凝り固まった体を伸ばす。


「おはよう、カモメ」
「ふぁあ~、皆は?」
「ディータは冒険者ギルドに良い依頼がないか探しに行って、エリンシアとレンは昨日貰った武器の練習に行ったよ」


 おお、皆早起きだねぇ……。


「あ、おばちゃん、朝食セット一人前おねがーい」
「何言ってんだい、もう昼の時間だよ。」
「ありゃ、そうなの?じゃあ、ランチで」
「まったく、闇の魔女様は朝に弱いんだねぇ。待っときな、すぐに目が覚めるほど美味しいランチを用意してやるから」
「わーい♪」


 私は、おばちゃんの美味しいランチを待ちながら、クオンと他愛のない話をする。
 その時、ふと外を見てみると、一人の男に目が留まった。


「ん?どうしたのカモメ?」
「あの人……」
「あれは……昨日の」


 男は冷たい目をし、時折、目線だけをキョロキョロと動かしている。


「誰か探してる?」
「みたいだね……」


 私は、ランチを食べながら、その男の様子を見る……すると、男は路地裏へと歩いていった。


「何者だろう……」
「やっぱり、クオンも気になるよね」
「うん、あの眼はまともな人間に出来る眼じゃないからね……」
「………うん」


 人の生き死にに興味のない冷血な眼と言えばいいのだろうか……その眼を見るだけで私の背筋がゾッとする……。


「駄目だ、気になる!」
「まったく、君って子は……絶対、碌なことにならないよ?」
「かもね……でも、それで誰かが不幸になっちゃったら嫌だもん」


 私の勘違いならあの男の人にごめんなさいをすればいい。
 でも、もし私の勘が当たっているのであれば見過ごすわけにはいかないよね。
 昨日と違い、あの男が何かを探している風に見えたのも気になる。
 まるで獲物を探すハンターのような感じだった。



「仕方ない、行ってみようか」
「ありがと、クオン♪」


 私達は、おばちゃんにご馳走様を言い。
 男が入っていった路地裏へと駆け出したのだった。



================================



 私、メリッサは路地裏の物陰に隠れていた。
 昨日、冷たい眼を持つ男に大事な護衛を殺され、私は逃げ出した。
 ここの領主の館に闇の魔女に会うために行ったのだが、私一人では門番の人に信じてもらえず追い返されてしまったのだ。
 子供が英雄になった闇の魔女に会うために嘘をついていると思われたのだろう。
 私の歳は14歳、子供と言われるほど幼くはないのだが、私の身長はあまり高くない……いや、見栄を張っても仕方がないので正直に言おう。私はものすごくちっちゃい。
 この背丈のせいで、私は大人にみられることなどほとんどないし、年相応に思われることもない。
 それが、今回悪い方向に働いたのだ。

 私は必死に門番を説得した。
 だが、門番もおいそれとそれを信用しては仕事を全うしているとは言えないのだろう。
 私の言葉に耳を貸そうともしなかったのだ。
 このままではいずれ奴に追いつかれる……そうなれば、門番の人も館にいる人間も殺されてしまう。
 それは避けたかった。
 だから私は、館に入ることを諦め、必死に逃げていた。
 私はまだ14歳だ……王族が社交場に出るのは15歳からとなっている。その為、私はまだそれほど顔を知られてはいない。だから門番の人が私の顔を知らなくて姫だと信じてもらえなくても仕方がない……仕方がないのだ……。
 …………でも。


「お父様、お母様……ジュダ……アンバー」


 ………大切な人がいなくなった。
 私の周りの大切な人が……。
 どうして、どうしてこうなるの……。


「安心しろ、すぐにお前もあいつらに会える」
「っ!?」


 背筋がゾッとする。
 ジュダをアンバーをそしてお母様を殺した男が目の前にいた。
 見つかった……闇の魔女に出会う前に……そんな……ジュダ……アンバー……ごめんなさい。


===================================


「うーん、確かこっちの方に行ったんだけどなぁ」
「手分けをして探そうか?」
「そうだね、じゃあ、私はこっちを探すよ」
「了解、じゃあ僕は向こうだね」


 先ほどの男を見失ってしまった私達は、手分けをして探すことにした。
 見失ったとはいえ、それ程遠くには行っていないだろう。
 空から探せばすぐ見つかるかな……私はそう考えて風の魔法で空を飛ぶ。


「うーん、いないなぁ……あ」


 空から探しても見つからないなぁと思っていたその時、路地裏の物の陰にそれらしき男を発見した。


「見つけた……こんなところで何をしてるんだろう……やっぱり怪しいよね」


 人を見かけで判断するのは良いことではない……が、あの人の放つ異様な殺気……押し殺しているんだろうけど微妙に感じるその殺気は私を不安にさせる。
 そして……、その不安は当たっていた。


「いけないっ!」


 男の前には路地裏に置かれた物で隠れていたが、少女が一人座っていた。
 その少女に向かって男は持っていたショートソードのような剣を抜く。


風弾ウィンディローア!」


 私は咄嗟に男に向かって風の魔法を放った。
 完全に不意打ちになったはずなのだが、男はそれに気づき、大きく後ろにジャンプし躱した。


「アンタ、一体何やってるの!」


 私はバトーネを抜き、少女と男の間に割って入る。


「大丈夫?」
「………え?」


 少女は眼に涙を浮かべていた。
 その子の涙を見た瞬間私の頭に血が上る。
 その子の涙はとても悲しい……なぜかそう思える涙であった。
 ううん、その子の泣いている姿に自分の泣いている姿が重なったような気がした。


「アンタ、なんでこの子を殺そうとしたの?」
「仕事だ……邪魔をするならお前も殺す」
「やれるものならやってみなさい!」
「駄目、逃げて!貴方まで死んじゃう!!」
「死なないよ、それに逃げない……私は冒険者だもん!」


 そう言って、私は構えたバトーネに力を入れる。
 あいつが強いのは私にも解る……けど、負けるもんか!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...