闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 2章

襲撃

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 アンダールシア近隣の森にある一つの砦。
 その一室に、エメラルドの髪をした、見目麗しい女性と無精ひげを生やした一人の男性が難しい顔をして話をしていた。

 
「アーケン……何か策はないか?」
「隊長を救う策……ですか?ん~~~、隊長が捕らえられているのなら恐らく城の牢屋でしょうけど……あそこから救い出すとなるとかなりの手練れに忍び込んでもらうしか……」
「なら、私が行こう」
「いえ、副隊長の実力でもちっと厳しいんじゃないでしょうか……敵のシュナイダーくらいの実力がないと……」
「シュナイダー……紅の傭兵団の副団長か……」


 一室にいる女性の方は近衛隊副隊長セリシアナである。
 彼女が部隊を率いてこの砦に籠る理由はたったの一つ、自分の部隊の隊長を助けるためであった。
 

「だが、急がなければギリアム隊長は命を落とすかもしれん……」
「そうっすねぇ……でも、焦っちゃいけねぇっすよ。今はとにかく情報を集めねぇと……隊長の居場所すらまだはっきりしてねぇんすから」
「そう……だな……すまない、アーケン」
「何言ってんすか、隊長を助けたい気持ちはみんな一緒っすよ……」
「……ああ」


 だが、セリシアナは焦っていた……それも仕方ない。
 隊長が捕まり、この砦に逃げてきてから、すでに数日たつと言うのに自分たちは何も行動を起こしていないのだ。
 アーケンの言う通り、何の情報もなしに動けば部下を危険に追い込むだけであることは確かである。
 だが、ここまで情報が手に入れられないとは……。

 もちろん、セリシアナも情報を手に入れるために、部下を城の中に侵入させたりとしているのだが……その部下が悉く失敗し、殺されているのだ。


「なぜここまで上手くいかんのだ……」
「それだけ、敵が強大ってことっすかね……」


 そうなのだろうか……いや、きっとそうなのだろう……まるでこちらの手の内を読んでいるかのように我々の行動を悉く潰してくる。
 それだけ、敵が強大だと言うことか……。


「セリシアナ様!!!!!!」
「どうした!?」


 一人の兵士が慌てたように部屋の中へと駆け込んできた。
 胸騒ぎがする……。


「敵です!!敵が攻めてきました!!!」
「なんだと!?」


 セリシアナに戦慄が走る。
 馬鹿な……なぜこの場所がバレた……?
 確かに砦という性質上バレやすいとは思っていた……だが、それが分かっているからこそ、部下を森の周辺に配置させ何者かが寄ってきたらすぐに報告させるように警戒させていたのだ。
 誰かに見つかった可能性があればすぐにでも逃げることが出来るように……。

 だが、これまでにこの砦の近くに来た人間はいない……警戒させていた兵士が見逃した?
 ……馬鹿な、一人が見逃しても何人もでフォローが出来るよう配備していたはずだ……それでも見逃したというのか……?


「副隊長、考えてる場合じゃないっすよ!すぐに外に行かねぇと!」
「そ、そうだな!」


 セリシアナとアーケン、そして報告した兵士が部屋を飛び出す。


 砦の門の上には数人の兵士が門の外にいる敵兵士を見つめていた。
 そこに、セリシアナと兵士が駆け付ける。


「敵の数は!」
「セ、セリシアナ様……敵の数は森に隠れ正確には解りませんが二千……いや、三千くらいはいるかと……」


 セリシアナは砦の門上から敵を確認した。
 門の外には敵兵がびっしりと埋め尽くされている……、確かにこれは少なくても二千は超えているだろう……それに比べこちらの兵の数は五百足らず……圧倒的な戦力差である。


「弓隊をここに!なんとしても門を開かせるな!」
「お~~、アンタがセリシアナちゃんかい?」
「気安く呼ぶな!誰だ貴様は!」


 一人の兵士に似つかわしくない荒くれ者のような男が下からセリシアナに話しかけてきた。
 

「俺は紅の傭兵団のマストリスってもんさ……へえ、聞いてた通りの美人さんだねぇ……こりゃ、後が楽しみだ」


 セリシアナを品定めするかのようにジロジロとみると、マストリスと名乗った男は舌なめずりをした。


「下衆が…‥」
「セリシアナ様、弓隊到着しました!」
「よし、絶対に門を開かせるな!ここから敵全てを撃ち抜くつもりで弓を構えろ!」


 セリシアナが号令をかける……が……。
 その瞬間、砦の門が音と共に開いたのだ……。


「なっ!?どういうことだ……なぜ門が開く!?」
「おーおー、いらっしゃいとばかりに開いちまったなセリシアナの嬢ちゃんよぉ!」
「マズい、敵が中に雪崩れ込む!全員すぐに迎え撃ち、門の外に追い出すのだ!」


 セリシアナは焦りながらもすぐに指示を出す。
 門が開いてすぐならばまだ、なんとか追い出し、再び門を閉めることが出来るかもしれない!
 まだだ、まだ間に合う!……が。


「セリシアナ様!!」
「今度は何だ!?」
「アーケンが砦の門を開放し、再び閉めようとする味方を斬り始めました!」
「なん……だと……」


 そうか……そう言うことか……私が派遣した部下が悉く殺されたのも……この砦に我らがいることがバレたのも……門が解放されたのも……。
 理解すれば簡単な事である……この近衛に裏切り者がいたのだ……それも、自分が信頼していた男が……アーケンが……裏切っていた。
 アーケンは作戦のすべてを知っている……それどころか作戦を考えたのはほとんどがアーケンだ……そのアーケンが敵に寝返っていたのであれば全てが筒抜けになっていて当然である……。

 この間抜けが……そんなことに私は今まで気づけもしなかったのか……。
 自分の無能さが嫌になる……だが……。

 今はそれを嘆いている場合ではない。

「私が行く!なんとしてもアーケンを倒し、門を再び閉めるぞ!」
「はっ!!」


 セリシアナは門の上から飛び降り、砦内の広場へと降り立った。
 

「アーケン!!!」


 怒りの声と共に、先ほどまで仲間だと思っていた相手を睨みつける。


「すんませんねぇ……副隊長………でも、あんたが悪いんすよ?頭悪いから」
「貴様ぁああああ!」


 怒りと共に、アーケンへ突進するセリシアナ。
 セリシアナは腰に携えた剣を抜くと、アーケンめがけて振り下ろした……が。
 その剣はアーケンに届く前にその進行を止められる。
 大きな斧がその剣を受け止めたのだ。


「悪いね、副隊長……アンタの相手は俺じゃねぇんですわ」
「ぐ……貴様、邪魔をするなぁ!」
「おいおい、連れねぇことを言うなよセリシアナちゃんよぉ……俺と楽しもうぜ?」


 マストリスである……セリシアナの怒りと共に込めた渾身の一撃は軽々と受け止められる。
 そして……。


「そらよ!!」
「ぐっ!」


 マストリスが斧を振るうとセリシアナの綺麗な銀色の鎧の肩の部分が砕け散った。


「ガハハ、アンタにお似合いのセクシーな鎧にしてやるぜぇ」
「……屑が……」


 下卑た笑いをするマストリスにますます怒りを募らせるセリシアナであった。
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