闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 2章

危機一髪

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「おらおら!近衛の副隊長ってのはそんなもんかよ!」


 マストリスの繰り出す斧が徐々にセリシアナの鎧を砕いてく。
 精錬された銀の鎧はすでに見る影もなくただの鉄の胸当てのようになっていた。


「………舐めるなよ」
「むっ?」


電爆撃ライトニングブラスト!!」


 セリシアナの掌から雷の魔法が迸る。
 閃光のように一瞬にしてマストリスに牙をむいたその雷はマストリスが避ける間もなく被弾した。


「油断をするからだ……馬鹿め」


 確実に手ごたえがあった……あのタイミングでは避けることは不可能。
 当たりさえすれば倒せるとまではいかなくてもかなりのダメージを与えられた筈だ。

 セリシアナの天啓スキルは『雷の魔法』であった。
 その適正は高く、彼女はこれまでその雷の魔法と剣の腕を武器に近衛隊の副隊長にまで上り詰めたのだ。
 その実力は今の電爆撃ライトニングブラストに限らず、雷の魔法の力を最大限にまで操れるほどである……だが。


「へぇ……さすが、『雷の姫騎士』と言われるだけはあるじゃねぇの」
「なっ………無傷だと?馬鹿な!」
「おら、驚いてる暇はねぇぜ!」


 自分の雷の魔法を喰らったはずであるのに、全く平然としているマストリスに驚愕し、マストリスの放った斧に対処するのを一歩遅らせてしまうセリシアナ。
 なんとか、剣を合わせたが、その威力に押されまともに斧を喰らってしまった。

 斧は残っていた鎧を完全に砕く。


「かはっ」
「はっ、身軽になったじゃねぇか……次はその邪魔な服も破ってやるぜ?」
「く……くそっ……私の雷が効かぬわけがない……効かぬわけがないのだ!雷閃槍ライトニングランス!!」


 今度こそ、確実に敵の胸を捕らえたセリシアナの雷の魔法だが………驚くことにマストリスの体を通過する……マストリスの体を貫いた訳ではない……まるで、マストリスなど居ないかのようにそのまま何事もなくマストリスの体を通っていったのだ。


「なっ……どういうことだ……」
「ハハハ!簡単な事だ……俺の天啓スキルが関係しているのよ」
「馬鹿な……貴様の天啓スキルは『雷無効』だとでもいうのか!」
「ハッ、そんなつまんねぇスキルの訳がないだろうがよぉ……俺の天啓スキルはこれよ……」


 そう言うと、マストリスの体がまるで雷のように輝くと一瞬にしてセリシアナの後ろへと移動していた。


「なっ……まさか……」
「そうさ、俺の天啓スキルは『雷化』……てめぇの雷の魔法が効くわけねぇってことだよ!」
「があっ!」


 後ろをとったマストリスは思い切りセリシアナのお腹を蹴り飛ばす。
 そして、右腕に足を乗せると、思いっきり踏む込んだ。

 ―――――――――ボキッ。


 鈍い嫌な音が木霊する。


「ああああああああああああ!!」


 その痛みに耐えかねて、セリシアナの悲鳴が響き渡った。


「おーおー、いい声で鳴くじゃねぇの……最高だぜ、副隊長さんよぉ……もっと俺を愉しませてくれよ?」


 下卑た笑いをし、セリシアナを見るマストリス。
 そして、その足をもう一方の腕へと乗せる。


「う……あ……」


 もう一度、腕を折られる痛みを味わうのかと思うと、セリシアナの顔に恐怖の色が表れた。


「マストリス様!」
「あー?いいところだってのになんでぇ?」
「すみません、ほぼすべての近衛隊の鎮圧に成功しました……いかがいたしましょう?」
「そ、そんな……」
「はっ、いつも通りよ、男は殺せ!女は好きにしな!!」


 周りでは半数近い近衛部隊の死体と、武器を奪われ捕縛されている残りの近衛の姿があった。
 セリシアナとマストリスが戦っている間にほぼ決着が着いていたのだ。

 近衛はその性質からかなりの手練れの者が多い……だが、いくら手練れの者が多いとは言えども不意打ちに近い侵入を許し、その上、数が6倍も離れていればこうなるのは当然の事であった。
 宰相であるジーニアスの目論見通り、まだ夜にもならない夕方のうちに決着したのだ。
 そう……ジーニアスがある一つの事を間違えていなければ、このまま、アンダールシア軍の勝利で終わっていただろう。その後、繰り広げられるのはただの蹂躙だったはずだ……弱い者はすべてを奪われる。その誇りも生命も……ただ、ジーニアスは一つの勘違いをしていた。

 それは、ギリアムを救出した人物と、ジーニアスたちの元に現れた男は別人だと言うことである。
 そして、ジーニアスたちの元に現れた男は、城から脱出後、すぐさま王都からも脱出しており、仲間との合流の約束も守れず……どうしようかと悩んだ挙句、せめて、近衛の人間を味方につけて自分を責め立てる仲間への言い訳にしようと、すぐさまこの砦に向かっていたのだ。


 つまり………。


「ぎゃああああああああああああああああ!!!」


 砦の近く、女の近衛が兵士たちに囲まれ乱暴をされそうになっていたところで、兵士達6人が紙のように斬り裂かれた。


「な、なんだ!?」


 いきなり、味方が斬り裂かれ。何が起きたのか理解できないでいる兵士達も次々と切り伏せられる。
 そして………。


 20人近くが死体となったその場所に一人の男性が立っていた。


「襲撃は明日の昼って言ってたと思ったんだけど……僕のせいで変更されたのかな?……まあいいや、今のがアンダールシアの兵だよね?」


 まあ、近衛の人間が数人で女の人を囲って乱暴しようとしているのであれば味方に引き入れることなんて出来ないし……どちらにしても見逃せないか……。


「な、なんだあいつ!?」
「わ、解らねぇけど一瞬で20人近くを……マ、マストリス様!!!」


 恐怖を感じた兵士が、マストリスの名を叫ぶ。


「なんでぇ?いいところなんだから邪魔するんじゃねぇよ!!」


 再び、セリシアナの腕に足を乗せていたマストリスが機嫌悪そうに返した。


「た、助け……ぎゃああああ!!」


 クオンは容赦がない。
 先ほど女性に乱暴しようとしていた者たちと同じ格好の兵士たちを次々と斬り伏せていた。
 

「な、なんだぁ、あいつは?」



 マストリスが兵士の方を見ると、その瞬間にその兵士が倒れる。
 そして、その近くにいた兵士達も次々と倒れていった。


「ちっ、手練れは副隊長のこいつだけじゃなかったのかよ……アーケンの野郎、報告を怠りやがったのか?」


 この短い間に、アンダールシアの兵士の数はどんどんと減っている。
 すでに500人は倒されているのではないだろうか?

 そして、その兵士たちに襲われそうになっていた近衛の女性。そして殺されそうになっていた近衛の男性は今自分の目の前で何が起きているのかすら理解できず、呆然としていた。


「ちっ、好き放題やりやがって……仕方ねぇ!」


 舌打ちをすると、体を雷化させ、一直線にクオンの元へと移動するマストリス。
 そして、完全にクオンを捕らえたマストリスの斧がクオンの首へと振り下ろされた……が。


「おっと」


 完全に捕らえたと思った一撃をクオンは軽々とその剣で受け止めた。


「今のも天啓スキルかな……本当に滅茶苦茶だね」
「俺の一撃を受け止めやがっただと……ありえねぇ」
(相棒、こいつは結構強いぜ?)
「みたいだね……少し本気で行こう」


 そう言うと、優しい目つきをしていたクオンの目が鋭さを増したのだった。
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