闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
318 / 412
2部 2章

雷化

しおりを挟む
「少し本気出す……だとぉ?舐めやがって!さっきみたいにマグレで止められると思うなよ!」


 マストリスは再び体を雷化させると、一瞬でクオンの後ろへと回り込む。
 そして、持っている斧を振り下ろすが……先ほどと同じようにクオンの剣によってそれを受け止められてしまった。


「馬鹿な……ちっ……冷静になりやがれ俺……俺の攻撃を受け止めたのはこいつが初めてじゃねぇ……確かにこんな餓鬼に受け止められたのはショックだが慌てるようなことじゃねぇはずだ……」
「へえ、小物みたいな見た目のわりに結構冷静だね」
(やっぱり手強そうだぜ)
「だね、そのまま自滅してくれれば楽だったんだけど……ねっ!」


 言葉の終わりと同時にクオンが駆ける。


「は、速えぇ!?」


 咄嗟に雷化し、持っていた斧を雷速で動かし、クオンの攻撃を受け止めるマストリス。
 そして、そのまま雷速と打ち合いを始めたクオン。


「は……速い……何なのだあの少年は……雷化したマストリスと互角以上に……」


 目の前で打ち合いが起こったと思えば次の瞬間には明後日の方向で打ち合いが起こる。
 アンダールシアの兵士も近衛隊の兵士も唖然としてその光景に見入ってしまっていた。


「ちっ、これならどうだ!」


 マストリスが地面に斧を振り下ろす。
 すると、地面に叩きつけられた斧の威力で地面の砂が舞い上がり、目くらましとなった。
 クオンがマストリスを見失った次の瞬間、雷速でクオンへ突撃するマストリス。


「この距離でも避けられるかよぉ!」


 叫びながら斧を振るうマストリス……だが。
 クオンはその攻撃を受け流し、すれ違い様にマストリスを斬った。


「がぁっ!」


 脇を斬られたマストリスはそのまま地面に倒れ転がる。


「へぇ、雷って『斬れる』んだね」
(何言ってやがる相棒、俺様のお陰よ!)


 普通の剣であれば、雷となったマストリスにダメージを与えることは出来ないのかもしれない。
 だが、魔剣、聖剣と呼ばれる類であるクオンの剣、クレイジュであればたとえ実体のないものにでもダメージを与えられるのだ。そう、魔族にダメージを与えたように。



「く、くそっ……なんて奴だ。あの距離で俺の攻撃を受け流すなんて……」
「貴方の攻撃は一直線ですからね、受け流したり受け止めたりするだけなら簡単です」
「なんだとぉ!」
「どれだけスピードが速くても毎回一直線に突っ込んでくるんですから軌道が読みやすいんです。軌道がよめるのならそこに剣や体を合わせるだけですから」
「く、くそが……」


 そう、マストリスの天啓スキルは雷化、そのスピードは速すぎてマストリスにはまだ扱いきれていないのである。雷のようにジグザグに移動できればあるいはクオンの体に届くかもしれなかったが、今のマストリスにはそれが出来ない。
 いや、彼自身もその弱点を克服しようとしていたのだが、短い距離で雷化したたまま曲がるということが出来なかったのだ。それなりに距離があればまだできるのだが、クオンの後ろに回り込んだときはなどはかなり距離を走った後、くの字に曲がり、後ろにまで移動したのだ。

 普通の相手であればそれですら目でとらえることは出来ない。
 そのため、大抵の相手はその一撃で沈む……だが、クオンは違った。
 その動きを捉えた上でさらに、短い距離を曲がることが出来ないと言うことをその一度目の行動で見抜いてしまったのだ。

 つまり、完全にクオンの方が一枚上手なのである。


「負けねぇ……負けるわけにはいけねぇ……俺たち紅の傭兵団に失敗は許されねぇ!」
(来るぞ、相棒!)
「ああ」


 再び雷化し、クオンに突っ込むマストリス……だが、クオンはそれを再び受け流し、すれ違いざまに斬り裂いた。


「がふっ……ちくしょう……」
「天啓スキルというのは便利だね……でも、そればかりに頼っている君たちに僕は負けないよ」



 そう、もしマストリスに雷化以外の何かがあればクオンは危機に陥っていたかもしれない。
 だが、マストリスは自分の天啓スキルに頼り切り、そのほかの技術をあまり磨いていなかった。
 それでは、何年もカモメを護るために己のすべてをかけて磨いたクオンの剣術、体力、そして洞察力に打ち勝つことは出来ないのだ。
 もし、雷化の能力で短距離で曲がれるようになっていたとしても、クオンに勝つことは出来なかっただろう。


「これで終わりだよ」


 クオンがゆっくりとマストリスに近づく。


「クソっ……終われねえ、このまま終われるかよ!!」


 再び、雷化する……そして……。

 雷速で移動するマストリスが移動した先にいたのは……傷つき、動けなくなっているセリシアナだった。


「せめて、こいつだけは道連れにさせてもらうぜ!!」
「なっ!?」


 突如目の前に現れたマストリスに、セリシアナは驚愕と絶望に顔を歪める。
 自分の体は先ほどの戦いでボロボロだ……躱すことなど出来ない。


「死ねぇ!……あがっ……」


 マストリスの動きが止まる……マストリスの視線が自分の胸の部分に移動する。
 そこには、剣の刀身が突き出ていた。
 クオンの剣、クレイジュである。
 マストリスの狙いを一瞬で見抜いたクオンは風の魔法で自分の足元を破裂させ、その爆風で移動力を上げる。以前から使っているクオンの得意な移動方法である。
 そして、一瞬にしてマストリスに追いついたクオンはマストリスの心臓を剣で貫いたのだ。
 そのスピードは雷速よりも速かったかもしれない。


「く……そ……」


 心臓を貫かれ、その場に倒れるマストリス。
 その光景を見たい近衛の兵士たちが、歓声を上げた。
 そして、リーダーを失ったアンダールシアの兵士はクオンの強さに恐怖し、我先にと砦から逃げ出していったのだった。


「マジっすか……ありゃぁ、副団長並みに強いんじゃあ……」



 砦の隅でその戦いを見ていたアーケンは顔を歪めながらその少年を見つめていた。
 そして、この場に留まるのは得策ではないと判断し、彼もまたこの戦場から逃げ出すのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...