闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 2章

味方

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 近衛隊を襲撃していたアンダールシアの兵士たちは自分たちのリーダーが倒されたことにより戦意を喪失し、敗走していった。


「き、貴殿は一体……」


 セリシアナが自分の前に立つ少年にそう問いかける、だが、すぐに思い直したのか慌てて言葉を上書きした。


「い、いや、その前に礼を言わせてくれ……貴殿のおかげで我々は助かった……感謝する」
「いえ……ところで、あなた方はアンダールシアの近衛隊の人達でしょうか?」
「そうだ……貴殿は何故、我々を救ってくれたのだ?」
「貴方達がアンダールシアを裏切ったと聞いたので……」


 クオンのその言葉にセリシアナは怒りに似た声を上げる。


「我々はアンダールシアを……王を裏切ってなどいない!……あの偽物が我らの敬愛する王を騙っているのだ!!」


 クオンはその言葉に一瞬驚くも、すぐに優しい笑顔で返した。
 その笑顔にセリシアナは見惚れる……なんて優しい笑顔でこの少年は笑うのだろう。
 少年の笑顔にはその歳からは考えられないほどの優しさ、そして安らかさを感じたのだった。


「よかった、あの子にはまだ味方がいたんだね」
「あの子……?」
「メリッサという女の子を知っていますか?」
「っ!……無論だ!メリッサ様は我らアンダールシアの姫……それなのに……母親殺しという汚名を着せられ……あの偽物に命を狙われている……我々の目的は姫を見つけ、保護することにある!」


 どうやら、クオンの予想通り、近衛の人間はメリッサの味方になってくれそうである。
 城で集めた情報や、先ほどの敵の事を考えるとこれから先、戦力は必要である。
 自分たちだけで勝てるほど、容易い相手ではなさそうなのだ。


「よかった……なら、僕たちと一緒にラリアスまで来ていただけませんか?」
「……どういうことだ?」
「今、メリッサはラリアスにいます」
「本当か!?」
「はい」
「姫は……メリッサ様は無事なのか?」
「無事です……今は僕らの仲間が護っています」
「そうか……ありがとう」


 セリシアナの眼から涙が零れる。
 

「ですが、いつまでも護っていられるとは限りません……敵の力は僕らが予想していたよりも大きい……僕らには戦力があまりないのです」
「我らを……我らを使ってくれ!ここにいる近衛は姫の為なら命だって投げ出せる!先ほどは数に押され、奇襲をかけられ不覚を取ったが……ここにいる者たちは熟練の兵士だ……きっと役に立って見せる!」


 セリシアナの言葉に周りにいた兵士達もそれぞれ声を上げる。
 その言葉は力強いもので、彼らのメリッサに対する思いは本物に見えた。


「はい、僕からもぜひお願いします」


 クオンがそう答えると、セリシアナが安堵の息を吐く。
 そして、何かに気づいたのかセリシアナは再び難しい顔になった。


「クオン殿、助けていただいた上にこのような事を頼むのは無礼なのだが……お願いがあります」
「どうしました?」
「我らの隊の隊長がアンダールシアの城に捕らえられているのです」
「あの城にですか……」


 クオンが侵入したときにその情報は入手できなかった。
 

「はい、城の恐らく地下牢だと思われます……お願いします、クオン殿!貴殿の強さを見込んで恥を忍んで頼む!隊長を……ギリアム隊長を救出するのを手伝ってもらえないだろうか!」


 あの城にもう一度、潜り込むのは中々に難しい……。何せ敵の大将に僕の顔はバレている。
 その上、先ほど見つかってしまったせいで城の警戒は強まっているだろう……。
 とはいえ、味方は少しでも多い方がいい……その上、この隊の隊長となればそれなりに腕が立つのではないだろうか……しかも、近衛の隊長となればこの国の事にも詳しいだろう……出来ることなら救出したい。


「わかった……成功すると確約は出来ないけど、力を貸すよ」
「本当か!ありがとう!!」


 セリシアナはクオンの手を握り、感謝した。
 

「僕にはもう一人、ここに来ている仲間がいるんだ……その仲間に頼めば助け出せるかもしれない」


 そう、ディータならあのふざけた見た目とステルスの魔法で、その隊長と言う人を助けることが出来るかもしれない。それにはまず、ディータと合流しないと……。
 ディータの事だ、捕まったりはしていないと思うけど、僕のせいで街から出られなくなっているかもしれない……もし彼女が行動するとしたら夜だろう……。


「その者は、この砦に来ておられるのか?」
「いや、恐らくはまだ街にいる……だから、夜になったら合図を送ろうと思うんだ」


 今は日が傾き夕方になっている、あと二時間もすれば夜が訪れるだろう。
 すでに、僕らがこの砦にいることは敵にバレている。
 それなら、クレイジュに頼んで空に光を上げればきっとディータは気づくだろう。
 そして、ディータと合流したら、その夜のうちに再び城に潜入し、隊長を助け出す。
 助け出せれば、そのままラリアスに帰還してしまおう。
 中々にきつい作戦だが……やってやれないことはない……。


「それまでは皆さん、休んでいてください」
「解った、我々が出来ることはないか?」
「仲間と相談したうえで、もしかしたら頼むこともあるかもしれません」
「了解した、その時は遠慮なく言ってくれ……我々も全力を尽くす」
「はい」


 そう言って、クオンは夜が訪れるのを待つことにした。
 すでにその隊長がディータによって救出されていることも知らずに……そして……アンダールシアの中でも脅威となる力が動こうとしていることも知らずに……。


=============================


「ジーニアス様」


 アンダールシアの城の中にある、謁見の間。
 そこにジーニアスと、偽物の王がいた。
 
 二人が話をしているところに、一人の男が扉から入ってくる。
 その男はアーケンであった。アーケンは慌てた様子で、ジーニアスに報告をする。
 砦で起きた出来事を一部始終である。



「そうか……やはり、マストリスは敗れたか……しかし、あの男……すでに街から出ていようとは……」
「どうするのだ、ジーニアス……貴様の予想が外れたではないか!」


 ジーニアスの予想ではギリアムを連れたまま、この街を出るには夜になるまで身を潜めるだろうと予想していた。だが、城に侵入した男はすでに街から離れ、砦にまで移動していたのだ。
 男やギリアムと合流される前に砦を落としておきたかったジーニアスである。


「私の予想以上に厄介な相手の様ですね……このまま、放っておくことは出来ないようです」


 マストリスを破ったこともそうだが、近衛の副団長を仕留められなかったのも痛い……あまり、敵に戦力を持たせたくないのだ。


「ほう、マストリスが敗れたのか?」


 頭を悩ませているところに、一人の男が謁見の間へと入ってくる。


「副団長!」


 アーケンがそう叫ぶ。
 そう、現れたのは紅の傭兵団の副団長であった。
 ディータが潜入したときに出会った、一番危険な男である。


「面白い、ジーニアスよ……その男は俺によこせ」
「お前が出るというのか?」
「ああ、兵3000とマストリスを打ち破るほどの男だ……俺を愉しませることが出来るかもしれん」
「ふむ……いいだろう、貴様に兵を預ける……その男を殺してこい」
「兵などいらん……邪魔なだけだ」


 そう言ってマントを翻すと、副団長は謁見の間から出て行った。


「アーケン、お前もついて行け」
「了解だ……はは、副団長の戦いが見れるなんてツイてるぜ」


 そう言うと、先ほどまでクオンの強さに恐れていたアーケンが楽しそうに再び砦へと向かうのであった。
 

 ………すでに、あたりは闇に包まれ夜となっていた。
 副団長とアーケンが城の外に出ると、砦のある方角の空に、光が打ちあがる。


「ありゃあ、一体なんだ?」
「何かの合図だろうな……ツイているな」
「どういうことです、副団長?」
「あれが、上がったということは奴らはまだ砦にいるということだ」


 なるほどと、アーケンが手を打った。
 そして、副団長とアーケンは馬にまたがると、その光のある方向へと走り出すのであった。
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