320 / 361
2部 2章
アイルバース
しおりを挟む
辺りは夜の闇に包まれた。
「そろそろ、頃合いかしらね」
「ああ、兵士の数もなぜか減っているようだ……今なら街を抜けられるだろう」
ギリアムの言う通り、夕方を過ぎた頃からだろうか、急に街を巡回する兵士の数が減ってきた。
私達が街にいることを知っているのなら、減らすわけがないと思うのだけれど……どういうことかしら?
「何かの罠かもしれないわね……注意して進みましょう」
罠かもしれない……でも、だからと言ってこれ以上、ここにいるわけにはいかないのだ……明日の昼になれば近衛隊がいる砦が襲撃される。それより前に、私たちは砦に着かないといけない。
「行くわよ」
「ああ」
ギリアムは私の後に続き、周りを経過しながら進んでいく。
しばらく進むと、そこには大きな壁が現れた……街を護るために囲んでいる壁の一辺である。
門から堂々と出るわけにはいかない、となると、壁を飛んで逃げる?
ギリアムをチラリと見る、彼は中々に屈強な体をしている。
かなり鍛えているのだろう、近衛隊の隊長と言うだけの事はある。
そして、大分重そうだ……風の魔法で私は空を飛ぶことが出来るが……その魔法の対象は私のみ……一緒に誰かを連れて行く場合は私の腕力次第となるのだ……これだけの身体をした男を運ぶとなるとちょっと辛い……あまりスピードは出せないだろう。
「飛んでるところを発見されたら辛いわね……」
もし発見されたらスピードの出せない状態で上空に浮かぶ私たちは良い的だろう。
「となると……」
「どうしたのだ、ディータ殿?」
私が壁を前に考えているとギリアムが声を掛けてくる。
仕方ない、少し音を立ててしまうが、この壁を斬り裂くことにしよう……ここに根暗坊主がいれば楽に出来たのだが、私にそんな剣術は無い為、闇の刃で代用する。
「少し離れてなさい、壁を斬り裂くわ」
「斬り裂く?いや、この壁はかなりの分厚さだ……失礼だが、女性の腕で斬り裂けるような……あが!?」
ギリアムがそう言っている間にも私は闇の刃を発動させ、目の前の壁を斬り裂き大きな穴を空けた。
壁に穴を空けたとき崩れる瓦礫がいくらかの音を出す。
私は、周りの音や声に注意して耳を澄ました……。
特に何も聞こえない。
よかった、今の音で誰かに気づかれた様子はないようだ。
ここで、たまたま近くを通った兵士が駆け付けてきたりすれば私の運はかなり悪いと言えるだろう。
どうやら、私の運も捨てたものではないらしい。
「急ぐわよ」
「あ、ああ……」
呆気に取られているギリアムを促し、私達は壁を潜り抜けて街の外へ脱出した。
そして、しばらくギリアム先導の元、砦へと向かって歩いていると……前方の上空に輝く光が現れる。
「な、あっちは砦の方向……部下たちに何かあったのか!!」
「いえ、あれは……」
あの光は根暗坊主のクレイジュが放つ光……上空に放たれたということは私への合図だろう。
「私の仲間が砦にいるみたいね」
「ディータ殿の仲間が……?」
でも、おかしいわね……あの根暗坊主なら砦の近衛隊が敵に狙われていることを知っているはず……そんな中、あんな光を上げたらアンダールシアの兵が時間を早めて攻めてくる可能性もあるのに……あの根暗坊主がそんな阿呆なミスをするとは思えない……何かあったのかしら?
「でも、急いだほうがいいわね……走るわよ」
「了解だ」
私とギリアムは急いで砦へと向かった。
もしかしたら、砦がすでに襲われているのかもしれない……そう思って走っていくと、いらぬ心配とでも言うように砦は静かに佇んでいた。
……どうやら、現在襲われているということはなさそうだ。
「おかしい……」
私が安堵していると、ギリアムがそう言う。
「どういうこと?」
私が疑問に思い聞いてみる。
「砦の上には兵を常駐させて警戒しているはずだ……なのに今は誰もいない」
確かに、よく考えてみたら警戒していないのはおかしい。
ということはやっぱり何かあったのか?
何かがあって、警戒している余裕がないのだろう……あの根暗坊主がいるのだ……砦が全滅しているということはないと思うが……私はそう思いながらも足を速めた。
砦の中に入ると、中にはいくつもの死体が倒れている。
「これ……」
「我が近衛の者と、アンダールシアの兵だ……くそっ、襲撃されたのか!!」
なんてこと……そうか……私がギリアムを救出したことで、敵は作戦を早めたのだ……馬鹿か私は……その可能性を考えもしなかった。
「誰かいないか!!!」
ギリアムが叫ぶ。
そうだ、先ほど根暗坊主の光が上空に上がったのだ、少なくとも根暗坊主はいるはず。
「隊長!!」
「セリシアナ!!」
私の予想とは違い、所々、砕けた状態の銀色の鎧を着た女性が砦の中から現れた。
そして、その女性の後ろから見知った顔が出てくる。
よかった、無事だったみたいね。
「ディータ」
「何があったのかしら?」
私は根暗坊主に事のあらましを聞いた。
やはり、私がギリアムを救出したことで敵が作戦を早めたらしい。
そして、偶々、根暗坊主がここの情報を聞いていて、近衛の人達の半数を助けることが出来たようだ。
半数を失ったことは痛いが……全滅にならなくてよかったわ……でも、半数を失ったのは私のミスよね。
「ごめん、僕が城で見つかったからこんなことに……」
「いえ、あの隊長を救出した時点で結果は変わらなかったわ……私こそ考えが甘かった」
「僕もだ……それに、敵の強さも予想以上かもしれない」
根暗坊主が戦った、マストリスという男。
根暗坊主にとっては、倒せない敵ではないのだが、個人で近衛を圧倒できるほどの力を持っていたらしい。マストリスと言えば、城の中で見た傭兵団が話していた男だ。となると……あの時見た、副団長と呼ばれていた男……あの男が来る可能性もあるのではないか?
仲間がやられたのだその可能性はあるだろう。
「とりあえず、すぐにでも移動した方がいいかもしれないわね」
「うん、敵の戦力はかなり大きい。僕たちだけだと危険だ……それに、城で見たあの軍司令と呼ばれていた男……今戦えば確実に負けると思う」
「そう、そっちにもそんなにヤバいのがいたのね……こっちにもいたわ……副団長とか呼ばれていた……あの男とは戦わない方がいいわね」
あの男の強さは恐らく根暗坊主に匹敵する……根暗坊主でも確実に勝てるとは言えない相手だ……今、そんな相手と戦う必要はない……逃げれるなら逃げてしまうべきだろう。
私達は頷きあうと、ギリアムの出現で砦の中から出てきた近衛の人達へと呼びかける。
「皆さん、すぐに準備してください。これからこの砦を脱出します!」
「クオン殿……そんなに急がなくても大丈夫なのではないか?」
「いえ、ギリアムさんが救出されているのであれば、敵が仕掛けてこない理由がありません……今すぐにでも移動するべきです」
そう、ギリアムが囚われている状態であれば、私達が救出に再度、城を訪れる可能性が高い。
それなら、敵は私たちを待てばいい。その方が確実に仕留められるのだから。
だけど、ギリアムがすでに救出されているのであれば、敵は私達に追撃を掛けてくるはずだ……それも、今度は先ほどより戦力を増してである。
だから、すぐにでもこの場所を移動する必要がある。
この場所は敵にバレているのだから……だが、ここを襲った兵士たちを撃退した根暗坊主がいることは敵も知っているはずだ。それなら、さっきよりも大軍を用意しないといけないはずである……となれば、ここに来るまでにしばらく時間があるはずだ……今からすぐに移動してしまえば、敵に見つかることはないだろう。
私と根暗坊主はそう考えた……のだが。
「うむ、そう急ぐ必要はないだろう?」
一人の男が馬に乗り、砦へと突っ込んできた。
そして、馬から降りると、不敵に笑いながらそう言ってきたのだった……なんてこと……あの男の顔には見覚えがある……。
「根暗坊主、気をつけなさい!そいつが副団長と呼ばれていた男よ!」
「ほう、俺の事を知っているのか……まあ、一応名乗っておこう……私は紅の傭兵団、副団長……アイルバースと言う……貴様らに死を与える者だ」
「ディータ!君は近衛の人達を頼む!」
「解ったわ……油断するんじゃないわよ!」
「解ってる!」
根暗坊主も敵の強さを感じ取ったのだろう……すでにクレイジュを抜いて戦闘態勢だ。
「いいな……少年……貴様との戦いは楽しめそうだ」
そう呟いた、次の瞬間、アイルバースは根暗坊主の目の前に移動し、剣を振るっていた。
アイルバースの持っている剣は、確か刀と呼ばれる物である。
切れ味は素晴らしい武器であるが、その分、耐久力が無いと言われている。
だが、達人が振るえばその耐久力も無限大などと言われているが、眉唾である。
そして、アイルバースは間違いなくその達人の域であろう……それを証拠に、あの根暗坊主がその攻撃を捌ききれていなかった……。
「素晴らしい……俺の一撃を受けて、その程度のダメージとは……」
「なんて速さだ……」
根暗坊主は敵の攻撃に反応するも躱しきれず、肩を少し斬られていた……。
「ギリアム!今すぐ全員を率いて逃げるわよ!あの男には根暗坊主以外、絶対に近づくな!」
「わ、わかった!全員今すぐ、この砦を撤退する!急げ!!」
ギリアムの言葉を聞き、近衛の兵士たちはそれに従う。
「くっ……また、クオン殿に任せるというのか……くそぅ……私がもっと強ければ……」
「いずれ強くなれば良い話よ、今は逃げなさい……あいつの邪魔になる」
そう、近衛の人間がいることで根暗坊主は皆を護ろうとするはずだ……そうなると全力で戦えない。
出来ることなら、私も残って戦いたいところだが……敵がアイツ一人とは限らないだろう……なぜなら、あの男は根暗坊主以外に見向きもしない……近衛を仕留めるために動いていないのだ……なら、他にそれを狙う人間がいてもおかしくない……それなら、根暗坊主の分まで私が護らなければならないだろう。
彼らは今後私たちの貴重な戦力になるのだから……メリッサの為にもカモメの為にもこれ以上失う訳にはいかないのだ。
私はギリアムたちを率いて、砦を後にするのだった。
そして、砦には二人の男が互いを見据えて剣を構えるのであった。
「そろそろ、頃合いかしらね」
「ああ、兵士の数もなぜか減っているようだ……今なら街を抜けられるだろう」
ギリアムの言う通り、夕方を過ぎた頃からだろうか、急に街を巡回する兵士の数が減ってきた。
私達が街にいることを知っているのなら、減らすわけがないと思うのだけれど……どういうことかしら?
「何かの罠かもしれないわね……注意して進みましょう」
罠かもしれない……でも、だからと言ってこれ以上、ここにいるわけにはいかないのだ……明日の昼になれば近衛隊がいる砦が襲撃される。それより前に、私たちは砦に着かないといけない。
「行くわよ」
「ああ」
ギリアムは私の後に続き、周りを経過しながら進んでいく。
しばらく進むと、そこには大きな壁が現れた……街を護るために囲んでいる壁の一辺である。
門から堂々と出るわけにはいかない、となると、壁を飛んで逃げる?
ギリアムをチラリと見る、彼は中々に屈強な体をしている。
かなり鍛えているのだろう、近衛隊の隊長と言うだけの事はある。
そして、大分重そうだ……風の魔法で私は空を飛ぶことが出来るが……その魔法の対象は私のみ……一緒に誰かを連れて行く場合は私の腕力次第となるのだ……これだけの身体をした男を運ぶとなるとちょっと辛い……あまりスピードは出せないだろう。
「飛んでるところを発見されたら辛いわね……」
もし発見されたらスピードの出せない状態で上空に浮かぶ私たちは良い的だろう。
「となると……」
「どうしたのだ、ディータ殿?」
私が壁を前に考えているとギリアムが声を掛けてくる。
仕方ない、少し音を立ててしまうが、この壁を斬り裂くことにしよう……ここに根暗坊主がいれば楽に出来たのだが、私にそんな剣術は無い為、闇の刃で代用する。
「少し離れてなさい、壁を斬り裂くわ」
「斬り裂く?いや、この壁はかなりの分厚さだ……失礼だが、女性の腕で斬り裂けるような……あが!?」
ギリアムがそう言っている間にも私は闇の刃を発動させ、目の前の壁を斬り裂き大きな穴を空けた。
壁に穴を空けたとき崩れる瓦礫がいくらかの音を出す。
私は、周りの音や声に注意して耳を澄ました……。
特に何も聞こえない。
よかった、今の音で誰かに気づかれた様子はないようだ。
ここで、たまたま近くを通った兵士が駆け付けてきたりすれば私の運はかなり悪いと言えるだろう。
どうやら、私の運も捨てたものではないらしい。
「急ぐわよ」
「あ、ああ……」
呆気に取られているギリアムを促し、私達は壁を潜り抜けて街の外へ脱出した。
そして、しばらくギリアム先導の元、砦へと向かって歩いていると……前方の上空に輝く光が現れる。
「な、あっちは砦の方向……部下たちに何かあったのか!!」
「いえ、あれは……」
あの光は根暗坊主のクレイジュが放つ光……上空に放たれたということは私への合図だろう。
「私の仲間が砦にいるみたいね」
「ディータ殿の仲間が……?」
でも、おかしいわね……あの根暗坊主なら砦の近衛隊が敵に狙われていることを知っているはず……そんな中、あんな光を上げたらアンダールシアの兵が時間を早めて攻めてくる可能性もあるのに……あの根暗坊主がそんな阿呆なミスをするとは思えない……何かあったのかしら?
「でも、急いだほうがいいわね……走るわよ」
「了解だ」
私とギリアムは急いで砦へと向かった。
もしかしたら、砦がすでに襲われているのかもしれない……そう思って走っていくと、いらぬ心配とでも言うように砦は静かに佇んでいた。
……どうやら、現在襲われているということはなさそうだ。
「おかしい……」
私が安堵していると、ギリアムがそう言う。
「どういうこと?」
私が疑問に思い聞いてみる。
「砦の上には兵を常駐させて警戒しているはずだ……なのに今は誰もいない」
確かに、よく考えてみたら警戒していないのはおかしい。
ということはやっぱり何かあったのか?
何かがあって、警戒している余裕がないのだろう……あの根暗坊主がいるのだ……砦が全滅しているということはないと思うが……私はそう思いながらも足を速めた。
砦の中に入ると、中にはいくつもの死体が倒れている。
「これ……」
「我が近衛の者と、アンダールシアの兵だ……くそっ、襲撃されたのか!!」
なんてこと……そうか……私がギリアムを救出したことで、敵は作戦を早めたのだ……馬鹿か私は……その可能性を考えもしなかった。
「誰かいないか!!!」
ギリアムが叫ぶ。
そうだ、先ほど根暗坊主の光が上空に上がったのだ、少なくとも根暗坊主はいるはず。
「隊長!!」
「セリシアナ!!」
私の予想とは違い、所々、砕けた状態の銀色の鎧を着た女性が砦の中から現れた。
そして、その女性の後ろから見知った顔が出てくる。
よかった、無事だったみたいね。
「ディータ」
「何があったのかしら?」
私は根暗坊主に事のあらましを聞いた。
やはり、私がギリアムを救出したことで敵が作戦を早めたらしい。
そして、偶々、根暗坊主がここの情報を聞いていて、近衛の人達の半数を助けることが出来たようだ。
半数を失ったことは痛いが……全滅にならなくてよかったわ……でも、半数を失ったのは私のミスよね。
「ごめん、僕が城で見つかったからこんなことに……」
「いえ、あの隊長を救出した時点で結果は変わらなかったわ……私こそ考えが甘かった」
「僕もだ……それに、敵の強さも予想以上かもしれない」
根暗坊主が戦った、マストリスという男。
根暗坊主にとっては、倒せない敵ではないのだが、個人で近衛を圧倒できるほどの力を持っていたらしい。マストリスと言えば、城の中で見た傭兵団が話していた男だ。となると……あの時見た、副団長と呼ばれていた男……あの男が来る可能性もあるのではないか?
仲間がやられたのだその可能性はあるだろう。
「とりあえず、すぐにでも移動した方がいいかもしれないわね」
「うん、敵の戦力はかなり大きい。僕たちだけだと危険だ……それに、城で見たあの軍司令と呼ばれていた男……今戦えば確実に負けると思う」
「そう、そっちにもそんなにヤバいのがいたのね……こっちにもいたわ……副団長とか呼ばれていた……あの男とは戦わない方がいいわね」
あの男の強さは恐らく根暗坊主に匹敵する……根暗坊主でも確実に勝てるとは言えない相手だ……今、そんな相手と戦う必要はない……逃げれるなら逃げてしまうべきだろう。
私達は頷きあうと、ギリアムの出現で砦の中から出てきた近衛の人達へと呼びかける。
「皆さん、すぐに準備してください。これからこの砦を脱出します!」
「クオン殿……そんなに急がなくても大丈夫なのではないか?」
「いえ、ギリアムさんが救出されているのであれば、敵が仕掛けてこない理由がありません……今すぐにでも移動するべきです」
そう、ギリアムが囚われている状態であれば、私達が救出に再度、城を訪れる可能性が高い。
それなら、敵は私たちを待てばいい。その方が確実に仕留められるのだから。
だけど、ギリアムがすでに救出されているのであれば、敵は私達に追撃を掛けてくるはずだ……それも、今度は先ほどより戦力を増してである。
だから、すぐにでもこの場所を移動する必要がある。
この場所は敵にバレているのだから……だが、ここを襲った兵士たちを撃退した根暗坊主がいることは敵も知っているはずだ。それなら、さっきよりも大軍を用意しないといけないはずである……となれば、ここに来るまでにしばらく時間があるはずだ……今からすぐに移動してしまえば、敵に見つかることはないだろう。
私と根暗坊主はそう考えた……のだが。
「うむ、そう急ぐ必要はないだろう?」
一人の男が馬に乗り、砦へと突っ込んできた。
そして、馬から降りると、不敵に笑いながらそう言ってきたのだった……なんてこと……あの男の顔には見覚えがある……。
「根暗坊主、気をつけなさい!そいつが副団長と呼ばれていた男よ!」
「ほう、俺の事を知っているのか……まあ、一応名乗っておこう……私は紅の傭兵団、副団長……アイルバースと言う……貴様らに死を与える者だ」
「ディータ!君は近衛の人達を頼む!」
「解ったわ……油断するんじゃないわよ!」
「解ってる!」
根暗坊主も敵の強さを感じ取ったのだろう……すでにクレイジュを抜いて戦闘態勢だ。
「いいな……少年……貴様との戦いは楽しめそうだ」
そう呟いた、次の瞬間、アイルバースは根暗坊主の目の前に移動し、剣を振るっていた。
アイルバースの持っている剣は、確か刀と呼ばれる物である。
切れ味は素晴らしい武器であるが、その分、耐久力が無いと言われている。
だが、達人が振るえばその耐久力も無限大などと言われているが、眉唾である。
そして、アイルバースは間違いなくその達人の域であろう……それを証拠に、あの根暗坊主がその攻撃を捌ききれていなかった……。
「素晴らしい……俺の一撃を受けて、その程度のダメージとは……」
「なんて速さだ……」
根暗坊主は敵の攻撃に反応するも躱しきれず、肩を少し斬られていた……。
「ギリアム!今すぐ全員を率いて逃げるわよ!あの男には根暗坊主以外、絶対に近づくな!」
「わ、わかった!全員今すぐ、この砦を撤退する!急げ!!」
ギリアムの言葉を聞き、近衛の兵士たちはそれに従う。
「くっ……また、クオン殿に任せるというのか……くそぅ……私がもっと強ければ……」
「いずれ強くなれば良い話よ、今は逃げなさい……あいつの邪魔になる」
そう、近衛の人間がいることで根暗坊主は皆を護ろうとするはずだ……そうなると全力で戦えない。
出来ることなら、私も残って戦いたいところだが……敵がアイツ一人とは限らないだろう……なぜなら、あの男は根暗坊主以外に見向きもしない……近衛を仕留めるために動いていないのだ……なら、他にそれを狙う人間がいてもおかしくない……それなら、根暗坊主の分まで私が護らなければならないだろう。
彼らは今後私たちの貴重な戦力になるのだから……メリッサの為にもカモメの為にもこれ以上失う訳にはいかないのだ。
私はギリアムたちを率いて、砦を後にするのだった。
そして、砦には二人の男が互いを見据えて剣を構えるのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
123
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる