闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 3章

ジーニアスの策謀

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「何!?アイルバースが失敗しただと!?」


 アンダールシア城の謁見の間に三人の男がいた。
 一人は王座に座るアンダールシアの王……その姿を借りた偽物である。
 もう一人はその偽王の隣に眼鏡をかけ、戦いとは無縁そうな顔の優男……だが、その人こそこの国の宰相である、ジーニアス。

 そしてもう一人は、以前も報告の為、この謁見の間に現れた男、アーケンであった。

 そのアーケンの報告は紅の傭兵団のナンパー2であり、ジーニアスがその強さに信頼を置く男、アイルバースが近衛隊の討伐に失敗したと言うものであった。


「アイルバースが負けたというのか?」
「いえ、副団長はあと少しの所まであの男を追い詰めてたんすが……ですが、相手も強く、副団長の刀を折り、敵の仲間が間に入ったことで、逃がす結果となったんすよ」
「馬鹿な、なぜ追わなかった!」
「助けに来た仲間が空間を操るスキルを持っていたんすよ……追いかける魔もなく一瞬で逃げられちまいやした」
「なるほど……空間使いの敵か厄介な……」
「ジーニアスどうするのだ?」


 偽王の問いに、ジーニアスは顎に手をやり考える。
 近衛の数は250……このまま逃げられたところでそれ程の脅威ではない……だが、もしメリッサ王女の元に行かれれば、メリッサ王女を旗に、反乱軍を作ろうとするかもしれん……そうなれば厄介だ。


「恐らく、奴らが向かっているのはラリアスでしょう」
「王女が逃げた場所か……合流されると厄介だぞ?」
「はい、ですので、追撃をかけようと思う」
「そいつは厳しいんじゃないですかい?奴らは250……機動力で言えばこちらの軍より上ですぜ?」
「なら、足を止めてしまえばいい」
「……どういうことです?」


 アーケンが頭の上にハテナを浮かべる。
 足を止める、確かにそれが出来れば追いつけるだろう……でも、そんな都合よく相手の足を止める方法があるのだろうか?

 
「近衛の連中は甘ちゃんぞろいだ……たとえ逃げる途中であったとしても民が襲われているのを見れば放っておくことは出来ん奴らよ」
「確かに、そうっすけど……そんな都合よく襲われてる民がいるんですかい?」
「居なければ作ればいい、確かラリアスまでの道にドーリアンという村があったな」
「はい、ありやすけど……確か、最近山賊が現れるからと討伐の依頼が国に来てやしたね……近衛の方にも情報が来ていたはずですぜ?」


 元、近衛に所属していたアーケンは思い出しながらそう言った。


「その山賊どもを使う、金を握らせ、その村を襲わせろ……国はそれを罪に問わないと言ってな」
「ハハ、外道ですねぇ……なるほど、目の間で襲われている村を見たら近衛の連中は見捨てられないでしょうね」
「そうだ、そうなれば奴らはその村で足を止めなければならない……もし万が一見捨てれば近衛の連中は村人を見せてる薄情者だと国民に知らせればいい……そうすれば、奴らの信用はなくなる」


 仮に逃げられたとしてもその状態であれば反乱軍を募らせることは出来ないだろう。
 そして、予想通り足止めを出来るのであれば……。


「ドルボルア将軍に追撃をさせる」
「将軍を動かすんですかい?」
「アイルバースを退けるほどのものだそれぐらいせねばならん」
「ジーニアスよ、だがドルボルア将軍はアイルバースほどの腕は無いと聞く?大丈夫なのか?」
「アイルバースを退けた男は倒せぬかもしれません……だが、ドルボルアがその男を足止めしている間に近衛の連中を殺せばいいのです……その男一人生き残ったところでこの先どうすることも出来ないでしょう」


 ジーニアスの不敵な笑いが謁見の間に響き渡るのであった。




===========================




 クオン達がアンダールシアに向かってすでに5日経っていた。
 

「お、いいね、メリッサ。かなり魔力が上がったよ」
「はい、ありがとうございます!カモメ様!」


 メリッサはやる気があり、素直であり吸収力も高かった。
 そのため、たったの5日の修行だと言うのに彼女の魔力はかなりのものとなっていた。
 魔法もそれなりに多くの魔法が使えるようになっている。
 中でも氷と水の魔法は得意の様で上級の魔法まで操れるようになっていた。


「でも、結局、魔女様からもエリンシア様からも一本も取れませんでした……。」
「あはは、私もエリンシアも強いからね……でも、メリッサならその内、一本くらいとれるようになるよ♪」
「はい、頑張ります!」
「それじゃ、アンリエッタが呼んでるみたいだからちょっと領主の館に行ってくるね……メリッサはエリンシアに修行を見てもらってて」
「はい!」


 私がそう言うと、エリンシアが「いってらっしゃいませ」と手を振ってくれる。
 そのエリンシアの横ではレンが自分の武器を改造しているのだろうか、様々な部品を地面に広げ、時々爆発を起こしながらも試行錯誤していた。
 そして、失敗しているレンを笑いながらローラが楽しそうにその様子を見学している。
 大丈夫かな……あれ……なんか、また変なものを作りそうで怖いよ。

 一抹の不安を抱きながらも、私はギルドの訓練場を後にし、領主の館に向かった。
 クオン達がアンダールシアに向かってから五日……予定通りならそろそろ戻ってくる頃である。
 戻ってくればいの一番に二人とも私の所に来てくれるはずなので、まだ戻っては来ていないはずだ……大丈夫だよね、二人とも……。

 でも、となると、アンリエッタが私を呼ぶ理由とするとヴァルガンとローランシアからの使者が来たのかな?

 

 領主の館に着くと、門番の人が私に気づき、中へと通してくれた。
 中へ入るとメイドさんが、奥の部屋に通してくれる、その部屋にはアンリエッタとギルドマスターのフランクの姿があった。


「魔女様、よくぞ来てくださいました」
「呼んでるって聞いたけど、獣王国とローランシアから使者が来たの?」
「お、さすがだな……半分当たりだ」
「半分?」


 ってことはどっちかからしか来てないってことかな?
 まあ、別々の国だし、一緒に来る方がおかしいか……。


「獣王国ヴァルガンから使者が来られました、明後日にこちらに来られると」
「ん?使者の人が返事を持ってきたんじゃないの?」
「はい、何でも王女自らメリッサ様本人であるか確認したいと言っているらしく、ヴァルガンの王女様がこちらに直接来られるそうです」
「へー、そうなんだ?」


 自分から来るってすごいアクティブな王女様だね。
 まあ、解りやすくっていっか……その方が確実だろうし。


「それで、魔女様にもそこに同席してほしいのです」
「ふぇ!?なんで?」


 私、堅苦しいのとか苦手だよ?
 出来れば勘弁してほしいんだけど……。


「ヴァルガンの王女様からのお願いでして……お引き受けしていただけないでしょうか?」
「はあ……それ、断ること出来ないってことじゃないの?」
「あう……その……はい」


 仮にも一国の王女のお願いだ……断ったらアンリエッタの立場が無くなるだろう……しょうがないなぁ。


「解ったよ……でも、礼儀とかは期待しないでよね」
「はい、向こうも冒険者の方だと言うのは承知しているとのことですので礼儀は気にしないと言っています」
「了解」


 とはいえ、そういえば、私も一応、王女らしいけど……まあ、王宮で暮らしたこともないし、礼儀なんて習ってないしね……お父さんもオーガだったし、礼儀は……あれ、そう言えばお父さんは礼儀正しかったような?ま、いっか。


 私は、簡単にアンリエッタたちの話を聞くと、領主の館を後にして訓練場へと戻っていった。
 まずはそのヴァルガンの人達の協力を得ないとね……そしてローランシア……後は森にすむエルフたちの協力も得られると良いんだけど……こっちはヴァルガンとローランシアの協力を得た後の方がいいだろう。

 ふう……やることはいっぱいだけど今は動けないし、メリッサの修行に力を注ごう……予想以上にメリッサは優秀である。誰かを育てるっていうのは結構楽しいことなんだなとメリッサに修行をつけていて感じた。歳を取って冒険者を引退したらギルドの育成教官とかにでもなろうかなぁ……などと、のんきなことを考えつつ、訓練場へと戻るのであった。


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