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2部 3章
獣王の国の姫
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訓練場の壁が大きな音を立てて崩れていく。
その瓦礫にヴァルガンの王子、レオが埋もれていく。
「ちょ、ちょっと、エリンシア、やりすぎなんじゃ……」
エリンシアの渾身の一撃を喰らったレオ王子……いくら筋肉が鋼鉄のように固いと言っても、あの一撃を喰らったら無事じゃすまないと思うんだけど……それを証明するように、周りで見ていた冒険者たちの目が白目になっており、口をぽかんと開けていた。
冒険者たちだけじゃなく、一緒に来たギルドマスターのフランクと領主であるアンリエッタも同様である。
うちのメンバーでエリンシアのすごさを間近でいつも見ているレンと、それをいつも傍観しているローラ、私との訓練に慣れているメリッサは驚いてはいるものの白目にまではなっていなかったが……。
ぶっちゃけ、私の頬もヒクついている。……やっぱりエリンシアはとんでもない。
「大丈夫だと思いますわよ、あの方、とても頑丈でしたもの」
私の慌てっぷりにエリンシアが自信をもって答えてくる。
こればかりは、レオ王子と戦ったエリンシアの方が分かっているようだ。
「あっはっはっは、レオ兄!見事に負けたなぁ!」
驚く一同とは別に、ララ王女は楽しそうに笑っていた。
自分の兄が負けたことより、相手の強さを喜んでいる風であった……ああいうのが本当の戦闘狂……なんだろうなぁ……私やラガナも戦闘好きと言われるけど……あそこまでではない……と思いたい。
「ぐ……ぬ……」
瓦礫の下からレオ王子が出てくる……どうやら無事なようだ。
「むぅ……ぐふふ、がっはっはっは………負けたわ!強いなエリンシアよ!見事だ!」
「ありがとうございますわ」
自分が負けたというのに清々しいほど豪快に笑うレオ王子……ああ、うん……あの妹にしてこの兄ありって感じだね……アッハッハ……。
「それにしてもすごいね、エリンシア。いつの間に気をマスターしてたの?」
「マスター出来ていませんわよ?」
「え、だって拳にインパクトの瞬間だけ纏わせたりとか私出来ないよ?」
「あら、そうですの?ワタクシはカモメさんみたいに全身に纏うことが出来なかったからああいう使い方をしたんですのよ……どうやら、ワタクシの気はカモメさん程、強くないみたいでしたので」
なんと……エリンシアは気を発動させ、解放させることまで成功したものの、私やコハクのように全身に気を纏うことは出来なかったらしい……その代わり、少しでも使えるようにあの戦法を思いついたとのことだ……。私から見れば、エリンシアの使い方の方が難しそうなんだけどなぁ……ここら辺は人に寄るのだろう。
「おーい、闇の魔女!いつまでぼーっとしてんだ?早く私達もやろうぜ!」
私がエリンシアに感心していると、ララ王女がすでに訓練所の真ん中に移動して私を手招きしていた。
おっと、そうだった……次は私の番だ。
「ごめんごめん、お待たせ」
「ああ、楽しみだぜ……アンタも相当強いんだろ?」
「どうだろうね……やってみたらわかるよ」
私は新しいバトーネを握り、構える。
ああ……やっぱりバトーネがあった方が落ち着くなぁ。
以前のバトーネとは違い、風を操る能力のあるバトーネである。
戦い方はちょっと変わってしまったが、やっぱり、馴染みの武器を持つと落ち着くものである。
「よっしゃ、それじゃあ、アタシも武器を使うかな」
「鉄の……ボール?」
ララ王女が取り出したのは鉄で出来た球体であった。
彼女が武器と言って取り出したのだから、あれが武器なのだろう……一体どうやって使うのか……。
「おっと、これはただの鉄の球だけど、このままじゃ使わないぜ?」
「……どういうこと?」
私は、気を抜かず、相手を見据える。
「アタシの天啓スキルは『鉄操作』なのさ!」
ララ王女がそう言った瞬間、鉄の球だったものは槍へと変化する、そして、そのまま、投げるでもなく、突っ込んでくるでもなく、唯々、槍の先端が、こちらに向かって伸びてきた。
「うわっとと!?」
私は予想外の攻撃に、慌てて上半身を反り、その攻撃を躱した。
「あっぶな!?」
「おっと、アタシは鉄の形を自由に変えられるんだぜ?鉄の下にいていいのかな?」
そう言った瞬間、反った私の上にあった、槍の下の部分が再び、下にいる私に向って伸びてきた。
「ちょわっ!?」
あわや串刺しという攻撃を慌てて地面に転げることで回避する私……あれのスキルずっこくない!?
慌てながらも、私は体制を整え、ララ王女に向かって駆ける、そして、バトーネをララ王女に振り下ろすと、金属音と共に、私の攻撃が止まった。
ララ王女の周りに鉄の盾が出現していたのだ。先ほどまで槍だったものが、今はララ王女の周りを護る盾になっている。そして、その盾の表面が突然針のように変わる。
「どっせい!」
私はとっさに空中に風の魔法で足場を作って、後ろへ飛び退く。
………あっぶなぁ……。
あのスキル、とんでもなく厄介だ……エリンシアじゃないけど……デタラメだね。
「それなら、これはどう!」
私はバトーネを振るい、風の刃を出現させる。
このバトーネは風の力を操るのでこんな攻撃も出来るのだ……が。
今度は大剣に姿を変えた鉄を、ララ王女が一振りすると、その風の刃は軽々と消し去られてしまった。
あの天啓スキルも厄介だけど、ララ王女自体もかなり強い……なんだか、私も楽しくなってきたよ。
口元を緩めた私に、後ろで見ていたエリンシアが「似た者同士ですわ」と言ったのは聞かなかったことにしておこうそうしよう。
お互いに楽しそうに見合う、私とララ王女……ここからは、私も魔法を使っていくよ!
その瓦礫にヴァルガンの王子、レオが埋もれていく。
「ちょ、ちょっと、エリンシア、やりすぎなんじゃ……」
エリンシアの渾身の一撃を喰らったレオ王子……いくら筋肉が鋼鉄のように固いと言っても、あの一撃を喰らったら無事じゃすまないと思うんだけど……それを証明するように、周りで見ていた冒険者たちの目が白目になっており、口をぽかんと開けていた。
冒険者たちだけじゃなく、一緒に来たギルドマスターのフランクと領主であるアンリエッタも同様である。
うちのメンバーでエリンシアのすごさを間近でいつも見ているレンと、それをいつも傍観しているローラ、私との訓練に慣れているメリッサは驚いてはいるものの白目にまではなっていなかったが……。
ぶっちゃけ、私の頬もヒクついている。……やっぱりエリンシアはとんでもない。
「大丈夫だと思いますわよ、あの方、とても頑丈でしたもの」
私の慌てっぷりにエリンシアが自信をもって答えてくる。
こればかりは、レオ王子と戦ったエリンシアの方が分かっているようだ。
「あっはっはっは、レオ兄!見事に負けたなぁ!」
驚く一同とは別に、ララ王女は楽しそうに笑っていた。
自分の兄が負けたことより、相手の強さを喜んでいる風であった……ああいうのが本当の戦闘狂……なんだろうなぁ……私やラガナも戦闘好きと言われるけど……あそこまでではない……と思いたい。
「ぐ……ぬ……」
瓦礫の下からレオ王子が出てくる……どうやら無事なようだ。
「むぅ……ぐふふ、がっはっはっは………負けたわ!強いなエリンシアよ!見事だ!」
「ありがとうございますわ」
自分が負けたというのに清々しいほど豪快に笑うレオ王子……ああ、うん……あの妹にしてこの兄ありって感じだね……アッハッハ……。
「それにしてもすごいね、エリンシア。いつの間に気をマスターしてたの?」
「マスター出来ていませんわよ?」
「え、だって拳にインパクトの瞬間だけ纏わせたりとか私出来ないよ?」
「あら、そうですの?ワタクシはカモメさんみたいに全身に纏うことが出来なかったからああいう使い方をしたんですのよ……どうやら、ワタクシの気はカモメさん程、強くないみたいでしたので」
なんと……エリンシアは気を発動させ、解放させることまで成功したものの、私やコハクのように全身に気を纏うことは出来なかったらしい……その代わり、少しでも使えるようにあの戦法を思いついたとのことだ……。私から見れば、エリンシアの使い方の方が難しそうなんだけどなぁ……ここら辺は人に寄るのだろう。
「おーい、闇の魔女!いつまでぼーっとしてんだ?早く私達もやろうぜ!」
私がエリンシアに感心していると、ララ王女がすでに訓練所の真ん中に移動して私を手招きしていた。
おっと、そうだった……次は私の番だ。
「ごめんごめん、お待たせ」
「ああ、楽しみだぜ……アンタも相当強いんだろ?」
「どうだろうね……やってみたらわかるよ」
私は新しいバトーネを握り、構える。
ああ……やっぱりバトーネがあった方が落ち着くなぁ。
以前のバトーネとは違い、風を操る能力のあるバトーネである。
戦い方はちょっと変わってしまったが、やっぱり、馴染みの武器を持つと落ち着くものである。
「よっしゃ、それじゃあ、アタシも武器を使うかな」
「鉄の……ボール?」
ララ王女が取り出したのは鉄で出来た球体であった。
彼女が武器と言って取り出したのだから、あれが武器なのだろう……一体どうやって使うのか……。
「おっと、これはただの鉄の球だけど、このままじゃ使わないぜ?」
「……どういうこと?」
私は、気を抜かず、相手を見据える。
「アタシの天啓スキルは『鉄操作』なのさ!」
ララ王女がそう言った瞬間、鉄の球だったものは槍へと変化する、そして、そのまま、投げるでもなく、突っ込んでくるでもなく、唯々、槍の先端が、こちらに向かって伸びてきた。
「うわっとと!?」
私は予想外の攻撃に、慌てて上半身を反り、その攻撃を躱した。
「あっぶな!?」
「おっと、アタシは鉄の形を自由に変えられるんだぜ?鉄の下にいていいのかな?」
そう言った瞬間、反った私の上にあった、槍の下の部分が再び、下にいる私に向って伸びてきた。
「ちょわっ!?」
あわや串刺しという攻撃を慌てて地面に転げることで回避する私……あれのスキルずっこくない!?
慌てながらも、私は体制を整え、ララ王女に向かって駆ける、そして、バトーネをララ王女に振り下ろすと、金属音と共に、私の攻撃が止まった。
ララ王女の周りに鉄の盾が出現していたのだ。先ほどまで槍だったものが、今はララ王女の周りを護る盾になっている。そして、その盾の表面が突然針のように変わる。
「どっせい!」
私はとっさに空中に風の魔法で足場を作って、後ろへ飛び退く。
………あっぶなぁ……。
あのスキル、とんでもなく厄介だ……エリンシアじゃないけど……デタラメだね。
「それなら、これはどう!」
私はバトーネを振るい、風の刃を出現させる。
このバトーネは風の力を操るのでこんな攻撃も出来るのだ……が。
今度は大剣に姿を変えた鉄を、ララ王女が一振りすると、その風の刃は軽々と消し去られてしまった。
あの天啓スキルも厄介だけど、ララ王女自体もかなり強い……なんだか、私も楽しくなってきたよ。
口元を緩めた私に、後ろで見ていたエリンシアが「似た者同士ですわ」と言ったのは聞かなかったことにしておこうそうしよう。
お互いに楽しそうに見合う、私とララ王女……ここからは、私も魔法を使っていくよ!
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