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2部 3章
新たな戦い方
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私達は、領主の館から訓練場へと移動してきた。
訓練場では、何人かの冒険者の人が訓練に使っていたが、ギルドマスターであるフランクが事情を話し、場所を空けてもらう。
戦いに巻き込んだりしたらいけないもんね。
「カモメ、エリンシア……ヴァルガンの王女と戦うと聞いたが?」
「魔女ちゃん、何かしちゃったの?」
私に話しかけてきたのはレンとローラだった。
どうやら、レンも自分の武器を改造したようで、試し打ちに来ていたようだ。
ローラはその付き添いだろう。
「何もしてないよ~、ただ、ララ王女が私と戦いたいっていうから戦うことにしただけ」
「ですわよ……それじゃ、レオ王子、先ずはワタクシ達から始めませんかですわ!」
「おうとも!」
レオ王子は拳を胸の前で合わせ、やる気満々と言った感じであった。
「あ、ずるいぞ、レオ兄!」
「向こうさんからの要望だ、お前はまず、見学だな!」
「むぅ」
エリンシアが訓練場の真ん中へと移動する。
それを見てレオ王子も移動し、エリンシアと向かい合うように立った。
ヴァルガンの王子……彼の身のこなしから強いのは分かるけど……一体どんな戦い方をするのだろう?
見たところ、武器の類は持っていない……ということは格闘技で叩くのだろうか?
「行くぞ?」
「ええ、いつでもいいですわよ」
二人の雰囲気が変わる……闘気が伝わってきた。
そして、次の瞬間、レオ王子が動いた。
特にフェイントもなく、ただ全力でエリンシアに向かって突っ込んでいく。
「ありゃ?あの子全然動かないぞ?」
その様子を見たララ王女が言葉を零す。
ララ王女の言う通り、エリンシアは向かってくるレオ王子を見据えたまま、動こうとしない。
そして、レオ王子が拳を振り上げ、エリンシアに殴り掛かった。
レオ王子の拳がエリンシアに当たる寸前で、エリンシアは半歩、体を横にずらし、その攻撃を綺麗に躱す。そして、躱した瞬間、体を横に回転させながらジャンプし、レオ王子の後頭部に蹴りを叩き込んだ。
「うお!?」
エリンシアの動きが予想外だったのか、レオ王子は素っ頓狂な声を上げ、前へと倒れこむ。
「おお、やるじゃん、あの子」
ララ王子は自分の兄が倒れこんだのを見ながら喜んでいた。
メリッサの言う通り、戦いが好きらしい……自分が戦うのも他人の戦いを見るのもといった感じだ。
「レオ王子、手加減はいりませんわよ?」
「ははは、参ったな……いいだろう、俺も本気で行かせてもらうぞ」
レオ王子がそう言った瞬間、レオ王子の身体が変化する。
いきなり、筋肉が盛り上がったのだ。
細身に見えていた身体が、筋肉粒々になり、一回り……いや、二回りくらい大きくなったのだ。
「レオ兄の天啓スキルは『筋力増加』だ」
天啓スキル……人の筋肉まで操る力を持つそれに、私は改めて驚かされる。
そして、見た目だけでは無いのだろう、その姿を見てエリンシアが魔導銃を抜いていた。
「本当……デタラメですわね」
「さあ、行くぞ!」
レオ王子が、動く……さっきよりも速い。
筋肉が増えて動きが遅くなるかと思ったが、足の筋肉も増えているからなのか、動き自体は先ほどより速い。だが、エリンシアが捉えられないほどのスピードではないようだ。
エリンシアは、突っ込んでくるレオ王子に向かって魔導銃を放った。
そして、その魔弾はレオ王子に着弾する……が、レオ王子はまるで何事もなかったかのように突っ込んできた。
「効いてませんの!?」
レオ王子の攻撃を躱しながらエリンシアが叫んだ。
「俺のこの筋肉の強度は鋼鉄並み……その程度の攻撃ではダメージにならんぞ!」
「……デタラメですわ」
そろそろ、口癖になってきているのではないかという言葉をエリンシアが呟く。
しかし、エリンシアの魔弾を弾くくらい強度を持った、あの筋肉はかなり厄介だ……エリンシアはどう対応するんだろう……間違っても、口に魔導銃を突っ込んで全力で放ったりはしないよね?……王子、死んじゃうからね?
そんなことを考えていると、エリンシアが構える……その手に魔導銃はない。
「そろそろ、ワタクシの攻撃力も上げたいと思っておりましたの……ちょうどいいですわ……その鋼鉄のような筋肉……攻略して見せますわ!」
どうやら、体内から吹き飛ばすなんてことはしないらしい……当たり前か。
でも、どうするんだろう……体内から吹き飛ばすはもちろん、魔導銃に貫通性を持たした弾を放つなんてことも出来ない……貫通したら大変だもんね。
まあ、それくらいでなんとかできる程度の強度だったらエリンシアも苦労してないだろう。
恐らく私のアクワウィレスでも貫通できないだろう。
「どういうつもりか、わからんが……加減はせんぞ!」
「当然ですわ!」
再び、突っ込んでくるレオ王子、その攻撃を寸でのところで躱しながら拳を叩き込むエリンシア……だが、攻撃力が足りないのかそれを蚊ほども気にせず、レオ王子は攻撃を続けていた。
よく見れば、エリンシアは拳で戦っているにも関わらず、光祝福も光纏躰も使っていない。何を考えているの?
「また、失敗しましたわ……難しいですわね」
「何を試しているか知らんが、お前の攻撃は俺に蚊ほどのダメージも与えておらんぞ!」
拳を振るいながら、レオ王子は笑う。
そこに……エリンシアは掌底を打ち込んだ。
「……がふっ」
先ほどまで、全然ダメージを受けていなかったレオ王子が僅かに息を詰まらせる。
「こんな感じですわね……わかってきましたわ!」
エリンシアは何をやったのだろう……?
「続けて行きますわよ!」
一転、エリンシアが攻勢に移る。
エリンシアの放つ掌底、そして拳がレオ王子に当たる。
先ほどまではそれを蚊ほどにも気にしていなかったレオ王子だが、エリンシアの攻撃の何発かが確実にダメージを与え始めていた。
「慣れてきましたわよ!」
「がはっ!」
エリンシアの蹴りがレオ王子のお腹に決まる。
掌底や拳だけじゃなく蹴りも効き始めた。
「ぐ……何をしたのだ、エリンシア!」
「『気』ですわよ」
『気』……それは、私やコハクが使う気のことかな……エリンシアもいつの間にか使えるようになったの!?
「見よう見真似ですけれど……ワタクシにもできましてよ!」
エリンシアは私やコハクが気を使うときのように体の周りからあふれ出している気は見えない……だけど、攻撃のインパクトの瞬間、その時だけ、拳や足に気の力をまとわせているのだ。
すごい……私にはあれは無理だ。
エリンシアくらい器用でなければあんなことは出来ないだろう……。
エリンシアの気の使い方の制度がドンドンと上手になって行く、今まさに、エリンシアの新しい戦い方が生まれようとしているのだ。
「光纏躰!」
エリンシアが光を纏う……そして……。
「トドメですわ!!」
「ぐおおおおっ!!」
エリンシアの拳がレオ王子のお腹に決まり、レオ王子は闘技場の壁まで吹き飛び、叩きつけられた。
ただの拳がすごい威力だよ……拳のオーガの異名……エリンシアなら引き継げるんじゃないかな……。
私は顔を引きつらせながらその光景を見ていた。
訓練場では、何人かの冒険者の人が訓練に使っていたが、ギルドマスターであるフランクが事情を話し、場所を空けてもらう。
戦いに巻き込んだりしたらいけないもんね。
「カモメ、エリンシア……ヴァルガンの王女と戦うと聞いたが?」
「魔女ちゃん、何かしちゃったの?」
私に話しかけてきたのはレンとローラだった。
どうやら、レンも自分の武器を改造したようで、試し打ちに来ていたようだ。
ローラはその付き添いだろう。
「何もしてないよ~、ただ、ララ王女が私と戦いたいっていうから戦うことにしただけ」
「ですわよ……それじゃ、レオ王子、先ずはワタクシ達から始めませんかですわ!」
「おうとも!」
レオ王子は拳を胸の前で合わせ、やる気満々と言った感じであった。
「あ、ずるいぞ、レオ兄!」
「向こうさんからの要望だ、お前はまず、見学だな!」
「むぅ」
エリンシアが訓練場の真ん中へと移動する。
それを見てレオ王子も移動し、エリンシアと向かい合うように立った。
ヴァルガンの王子……彼の身のこなしから強いのは分かるけど……一体どんな戦い方をするのだろう?
見たところ、武器の類は持っていない……ということは格闘技で叩くのだろうか?
「行くぞ?」
「ええ、いつでもいいですわよ」
二人の雰囲気が変わる……闘気が伝わってきた。
そして、次の瞬間、レオ王子が動いた。
特にフェイントもなく、ただ全力でエリンシアに向かって突っ込んでいく。
「ありゃ?あの子全然動かないぞ?」
その様子を見たララ王女が言葉を零す。
ララ王女の言う通り、エリンシアは向かってくるレオ王子を見据えたまま、動こうとしない。
そして、レオ王子が拳を振り上げ、エリンシアに殴り掛かった。
レオ王子の拳がエリンシアに当たる寸前で、エリンシアは半歩、体を横にずらし、その攻撃を綺麗に躱す。そして、躱した瞬間、体を横に回転させながらジャンプし、レオ王子の後頭部に蹴りを叩き込んだ。
「うお!?」
エリンシアの動きが予想外だったのか、レオ王子は素っ頓狂な声を上げ、前へと倒れこむ。
「おお、やるじゃん、あの子」
ララ王子は自分の兄が倒れこんだのを見ながら喜んでいた。
メリッサの言う通り、戦いが好きらしい……自分が戦うのも他人の戦いを見るのもといった感じだ。
「レオ王子、手加減はいりませんわよ?」
「ははは、参ったな……いいだろう、俺も本気で行かせてもらうぞ」
レオ王子がそう言った瞬間、レオ王子の身体が変化する。
いきなり、筋肉が盛り上がったのだ。
細身に見えていた身体が、筋肉粒々になり、一回り……いや、二回りくらい大きくなったのだ。
「レオ兄の天啓スキルは『筋力増加』だ」
天啓スキル……人の筋肉まで操る力を持つそれに、私は改めて驚かされる。
そして、見た目だけでは無いのだろう、その姿を見てエリンシアが魔導銃を抜いていた。
「本当……デタラメですわね」
「さあ、行くぞ!」
レオ王子が、動く……さっきよりも速い。
筋肉が増えて動きが遅くなるかと思ったが、足の筋肉も増えているからなのか、動き自体は先ほどより速い。だが、エリンシアが捉えられないほどのスピードではないようだ。
エリンシアは、突っ込んでくるレオ王子に向かって魔導銃を放った。
そして、その魔弾はレオ王子に着弾する……が、レオ王子はまるで何事もなかったかのように突っ込んできた。
「効いてませんの!?」
レオ王子の攻撃を躱しながらエリンシアが叫んだ。
「俺のこの筋肉の強度は鋼鉄並み……その程度の攻撃ではダメージにならんぞ!」
「……デタラメですわ」
そろそろ、口癖になってきているのではないかという言葉をエリンシアが呟く。
しかし、エリンシアの魔弾を弾くくらい強度を持った、あの筋肉はかなり厄介だ……エリンシアはどう対応するんだろう……間違っても、口に魔導銃を突っ込んで全力で放ったりはしないよね?……王子、死んじゃうからね?
そんなことを考えていると、エリンシアが構える……その手に魔導銃はない。
「そろそろ、ワタクシの攻撃力も上げたいと思っておりましたの……ちょうどいいですわ……その鋼鉄のような筋肉……攻略して見せますわ!」
どうやら、体内から吹き飛ばすなんてことはしないらしい……当たり前か。
でも、どうするんだろう……体内から吹き飛ばすはもちろん、魔導銃に貫通性を持たした弾を放つなんてことも出来ない……貫通したら大変だもんね。
まあ、それくらいでなんとかできる程度の強度だったらエリンシアも苦労してないだろう。
恐らく私のアクワウィレスでも貫通できないだろう。
「どういうつもりか、わからんが……加減はせんぞ!」
「当然ですわ!」
再び、突っ込んでくるレオ王子、その攻撃を寸でのところで躱しながら拳を叩き込むエリンシア……だが、攻撃力が足りないのかそれを蚊ほども気にせず、レオ王子は攻撃を続けていた。
よく見れば、エリンシアは拳で戦っているにも関わらず、光祝福も光纏躰も使っていない。何を考えているの?
「また、失敗しましたわ……難しいですわね」
「何を試しているか知らんが、お前の攻撃は俺に蚊ほどのダメージも与えておらんぞ!」
拳を振るいながら、レオ王子は笑う。
そこに……エリンシアは掌底を打ち込んだ。
「……がふっ」
先ほどまで、全然ダメージを受けていなかったレオ王子が僅かに息を詰まらせる。
「こんな感じですわね……わかってきましたわ!」
エリンシアは何をやったのだろう……?
「続けて行きますわよ!」
一転、エリンシアが攻勢に移る。
エリンシアの放つ掌底、そして拳がレオ王子に当たる。
先ほどまではそれを蚊ほどにも気にしていなかったレオ王子だが、エリンシアの攻撃の何発かが確実にダメージを与え始めていた。
「慣れてきましたわよ!」
「がはっ!」
エリンシアの蹴りがレオ王子のお腹に決まる。
掌底や拳だけじゃなく蹴りも効き始めた。
「ぐ……何をしたのだ、エリンシア!」
「『気』ですわよ」
『気』……それは、私やコハクが使う気のことかな……エリンシアもいつの間にか使えるようになったの!?
「見よう見真似ですけれど……ワタクシにもできましてよ!」
エリンシアは私やコハクが気を使うときのように体の周りからあふれ出している気は見えない……だけど、攻撃のインパクトの瞬間、その時だけ、拳や足に気の力をまとわせているのだ。
すごい……私にはあれは無理だ。
エリンシアくらい器用でなければあんなことは出来ないだろう……。
エリンシアの気の使い方の制度がドンドンと上手になって行く、今まさに、エリンシアの新しい戦い方が生まれようとしているのだ。
「光纏躰!」
エリンシアが光を纏う……そして……。
「トドメですわ!!」
「ぐおおおおっ!!」
エリンシアの拳がレオ王子のお腹に決まり、レオ王子は闘技場の壁まで吹き飛び、叩きつけられた。
ただの拳がすごい威力だよ……拳のオーガの異名……エリンシアなら引き継げるんじゃないかな……。
私は顔を引きつらせながらその光景を見ていた。
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