闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 3章

山賊討伐

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「うわあああああああああああ!!」


 アンダールシアの小さな村に悲鳴が木霊する。
 村の名前はテルナ村……この村には特に名物と呼べるものもなく、村の人口も300人程度の小さな村であった。
 その小さな村に、今、山賊が襲う。
 特に目ぼしいものもない、襲ってどんな意味があるのか……いや、山賊がそこまで考えてなどいないのかもしれない。村の娘を攫うのが目的なのかもしれない……でも、なぜ、自分たちの村なのだろう……なぜ、こんな小さな村に……小さな幸せを大事にしているような者たちを襲って楽しいのか……。
 村人たちは天を仰ぎ嘆く……なぜ、自分たちにこんな仕打ちをするのですか!……と・


「おら、男は殺せ!女は捕まえろ!金目のモンは全部集めろ!!」
「へい、頭ぁ!」


 山賊の頭と思われる人物が叫ぶ。


「止めなさい!!」


 村を蹂躙する山賊たちの前に一人の少女が立ち塞がる。
 その姿は可憐で、純白のローブを纏い、手にはロッドと呼ばれる杖を持っている。
 彼女は青い綺麗な髪を靡かせながら、山賊の頭の前へと立ち塞がった。

 
「これ以上の暴挙は、神が許しません!」
「ん、なんでぇ?」
「お頭ぁ、あの服は光の教団の服ですぜ?」


 光の教団……この大陸にある、宗教の一つである。
 光の教団とは、この世界の女神……天啓スキルを配っている女神の方であるが、その女神を崇拝し、その信徒として活動している集団である。

 この大陸の者が3歳の時に天啓スキルを受ける教会も、この光の教団の教会である。
 その信徒は、白いローブを纏う、今、山賊の目の前で両手を広げ、行く手を遮っている彼女のように。


「ほう、ツイてるなぁ。光の教団の信徒……しかも女となれば高く売れるぜ?」
「ですねぇ……カカッ、国も随分気前がいいっすねぇ」
「ああ」
「国?…・…どういう意味ですか?」


 山賊たちの態度に疑問を思った少女が口を開く。
 その疑問を聞いた山賊たちの口端がいやらしく上がった。


「はっ、俺たちにこの村を襲えと依頼してきたのは国の連中さ……お前たちはアンダールシアに売られたんだよ!」
「なっ……そのような事あり得ません!……国とは民を護るものだと女神ポワンソア様も仰っています!」
「女神なんて知らねぇなぁ……俺たちはこの村を襲っても罪に問わないと言われてるんだ……その上、この村を襲って手に入れた物は俺たちの物にしていともなぁ!……つまり、お前も俺たちの物ってわけよぉ!」
「そ……そんな……」


 その言葉に、少女も……そして、周りにいた村人たちも絶望する。
 国が自分たちの村を売った……つまり、誰も助けに来ないと言うことだ……。
 


「なぜ……」
「さあな?お前らがなんかしたんじゃねぇか?」
「そんな……」


 絶望に沈む、村人たち……そんな彼らを、山賊たちは楽しそうに見ていた。


「おらっ、さっさと女どもを捕まえろ!」
「へい!!」
「いやああああああ!!」


 近くにいた、光の教団の少女を、山賊の手下が乱暴に引っ張る。
 少女は抵抗するが、男の力には敵わず、地面へと倒された。


「おい、傷つけるんじゃねぇぞ!そいつは高く売るんだからよ!」
「へ、へい!……おら、立て!!」


 少女の髪を掴み、立ち上がらせようとする山賊……だが、少女は全体重をかけて、それを拒否していた。


「ちっ、誰か手伝ってくれ!こいつ動こうとしやがらねぇ!」
「あら、じゃあ私が手を貸してあげましょうか?」
「おお、頼む………じぇええええええ!?」


 振り返った、山賊の手下は有無を言わさず吹き飛ばされ、錐揉みをしながら地面を転げていった。


「な、なんだテメェは!」
「女神様よ」
「はあ!?……ふざけた女だ!てめぇら、この女も捕まえろ!!」


 女神と名乗るその女性は、長い綺麗な黒髪を振るわせると、凶悪な笑みを浮かべながら、魔法を唱える。


炸裂炎弾バーストフレイム!」


 炎の球が、山賊たちに襲い掛かる。
 山賊たちは成す術もなくその炎に飲まれ消し炭となった。


「な、なんだ……なんだよテメェ!」


 山賊の頭が目の前で起きた現象に恐怖を示す。
 自分の手下たちが、まるで、紙のように燃やされ、いなくなってしまったのだ。
 山賊の頭も魔法を見たことは当然ある……当然あるが、人をこんなにも簡単に蒸発させてしまうような威力の魔法は生まれてこの方見たことがなかった。
 いや、そもそも、そんな力を持った者の戦いを見る機会など普通の人はない……そんな力を持った人間は英雄とか伝説とか呼ばれ、ほとんど一般人ではその者の戦いを拝むことなんてないのだ。

 それはそうだろう、そう言う英雄たちが戦う相手は同じく英雄……もしくは化け物と呼ばれる魔物や邪鬼たちなのだから……。


「だから、女神さまだって言っているでしょう?」
「め、女神がテメェみたいな悪魔のわけねぇだろ!」
「あ゛ん゛?」


 自称(本物)の女神さまの顔がまるで般若のようになる。
 それを見た、山賊の頭は再び恐怖に顔を引き攣らせた。



「ま、待ってくれ、俺たちもこの村を襲いたくて襲ったわけじゃねぇんだよ……国に頼まれて……そう、仕方無く……仕方なくなんだ!!」
「アンタ、さっきまで楽しそうに村人を襲っていたじゃない……今更そんな言い訳が通ると思う?」
「いや……その……」
「地獄で反省なさい……爆発炎弾フレイムエクリス


 炸裂するディータの魔法が山賊の頭をこんがりと焼いた。
 


「あ、あの……」
「大丈夫かしら?」
「は、はい、ありがとうございます」
「そう、なら、隠れていなさい……残りの山賊も片付けるわ……っと、根暗坊主たちも到着したみたいね」


 村の入り口の方から声が上がった。
 近衛隊の掛け声か、それとも村人たちの歓声か……その声から逃げるように山賊たちが走り出して逃げていた。さすが近衛隊、山賊なんかには後れを取らないようだ。


「さて……大量ね」


 まるでストレスを発散するいいカモが来たとでも言わんばかりに、ディータが笑う。
 その笑顔には女神とはとても思えない、怖いものであった。
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