闇の魔女と呼ばないで!

成神クロワ

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2部 3章

危機

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「……どうやら、片付いたようだな」


 セリシアナは乱れたエメラルドの長髪をかき上げながらあたりを見回す。



「騎士様……ありがとうございます……」


 周りにはいつの間にか集まったのか村の生き残りの人達が集まってきていた。
 見たところ、怪我をしている人もいるようである。


「いや、騎士として当然のことをしただけだ……気にするな」


 彼らの様子を見ながら考える。
 彼の治療をしてあげたいが、これ以上時間をとられていいものか……あまり長いをすると今度は自分たちを追ってくるアンダールシア軍との戦いにここの村人を巻き込むことになってしまう。


「すまない、我らも先を急ぐ身……お前たちの怪我を見てやりたいが……そうもいかん」
「そうでございますか……いえ、命を助けていただいただけでも感謝しております」


 少し不安そうな顔を浮かべる村の人達をみて心を痛めるセリシアナ……だが、自分たちがいればさらに危険に追い込むことになる……どうしようもない。
 そう思っていたのだが、その考えは即座に否定された。


「駄目よ、セリシアナ……私達はこの村から出るわけにはいかないわ」
「ディータ殿……どういうことです?我々がこのままここにいればアンダールシア軍がここに来てしまいます……これ以上この村を危険に晒すわけには……。」
「そのアンダールシア軍が今回の山賊たちを裏で操っていたようよ」
「なっ……馬鹿なっ!!自分たちの国の民だぞ……そんなこと……」
「するでしょうよ……偽王にとっては自分たちの国の民ですらないでしょうし」


 そうだ……その通りだ……ディータ殿たちの話が本当であるのなら今の王は、レンシアの者がすり替わっていると考えられる……なら、このような非道な手を許してもおかしくはない……。


「だが、なぜそんなことを」
「決まっているわ、私達を足止めするためよ」
「……馬鹿な、そんなことの為にこの村の人達の命を奪うと言うのか」
「でしょうね」
「……しかし、それならやはり敵の狙いは我々だ……我々がここからいなくなればこれ以上この村の人間に被害は出ないのではないか?」
「そんなわけないでしょう……相手からしてみれば自分たちが裏で糸を引いていることを村人たちが知った可能性を考えるでしょう」
「なっ……口封じをするということか?」


 ディータはコクリと頷く。
 村人の生き残りは100人足らず……軍であればこれだけの村人を殺すことは容易いだろう。
 

「どうしたらいいのだ……」
「連れて行くしかないでしょうね」
「……だが、それでも危険だ……必ず追手が来る……今から準備をさせても間に合わないぞ」


 村人たちを連れて行くには時間が掛かるだろう……先ず、説明をしっかりしなければ村人たちもついては来ない……その説明だけでも時間が必要である……その間に敵の追手はどんどんと近づいてくるだろう。


「貴方はここの村長かしら?」
「は、はい……今の話本当なのですかな?」
「本当よ……それでお願いがあるの」
「なんでしょう?」
「馬を一頭、貰えないかしら?」
「馬……ですか?それはもちろん構いませんが……」


 馬……確かに馬に乗ればこの村からラリアスまで二刻ほどで着けるだろう……だが、近衛隊とこの村の住人分の馬はない……いや、今ディータ殿は一頭と言ったか?


「セリシアナ、貴方はこの馬に乗ってラリアスまで救援を要請しに行きなさい」
「なっ、私一人で逃げろと言うのか?出来るわけがないだろう!」
「救援を要請しに行きなさいといったでしょう……この事をラリアスのカモメに伝えてほしいのよ……そうすれば何とかなるかもしれないわ」
「どういうことだ?」
「残念だけど、私と根暗坊主……それに近衛隊を合わせても村の人を護るには手が足りないでしょう」
「それで、救援をか……だが、救援が駆け付けた頃にはすでに遅いのでは……」


 セリシアナの言う通りである。
 ここから馬で二時間ほど……往復なら4時間だ……それまで敵に追いつかれない保証はない……そして、追いつかれればディータや近衛隊はともかく、村人は一時間もせずに皆殺しにされてしまうだろう。


「大丈夫よ、それまでは私が絶対に護って見せるわ」
「……解った……必ず戻る……それまで、任せました」
「ええ、頼んだわね」


 そうと決まれば一分一秒と無駄に出来ない。
 セリシアナは目についた馬に飛び乗ると、そのまま村を飛び出していった。


「村長」
「は、はい」
「村人を一か所に集めなさい……その方が護りやすいわ」
「わかりました……」


 村長は歳に似合わず、軽快な動きでその場を後にする。


「怪我をしている人は私の所にきなさい!治療してあげるわ!」


 そう言って、ディータは周りの人間の治療を始めた。
 そして……アンダールシアの魔の手は刻一刻と近づいてきているのだった。
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