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2部 3章
撤退戦
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アンダールシア王都とラリアスの街を結ぶ街道の近くにある村。
そこの村人たちは現在、村の中心の広場に集まり怯えていた。
「ディータ、どうだった?」
その広場に、空から一人の女性が降りてくる。
ディータである。
彼女は風の魔法で空を飛び、この村の近くを偵察に行っていたのだ。
「マズいわね……1万くらいの兵士が、あの森の中に潜んでいたわ……こちらに進軍してくるのも時間の問題でしょうね」
「一万か……」
一万の敵に対して、こちらは250名の近衛隊……ディータとクオンだけであれば、敵の強さにもよるが負けると言うことはないであろう。
「敵の将は?」
「見たこともない奴だったわ……でも、見た感じ、それ程強いとは思えない相手ね」
「そう……唯一の救いだね」
紅の傭兵団の副団長と名乗ったあの男や、クオンが見た軍司令のようなとびぬけた強さの人物が追手にいなかったのは幸いである。
もしいれば、村の人達を護ることは確実に出来なかっただろう。
「どうする?」
「そうね……私たちのどちらかが森にいる敵に奇襲をかけるっていうのはどう?」
「そうだね、そうするしかないか……残った方は村人たちを連れてラリアスに向かう……ってことだよね」
「ええ、そうね……一人が時間を稼げばもしかしたら逃げれるかもしれないわ」
「解った、それなら僕が森に行こう」
「駄目よ、敵に奇襲をかけるのは私の役目ね」
クオンの発言をディータは即座に否定した。
「私の方が適任よ、大規模の魔法を使えば、敵を混乱することも出来る……アンタじゃ、そう言った攻撃方法は持っていないでしょう?」
確かに、クオンの攻撃方法は基本剣で斬るということになる、そのスピードから、殲滅力はかなり高いのだが、正直目立たない……その為、1万を超える敵の場合、敵の端から端までかなりの距離がある。端の方の兵が斬り伏せられていても、逆側の兵には何が起こっているのか分からないのだ。
ディータの魔法などの攻撃であれば奇襲をかけられたことが一発で分かる。
敵を暗殺するのであればクオンの方が適任である……が、今回は敵を混乱させ、味方の逃げる時間を稼ぐのが目的だる為、自分の方が適任だとディータは言ったのであった。
「……解った、任せる」
「ええ、任されたわ……アンタもしっかり村人を護りなさいよ?」
「ああ」
クオンが力強く頷くと、村人たちの元へと移動していった。
今話し合ったことを伝えるためである……村人たちも自分たちの命が懸かっているため、クオンの話に同意する。彼らは自分たちの育った村を捨て、逃げることを選択したのだ。
「ディータ殿一人で行くのか?我ら近衛隊も……」
「いいえ、ギリアムさん達には村人を護ってもらわなければなりません……もし、敵が追い付いてきた場合、次の足止めは僕がします……ですので、近衛隊の方には村の人を先導してもらわなければいけませんから……」
「解った……」
近衛隊の人達の表情は暗い……近衛隊はアンダールシアの軍の中では精鋭である。
だが、砦での奇襲による敗北……そして、今も逃げるしかないこの状況に、自分たちの無力さを感じていたのだろう。
「聞いたか、近衛の者たちよ!我らは民を護る盾だ!我らの力なくして民は護れん!」
「隊長……」
「何を不貞腐れた顔をしている……俺たちは騎士だ!……騎士の役目は民を護ることであろう?ならば、この命を懸けて、我らが王の民を護るのだ……我らが王は民を傷つけることを望まん……それとも、あの偽りの王を我らが王とお前たちは認めるのか?」
「まさか……民を道具としてしか見てないような奴に……俺たちはこの剣を預けたわけではありません!」
「そうだ……そして、我らの本当の王は決してこのようなことはしない……ならば立て!そして、自らの役目を果たすのだ!」
「「「おおおおお!!」」」
兵士達の眼に力が戻る。
ギリアムの掛け声に応えて、兵士たちは撤退の準備を迅速に始める。
村の人に気を使い、彼らの不安を拭い去るように、自分たちが護ると村の人達を元気づけ、導いたのだ。
「やるわね、ギリアム」
「さすが、近衛隊の隊長だね……僕ら冒険者にはああいうのは無理だからね」
「そうね……じゃあ、私は行くわ……絶対に護るわよ」
「ああ、こっちは任せて」
「ええ、任せたわ」
そう言うと、ディータは風の魔法で再び空を飛んだ。
「さあ、僕たちも移動します!」
クオンは森の方へと向かうディータを見送ると、近衛隊に指示をだすのだった。
======================
「ドルボルア将軍!近衛隊が村人を連れ、移動を始めました!」
「ほう、逃げ出したか……くく、村人を連れて逃げるなど愚策よの……ラリアスに着く前に我らに捕まると解らんとは……ギリアムも落ちたものよな」
不敵に笑うアンダールシアの将……ドルボルア。
「我らも進軍だ!このまま、近衛隊を追い、蹂躙してくれるわ!」
「村人はどうされますか!」
「宰相の命令だ、殺せ!誰一人として生きて返すな!」
「一人も……ですか?」
「そうだ……不服があるのか?」
「い、いえ!」
ドルボルアがギラリと睨むと、兵士は慌ててその場を離れた。
「さあ……狩りの始まりだ……くくく!」
怪しく笑うドルボルアであるが……次の瞬間、その笑いは轟音と共にかき消された。
「何事だ!」
「敵襲!敵襲です!!」
「なんだと……?」
森に配置された兵たちの元へ、火の玉が雨のように降り注いだ。
「魔法か……魔法障壁の魔導具をすぐに用意しろ!敵の魔導士だ!」
ドルボルアは即座に判断を下す。
それを聞いた兵が全部隊へ伝令に走るのだった。
「足止めか……愚かな」
そこの村人たちは現在、村の中心の広場に集まり怯えていた。
「ディータ、どうだった?」
その広場に、空から一人の女性が降りてくる。
ディータである。
彼女は風の魔法で空を飛び、この村の近くを偵察に行っていたのだ。
「マズいわね……1万くらいの兵士が、あの森の中に潜んでいたわ……こちらに進軍してくるのも時間の問題でしょうね」
「一万か……」
一万の敵に対して、こちらは250名の近衛隊……ディータとクオンだけであれば、敵の強さにもよるが負けると言うことはないであろう。
「敵の将は?」
「見たこともない奴だったわ……でも、見た感じ、それ程強いとは思えない相手ね」
「そう……唯一の救いだね」
紅の傭兵団の副団長と名乗ったあの男や、クオンが見た軍司令のようなとびぬけた強さの人物が追手にいなかったのは幸いである。
もしいれば、村の人達を護ることは確実に出来なかっただろう。
「どうする?」
「そうね……私たちのどちらかが森にいる敵に奇襲をかけるっていうのはどう?」
「そうだね、そうするしかないか……残った方は村人たちを連れてラリアスに向かう……ってことだよね」
「ええ、そうね……一人が時間を稼げばもしかしたら逃げれるかもしれないわ」
「解った、それなら僕が森に行こう」
「駄目よ、敵に奇襲をかけるのは私の役目ね」
クオンの発言をディータは即座に否定した。
「私の方が適任よ、大規模の魔法を使えば、敵を混乱することも出来る……アンタじゃ、そう言った攻撃方法は持っていないでしょう?」
確かに、クオンの攻撃方法は基本剣で斬るということになる、そのスピードから、殲滅力はかなり高いのだが、正直目立たない……その為、1万を超える敵の場合、敵の端から端までかなりの距離がある。端の方の兵が斬り伏せられていても、逆側の兵には何が起こっているのか分からないのだ。
ディータの魔法などの攻撃であれば奇襲をかけられたことが一発で分かる。
敵を暗殺するのであればクオンの方が適任である……が、今回は敵を混乱させ、味方の逃げる時間を稼ぐのが目的だる為、自分の方が適任だとディータは言ったのであった。
「……解った、任せる」
「ええ、任されたわ……アンタもしっかり村人を護りなさいよ?」
「ああ」
クオンが力強く頷くと、村人たちの元へと移動していった。
今話し合ったことを伝えるためである……村人たちも自分たちの命が懸かっているため、クオンの話に同意する。彼らは自分たちの育った村を捨て、逃げることを選択したのだ。
「ディータ殿一人で行くのか?我ら近衛隊も……」
「いいえ、ギリアムさん達には村人を護ってもらわなければなりません……もし、敵が追い付いてきた場合、次の足止めは僕がします……ですので、近衛隊の方には村の人を先導してもらわなければいけませんから……」
「解った……」
近衛隊の人達の表情は暗い……近衛隊はアンダールシアの軍の中では精鋭である。
だが、砦での奇襲による敗北……そして、今も逃げるしかないこの状況に、自分たちの無力さを感じていたのだろう。
「聞いたか、近衛の者たちよ!我らは民を護る盾だ!我らの力なくして民は護れん!」
「隊長……」
「何を不貞腐れた顔をしている……俺たちは騎士だ!……騎士の役目は民を護ることであろう?ならば、この命を懸けて、我らが王の民を護るのだ……我らが王は民を傷つけることを望まん……それとも、あの偽りの王を我らが王とお前たちは認めるのか?」
「まさか……民を道具としてしか見てないような奴に……俺たちはこの剣を預けたわけではありません!」
「そうだ……そして、我らの本当の王は決してこのようなことはしない……ならば立て!そして、自らの役目を果たすのだ!」
「「「おおおおお!!」」」
兵士達の眼に力が戻る。
ギリアムの掛け声に応えて、兵士たちは撤退の準備を迅速に始める。
村の人に気を使い、彼らの不安を拭い去るように、自分たちが護ると村の人達を元気づけ、導いたのだ。
「やるわね、ギリアム」
「さすが、近衛隊の隊長だね……僕ら冒険者にはああいうのは無理だからね」
「そうね……じゃあ、私は行くわ……絶対に護るわよ」
「ああ、こっちは任せて」
「ええ、任せたわ」
そう言うと、ディータは風の魔法で再び空を飛んだ。
「さあ、僕たちも移動します!」
クオンは森の方へと向かうディータを見送ると、近衛隊に指示をだすのだった。
======================
「ドルボルア将軍!近衛隊が村人を連れ、移動を始めました!」
「ほう、逃げ出したか……くく、村人を連れて逃げるなど愚策よの……ラリアスに着く前に我らに捕まると解らんとは……ギリアムも落ちたものよな」
不敵に笑うアンダールシアの将……ドルボルア。
「我らも進軍だ!このまま、近衛隊を追い、蹂躙してくれるわ!」
「村人はどうされますか!」
「宰相の命令だ、殺せ!誰一人として生きて返すな!」
「一人も……ですか?」
「そうだ……不服があるのか?」
「い、いえ!」
ドルボルアがギラリと睨むと、兵士は慌ててその場を離れた。
「さあ……狩りの始まりだ……くくく!」
怪しく笑うドルボルアであるが……次の瞬間、その笑いは轟音と共にかき消された。
「何事だ!」
「敵襲!敵襲です!!」
「なんだと……?」
森に配置された兵たちの元へ、火の玉が雨のように降り注いだ。
「魔法か……魔法障壁の魔導具をすぐに用意しろ!敵の魔導士だ!」
ドルボルアは即座に判断を下す。
それを聞いた兵が全部隊へ伝令に走るのだった。
「足止めか……愚かな」
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