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序章
2.20年前
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村を囲む山が雪に染まる頃、一人の女が赤子を抱えやって来た。身なりはボロボロだが美しい顔、艶のある黒髪、華奢な身体の女を見た村人は、このような人間がなぜこんな所にと驚いた。
「詳しくは話せませんが、賊に追われながらなんとかここまで辿り着きました。自分の故郷がどこにあるか、何日経ったのかももうわかりません。馬も死んでしまい、これ以上寒い中我が子を連れ出せません…どうか、ここに置かせてください」
涙を流しながら話す女に村人達は同情したが、包まれていた布から顔を出した赤子にまた驚いた。
大切そうに抱かれた赤子の顔は、アザに侵され歪んでおり、本当にこの女の子供なのかと疑うほどに醜くおぞましいものであった。
このアザも何か流行病なのではないかと聞いたが「これは生まれつきのアザですが、けして病気ではありません。他の子供とは見た目が違うかもしれませんが、きっと良い子に育ちます。どうかここに置かせてください」と女は答えた。
村人達は困ったが、赤子を包んでいる着物を見るとなかなか上等なものであることに気づいた。女も容姿だけでなく所作や話し方も美しい。しかもここに来る前には馬も連れていたというので、もしやこの娘はどこかの尊いお方の元に嫁いだか仕えていたのではないか。
であれば、いつかその国の者が迎えにきた時褒美があるかもしれぬと考えた。
もし音沙汰なくとも、この赤子のアザの様子では長くは持つまい。邪魔者がいなくなったところでこの美しい女を娶ろうと考える者もいるだろう。
当時村を仕切っていた老人が
「一人養うのも大変な村だが、幸い山に古い納屋が残っている。そこでよければ使うといい。今はできるだけ蓄えを分けてやれるが、冬が明けたら自分で働いてもらわにゃならんぞ」と言った。
女は「ありがとうございます!ありがとうございます!きっと、一生懸命働きます」と泣きながら喜んだ。
「あぁ、よかったね玄慈。お前は私が守るよ」
玄慈と呼ばれた赤子はうんともすんとも泣かず、それもまた村人達に恐ろしく感じさせた。
女の名前はサネといった。
サネは言った通り冬が明けてから懸命に働いた。玄慈をおぶったまま山を降りては村人の仕事を手伝い、自分で畑を作り魚を獲ったりした。
器量が良く嫌な顔せず働くサネに村人の多くは心惹かれたが、皆どこか一線を引いていた。
あの醜く恐ろしい赤子の存在である。
赤子はなかなかしぶとく逞しく、母親からの愛を一身に受け育っていく。
あの恐ろしい赤子さえいなければサネと一緒になりたいと思う者もいたが、赤子をどうこうする度胸があるわけもないまま遠巻きに見守るしかなかった。
10年が経った頃、無理がたたったのかサネは謎の病で倒れた。村人達は最初は心配し様々な療法を試そうと納屋へ訪れたがどれも効かず、そのうち誰も訪れなくなってしまった。
また1年経った頃、とうとうサネは息を引き取った。
村人達は大層困った。
結局何も見返りがないままサネを失い、納屋には一人醜い子供だけが残ったからだ。
サネが亡くなってからの玄慈の生活は、辛く苦しいものだった。村人は誰も手を差し伸べてくれず、納屋に近付く者は現れなくなった。
追い出すか殺すことも考えたが、まだ子供であることと、手を下せばあの恐ろしいアザから何か呪いを受けるかもしれぬという村人の勝手な想像から玄慈はそのまま山で生き続けることとなった。
玄慈は母親がやってきたように一人で働き、陰で村人から罵られながらも成長していった。
この玄慈こそ、後に山から姿を消すことになる化物男である。
「詳しくは話せませんが、賊に追われながらなんとかここまで辿り着きました。自分の故郷がどこにあるか、何日経ったのかももうわかりません。馬も死んでしまい、これ以上寒い中我が子を連れ出せません…どうか、ここに置かせてください」
涙を流しながら話す女に村人達は同情したが、包まれていた布から顔を出した赤子にまた驚いた。
大切そうに抱かれた赤子の顔は、アザに侵され歪んでおり、本当にこの女の子供なのかと疑うほどに醜くおぞましいものであった。
このアザも何か流行病なのではないかと聞いたが「これは生まれつきのアザですが、けして病気ではありません。他の子供とは見た目が違うかもしれませんが、きっと良い子に育ちます。どうかここに置かせてください」と女は答えた。
村人達は困ったが、赤子を包んでいる着物を見るとなかなか上等なものであることに気づいた。女も容姿だけでなく所作や話し方も美しい。しかもここに来る前には馬も連れていたというので、もしやこの娘はどこかの尊いお方の元に嫁いだか仕えていたのではないか。
であれば、いつかその国の者が迎えにきた時褒美があるかもしれぬと考えた。
もし音沙汰なくとも、この赤子のアザの様子では長くは持つまい。邪魔者がいなくなったところでこの美しい女を娶ろうと考える者もいるだろう。
当時村を仕切っていた老人が
「一人養うのも大変な村だが、幸い山に古い納屋が残っている。そこでよければ使うといい。今はできるだけ蓄えを分けてやれるが、冬が明けたら自分で働いてもらわにゃならんぞ」と言った。
女は「ありがとうございます!ありがとうございます!きっと、一生懸命働きます」と泣きながら喜んだ。
「あぁ、よかったね玄慈。お前は私が守るよ」
玄慈と呼ばれた赤子はうんともすんとも泣かず、それもまた村人達に恐ろしく感じさせた。
女の名前はサネといった。
サネは言った通り冬が明けてから懸命に働いた。玄慈をおぶったまま山を降りては村人の仕事を手伝い、自分で畑を作り魚を獲ったりした。
器量が良く嫌な顔せず働くサネに村人の多くは心惹かれたが、皆どこか一線を引いていた。
あの醜く恐ろしい赤子の存在である。
赤子はなかなかしぶとく逞しく、母親からの愛を一身に受け育っていく。
あの恐ろしい赤子さえいなければサネと一緒になりたいと思う者もいたが、赤子をどうこうする度胸があるわけもないまま遠巻きに見守るしかなかった。
10年が経った頃、無理がたたったのかサネは謎の病で倒れた。村人達は最初は心配し様々な療法を試そうと納屋へ訪れたがどれも効かず、そのうち誰も訪れなくなってしまった。
また1年経った頃、とうとうサネは息を引き取った。
村人達は大層困った。
結局何も見返りがないままサネを失い、納屋には一人醜い子供だけが残ったからだ。
サネが亡くなってからの玄慈の生活は、辛く苦しいものだった。村人は誰も手を差し伸べてくれず、納屋に近付く者は現れなくなった。
追い出すか殺すことも考えたが、まだ子供であることと、手を下せばあの恐ろしいアザから何か呪いを受けるかもしれぬという村人の勝手な想像から玄慈はそのまま山で生き続けることとなった。
玄慈は母親がやってきたように一人で働き、陰で村人から罵られながらも成長していった。
この玄慈こそ、後に山から姿を消すことになる化物男である。
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