化物と雪

ゆめかわ

文字の大きさ
2 / 12
序章

2.20年前

しおりを挟む
 村を囲む山が雪に染まる頃、一人の女が赤子を抱えやって来た。身なりはボロボロだが美しい顔、艶のある黒髪、華奢な身体の女を見た村人は、このような人間がなぜこんな所にと驚いた。

「詳しくは話せませんが、賊に追われながらなんとかここまで辿り着きました。自分の故郷がどこにあるか、何日経ったのかももうわかりません。馬も死んでしまい、これ以上寒い中我が子を連れ出せません…どうか、ここに置かせてください」

涙を流しながら話す女に村人達は同情したが、包まれていた布から顔を出した赤子にまた驚いた。
大切そうに抱かれた赤子の顔は、アザに侵され歪んでおり、本当にこの女の子供なのかと疑うほどに醜くおぞましいものであった。
 このアザも何か流行病なのではないかと聞いたが「これは生まれつきのアザですが、けして病気ではありません。他の子供とは見た目が違うかもしれませんが、きっと良い子に育ちます。どうかここに置かせてください」と女は答えた。
村人達は困ったが、赤子を包んでいる着物を見るとなかなか上等なものであることに気づいた。女も容姿だけでなく所作や話し方も美しい。しかもここに来る前には馬も連れていたというので、もしやこの娘はどこかの尊いお方の元に嫁いだか仕えていたのではないか。
であれば、いつかその国の者が迎えにきた時褒美があるかもしれぬと考えた。
もし音沙汰なくとも、この赤子のアザの様子では長くは持つまい。邪魔者がいなくなったところでこの美しい女を娶ろうと考える者もいるだろう。

 当時村を仕切っていた老人が
「一人養うのも大変な村だが、幸い山に古い納屋が残っている。そこでよければ使うといい。今はできるだけ蓄えを分けてやれるが、冬が明けたら自分で働いてもらわにゃならんぞ」と言った。
女は「ありがとうございます!ありがとうございます!きっと、一生懸命働きます」と泣きながら喜んだ。
 
「あぁ、よかったね玄慈げんじ。お前は私が守るよ」

 玄慈げんじと呼ばれた赤子はうんともすんとも泣かず、それもまた村人達に恐ろしく感じさせた。

 女の名前はサネといった。
サネは言った通り冬が明けてから懸命に働いた。玄慈をおぶったまま山を降りては村人の仕事を手伝い、自分で畑を作り魚を獲ったりした。
器量が良く嫌な顔せず働くサネに村人の多くは心惹かれたが、皆どこか一線を引いていた。
あの醜く恐ろしい赤子の存在である。
赤子はなかなかしぶとく逞しく、母親からの愛を一身に受け育っていく。
あの恐ろしい赤子さえいなければサネと一緒になりたいと思う者もいたが、赤子をどうこうする度胸があるわけもないまま遠巻きに見守るしかなかった。

 10年が経った頃、無理がたたったのかサネは謎の病で倒れた。村人達は最初は心配し様々な療法を試そうと納屋へ訪れたがどれも効かず、そのうち誰も訪れなくなってしまった。

 また1年経った頃、とうとうサネは息を引き取った。
村人達は大層困った。
結局何も見返りがないままサネを失い、納屋には一人醜い子供だけが残ったからだ。

 サネが亡くなってからの玄慈の生活は、辛く苦しいものだった。村人は誰も手を差し伸べてくれず、納屋に近付く者は現れなくなった。
追い出すか殺すことも考えたが、まだ子供であることと、手を下せばあの恐ろしいアザから何か呪いを受けるかもしれぬという村人の勝手な想像から玄慈はそのまま山で生き続けることとなった。
玄慈は母親がやってきたように一人で働き、陰で村人から罵られながらも成長していった。

 この玄慈こそ、後に山から姿を消すことになる化物男である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...