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第一章 化物と雪
5.ユキという娘
しおりを挟む「あの…おユキさん、だったか」
着物にかかった雪をはらっている娘に玄慈は話しかけた。娘はにこりと答える。
「さんだなんて。どうぞユキとお呼びください」
ユキと名乗った娘は見れば見るほど美しかった。
歳の頃は多分玄慈より少し下といったくらいだろう。
なんにせよ若い娘とこんなに近くで話すのが初めての玄慈はただぼうっと見つめることしかできなかった。
今度はユキが玄慈に話しかけた。
「あなたのお名前も聞いてよろしいですか?…それと、なぜ家の中でずっと布を巻いているのです?」
玄慈はハッとした。さすがにこのアザだらけの醜い顔を見られては、怖がられてしまう。
そう思っている間にもすぐ目の前にユキが来ていた。
「あ、ああいや、これは…」
どうしていいかわからず意味の成さない声を絞り出す玄慈を無視し、顔を隠す布をユキは玄慈からゆっくり奪った。
「あ…」
顔を守るものが無くなった。
玄慈はユキの目を見ることができず、思わず早口になって話しだした。
「俺の顔なんかあんまり見ちゃ気分悪くしちまうよ。下の村の人達には化物とかおばけって呼ばれてるからお前さんもそう呼んでかまわないよ。おもしろいから気に入ってんだ、ははは…」
おもしろいから気に入ってるなど嘘である。ただ、自分は害のない化物だとこの美しい人に伝えたかった。自分でも泣きそうになりながら心にもないことを捲し立てているとユキの凛とした声に止められた。
「私はあなたの名前を聞いています。あなたの母が、あなたに付けた名です」
ユキの目をやっと見ることができた。真っ直ぐこちらを見つめていた。
「あ…玄慈…」
目を見ながら玄慈は名乗った。
「玄慈さん…私を泊めてくださりありがとうございます。私はこんな真っ白な髪をしてるのでよく人に忌み嫌われてしまうのです。だから頼れる人がいなくて…玄慈さんがいて本当によかった」
ユキは変わらず笑顔で玄慈に接してくれた。
母以外にお礼を言われたのは初めてのことだった。
(こんな美しい人が俺に優しくしてくれるなんて。やはり狐か狸に化かされているんだろうか)
(狐か狸だとしてもこの様子だと困っていたのは本当だろう。数日くらいおいてやろう)
その晩、玄慈はユキの布団から少し離れた場所で眠りについた。寒い冬だが、布団はいつもより暖かく感じた。
玄慈は自分の幼い頃の夢を見た。
夢の中で、幼い自分は籠を背負っていた。
後ろから声をかけられる。
「何をしてるの?」
玄慈は声の方に振り返った。
「花を探してるんだ!おっかあは花が好きだから」
すると誰かの声がする。
「こんなところに花なんてないよ」
夢はそこで終わった。
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