化物と雪

ゆめかわ

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第一章 化物と雪

4.吹雪の中で

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ヒョオ、ヒョオ。

 珍しいほどに風が強い夜だった。
こんな吹雪なかなかないだろう。玄慈げんじは囲炉裏の火を強めた。
小屋の鶏は無事か?川が凍ってしまうだろうか、そしたら魚がいなくなってしまう。
様々な不安に唸っていると

トン、トン

戸をゆっくり叩く音がした。ような気がした。
玄慈は思わず振り返った。
まさかこんな冬の夜に、しかも自分のような化物男が住む家に誰が訪ねてこようか。
きっとこの強い風が戸を叩いただけだろう。
そう思い玄慈は囲炉裏に向き直った。
 
トン、トン

また聞こえた。少し大きな音に思える。
玄慈はようやく立ち上がり、そろりと戸へ近づいた。
 
「だ、誰か…いるのかい?そこに…」

冬眠から目覚めた熊だったらどうしようなどと身構えていると、返事が聞こえた。
知らない人間の、若い女の声だった。
 
「夜分に申し訳ありません。この吹雪で山を越えることができず困っております…どうか、しばらく泊めていただけませんか?」

鈴が鳴るような美しい声だった。口調も礼儀正しい。
しかし、玄慈はすぐに人ではないと思った。
こんな吹雪の中わざわざ山へ登り、誰が住んでるかもわからない小さな納屋に若い娘が1人で訪ねるなどあるわけがないのだ。
なかなか返事をしない家主に娘がまた頼みこむ。
 
「仕事はなんでもします。どうか…」

きっと妖の類だろう、狐か狸か…
いや、だからなんなのだ。ここで人ではないからといって追い返す理由にはならない。そんなことをしては村人が自分にしていることとなんら変わりないではないか。
それにこんなに頼りにされるなんて初めてのことだ。
玄慈は己の考えを改め、戸を開けることにした。
念の為手ぬぐいで顔を隠して。
 
「うちは狭いし、ここに住むのは男1人だ。それでも構わないんならここにいるといい」

 戸を開けると冷たい風が勢いよく入ってきた。
(こんな寒い中待たせてしまったのか。悪いことをした)
玄慈は心の中で反省した。
吹雪で細めていた目を少しずつ開けると、感謝している娘の姿が見えた。
 
「ああ、ありがとうございます!」

何度もお辞儀をして喜ぶ娘を見て、玄慈はとても驚き目を見開いた。
そこには見たことないほど真っ白な肌に、真っ白な長い髪の娘がいた。
そして、とても美しい顔立ちをしていた。
 
「私はユキと申します。しばらくお世話になります」
 
にこりと微笑む娘の目を見て玄慈は言葉を失う。
 
(化かされていないとこんなことはありえん。妖ならきっとこの吹雪の中どうにかして俺を食い殺すのだろうか)
(しかし、なんだろう。それでも…)

 玄慈は考えるのをやめ、娘を家に入れた。
たとえ人じゃなかろうと、騙されていようと、
それでもかまわない。
 そう思えるほどに、娘の瞳は薄氷のように儚く美しかった。
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