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第一章 化物と雪
9.正体
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「待ってくれユキ!戻ってくれ!話を…」
「ついてこないでください!私のことはどうか忘れてください!」
真夜中に2人の男女が白い地面を走っている。
“雪女なのか”
この言葉が玄慈の口から発せられた瞬間、ユキは納屋から飛び出した。玄慈はすぐに走り追いかけた。
そして今に至る。
玄慈は身体が大きいでなく体力もあった。そのおかげか、いくら声を荒げながらもユキの姿を見失うまいと走り続けることができた。
「どうしてなんだ!俺はお前さんが人でないことなんて…」
人でないことなんて──
玄慈にはなんとなくわかっていた。
それでも、自分にここまでよくしてくれた人はユキが初めてであり嬉しかったのだ。
もし妖であることを引け目に感じて逃げているだけなら、ちゃんと話をしたい。そしてまだ一緒にいてほしい。そう伝えるためにユキを追い続けた。
自分がどこを走っているのかもはやわからないくらい走っていると、ユキが突然ピタッと走るのをやめた。
玄慈も同じく止まると、ようやく周囲をじっくり確認した。そこはたくさんの岩が積み重なり動物や植物も存在しない場所で、ユキの体が向く先には崖があった。
ユキの近くに寄り崖の下を見ると、まだ日が昇る前の暗さでもわかるほどに自分達が高い場所に来たのだとわかった。
「ここは…」
玄慈はとあることに気づいた。
(夢で見た場所だ!そうだ…ユキと出会った所だ!なぜ今日まで忘れていたんだろう)
今いる場所が夢と同じ場所であると確信した玄慈は黙って崖の先を眺めるユキに声をかけようとした。
しかし、それは別の声により叶わなかった。
「なんだ泡雪お前まだ殺してなかったのか」
とてつもなく低く、不安になる声が背後から聞こえた。玄慈は恐る恐る声の方向を向くと、信じられないものを目にした。
そこには玄慈の倍ほどの体躯をした、どうしても人とは呼べぬ姿の者がいた。特徴は大きな体を支える1本の足と編笠からのぞく1つの大きな目玉。
妖怪だ。玄慈はすぐにわかった。
その一つ目でギョロリと睨まれ、玄慈の膝はガクガクと震えた。
「多々羅…!」
ユキがそう呼ぶ。
多々羅とはきっと妖怪の名前だろう。
しかし玄慈はそれも耳に入らずただただ恐れ、息を吐く。
「はっ…ああっ…」
「なぜわしを見て驚いている?今日までお前はこの泡雪…妖と過ごしていたではないか」
そう言いながらユキを指す妖怪を見て、玄慈はようやく泡雪と呼ばれる者がユキであることに気づいた。
「雪女は人間の男を殺して強い妖怪になる。そうしないと一人前とは認められんのだ」
「ユキはそんなことしない!」
「何を言っとる。お前は昔一度殺されかけていたではないか」
「…え?」
玄慈は何一つ理解が追いつかないまま立ちすくんでいると、多々羅が目の前に一瞬で現れた。
避ける間もなく玄慈のこめかみに鋭い爪がついた人差し指を刺した。
「多々羅!」
玄慈が殺されたと思いユキが叫ぶ。しかし、玄慈は何も変わらなかった。
指は脳に到達しているはずなのに血も出ず、痛みも感じていなかった。
この妖怪の能力なのだろう。
「ああ…やっぱりお前…あの時の記憶を失ってるな~?」
「え…?」
多々羅は人の記憶を覗き見ることができる。
玄慈の中には幼き頃に出会った玄慈とユキの微笑ましい思い出が残っていた。
それを見た多々羅はくっくっと笑い、玄慈の頭の中に己の声をゆっくり響かせた。
(思い出してみろよ…そんな綺麗な記憶じゃないだろう…)
その瞬間、玄慈の中に新たな記憶が蘇っていく。
少女に花を見せてやる。そう約束した幼き玄慈は花を探していた。
「見つけたらお前さんにも見せてやろう!」
玄慈は1本の白い小さな花を握りしめる。
「はあ…はあ…あった…!」
汚れた着物や顔も気にせず、笑顔を浮かべる。
しかし、その直後
ピキキキッ
玄慈の体は冷たい氷に包まれた。
冷たい雪の上で動かなくなった玄慈を
幼きユキは眉ひとつ動かさず見つめていた。
「ついてこないでください!私のことはどうか忘れてください!」
真夜中に2人の男女が白い地面を走っている。
“雪女なのか”
この言葉が玄慈の口から発せられた瞬間、ユキは納屋から飛び出した。玄慈はすぐに走り追いかけた。
そして今に至る。
玄慈は身体が大きいでなく体力もあった。そのおかげか、いくら声を荒げながらもユキの姿を見失うまいと走り続けることができた。
「どうしてなんだ!俺はお前さんが人でないことなんて…」
人でないことなんて──
玄慈にはなんとなくわかっていた。
それでも、自分にここまでよくしてくれた人はユキが初めてであり嬉しかったのだ。
もし妖であることを引け目に感じて逃げているだけなら、ちゃんと話をしたい。そしてまだ一緒にいてほしい。そう伝えるためにユキを追い続けた。
自分がどこを走っているのかもはやわからないくらい走っていると、ユキが突然ピタッと走るのをやめた。
玄慈も同じく止まると、ようやく周囲をじっくり確認した。そこはたくさんの岩が積み重なり動物や植物も存在しない場所で、ユキの体が向く先には崖があった。
ユキの近くに寄り崖の下を見ると、まだ日が昇る前の暗さでもわかるほどに自分達が高い場所に来たのだとわかった。
「ここは…」
玄慈はとあることに気づいた。
(夢で見た場所だ!そうだ…ユキと出会った所だ!なぜ今日まで忘れていたんだろう)
今いる場所が夢と同じ場所であると確信した玄慈は黙って崖の先を眺めるユキに声をかけようとした。
しかし、それは別の声により叶わなかった。
「なんだ泡雪お前まだ殺してなかったのか」
とてつもなく低く、不安になる声が背後から聞こえた。玄慈は恐る恐る声の方向を向くと、信じられないものを目にした。
そこには玄慈の倍ほどの体躯をした、どうしても人とは呼べぬ姿の者がいた。特徴は大きな体を支える1本の足と編笠からのぞく1つの大きな目玉。
妖怪だ。玄慈はすぐにわかった。
その一つ目でギョロリと睨まれ、玄慈の膝はガクガクと震えた。
「多々羅…!」
ユキがそう呼ぶ。
多々羅とはきっと妖怪の名前だろう。
しかし玄慈はそれも耳に入らずただただ恐れ、息を吐く。
「はっ…ああっ…」
「なぜわしを見て驚いている?今日までお前はこの泡雪…妖と過ごしていたではないか」
そう言いながらユキを指す妖怪を見て、玄慈はようやく泡雪と呼ばれる者がユキであることに気づいた。
「雪女は人間の男を殺して強い妖怪になる。そうしないと一人前とは認められんのだ」
「ユキはそんなことしない!」
「何を言っとる。お前は昔一度殺されかけていたではないか」
「…え?」
玄慈は何一つ理解が追いつかないまま立ちすくんでいると、多々羅が目の前に一瞬で現れた。
避ける間もなく玄慈のこめかみに鋭い爪がついた人差し指を刺した。
「多々羅!」
玄慈が殺されたと思いユキが叫ぶ。しかし、玄慈は何も変わらなかった。
指は脳に到達しているはずなのに血も出ず、痛みも感じていなかった。
この妖怪の能力なのだろう。
「ああ…やっぱりお前…あの時の記憶を失ってるな~?」
「え…?」
多々羅は人の記憶を覗き見ることができる。
玄慈の中には幼き頃に出会った玄慈とユキの微笑ましい思い出が残っていた。
それを見た多々羅はくっくっと笑い、玄慈の頭の中に己の声をゆっくり響かせた。
(思い出してみろよ…そんな綺麗な記憶じゃないだろう…)
その瞬間、玄慈の中に新たな記憶が蘇っていく。
少女に花を見せてやる。そう約束した幼き玄慈は花を探していた。
「見つけたらお前さんにも見せてやろう!」
玄慈は1本の白い小さな花を握りしめる。
「はあ…はあ…あった…!」
汚れた着物や顔も気にせず、笑顔を浮かべる。
しかし、その直後
ピキキキッ
玄慈の体は冷たい氷に包まれた。
冷たい雪の上で動かなくなった玄慈を
幼きユキは眉ひとつ動かさず見つめていた。
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