化物と雪

ゆめかわ

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第一章 化物と雪

12.一緒に

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 母を看取った日。
玄慈げんじは泣きながら母、サネの手を握っていた。

「おっかぁ死なないで…俺を1人にしないでよ」

サネは安心させるように笑う。

「おっかぁがいなくなっても、心はずっと玄慈のそばにあるよ。それにお前はとても優しい子だから、おっかぁ以外にもきっとお前を愛してくれる人はいる。だからおっかぁがいない間、辛くともその時がくるまで信じて待ってね…

信じて…生きて…生き続けて…幸せになって…」


「─はっ!」

 玄慈が目が覚ますと、目の前に涙を流しているユキの顔があった。玄慈の頭はユキの膝の上に乗っていた。お互い体が水に濡れており、川に落ちたおかげで助かったことを理解した。
もちろん、2人が速度を落とさずそのまま落ちていれば無傷では済まなかっただろう。

「生きてる…!よかった…!」

ユキはそのまま玄慈を抱きしめる。
玄慈はしばらく呆けていた。

(夢…だったのか。それともお告げなのか)

母の最期の言葉を噛み締めた玄慈は抱きしめられたまま語りかける。

「ユキ…どこか遠くへいこう」

「俺たちをいじめる妖怪も人もいない、花がたくさん咲くところに…そこにたどり着くまでどのくらいかかるか、どうなるかわからないけど、俺たちが幸せに暮らせるところまで行こう、一緒に」

ユキが一旦玄慈を離し、向き合う。そして元気な声で返事をした。

「…はい!」

玄慈がこれまで見た中で、1番晴れやかな笑顔だった。


 玄慈が山から姿を消して数日、村ではその話題で持ちきりだった。どこかで熊にやられたのか、本当に化物だったのか、真相は誰もわからない。
村の子供は噂を持ち込み騒いでいた。
大人達は笑って聞いている。

「またせがれがホラふいてやがら!」

「嘘じゃねぇ!化物男のとこに変な女がいたんだ!」

「あんな場所に女が行くわけないだろう。それにあの納屋は何度見に行っても今じゃゴミだけ残って人っ子ひとりいねえさ」

「いたんだよ!珍妙な髪してたし手もぬくもりがねぇしありゃ人じゃねぇや!」

「人じゃねぇだと。はっは!おめえそりゃあ…」

男が山の方向を見て嘲笑する。

「お似合いの妖怪夫婦じゃねぇか」

 あの山のぼるな ひとりでのぼるな
 ばけもの住む山あぶないぞ
 ひとりでのぼるわるい子は
 おんなじアザにおんなじ傷
 おんなじ姿になるだろう
 おんなじばけものにされ 愛されぬ

他の子供達が遊びながら歌っている。
しかしこの歌があの男に届くことはもうなかった。


 とある日、とある場所。
雪に覆われた地面に2人分の足跡が残る。
その先には、男女が仲睦まじく手を繋ぎ歩いている。2人はしっかりと、手からお互いのぬくもりを感じていた。

化物と妖怪ではなく、ただ愛し合う“人”の姿がそこにあった。
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