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第一章 化物と雪
11.離さない
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「私があいつに攻撃している間に逃げてください」
「えっ」
ユキが玄慈に囁いた。
玄慈が何か言う前にユキは手から氷の柱を伸ばし多々羅にぶつけようとする。
「お前がわしに勝てると思っているのか!」
飛んでくる氷の塊をさっとかわした多々羅はユキと同じように手から氷を生み出しユキに投げつけた。
とんでもない速さで飛んでくる氷は、いとも簡単にユキの体を痛めつけた。
「ぐぁっ」
「ユキ!」
玄慈がよろめくユキを支える。
「何してるんですか!早く逃げて!」
「1人で逃げれるか!俺といたいと言ってくれたじゃないか!」
じりじりと近づいてくる多々羅から少しでも離れようと、玄慈はユキを支えながら後ろへ下がっていく。
ユキは弱々しい声で説得した。
「一度あなたに手をかけた私にそんな資格はありません…あなたは…心がとても美しいからきっとこの先…私以外にもたくさんの人と出会えるし、幸せになれるでしょう」
「俺はお前さんとでなければ幸せになれない!」
「…!」
その叫びにユキは目を見開いた。玄慈は、覚悟を決めたような、嘘偽りのない魂が宿った目でユキを見つめていた。
その時、ユキの中で何かが変わった。
「もう逃げ場はないぞ」
多々羅から離れているうちに2人は崖の先まで来ていた。どうすれば…と玄慈が懸命に考えているとユキが玄慈にしか聞こえないように小さな声で話した。
「玄慈さん…もし…私をまだ信じてくれるなら…今から何が起こっても私の手を離さないでください。絶対に」
「!!ああ、信じる!死んでも離さない!」
玄慈は即答した。それを聞いたユキはにこりと笑い、すぐに周囲に氷を張り巡らせた。
「!!何をしている…!」
地面が玄慈とユキを囲うようにどんどん凍っていく。少しでも大きな力を加えたらヒビが入りそうなほどに。
ユキは次に口から冷たく強い風をヒュオッと吹き多々羅のいる場所に当てようとする。しかしそれはさらりと飛んでかわされた。
「ははは!どこを狙っておる!」
避けた拍子にタンっと地面に降り立つ。
その時、地面からビキビキッと音が鳴った。
「!?」
いつのまにか少し離れた崖の先…玄慈とユキが立っている地面にヒビが入り続けていた。
(こいつまさかわざと距離をとらせて…!)
多々羅はユキの思惑に気づきすぐに2人の元へ向かおうとする。しかし、その動きも地面のヒビ割れを助長することとなる。
多々羅が攻撃を加える寸前、崖が完全に崩れた。
2人はそのまま落ちていった。
「貴様ぁーーー!!」
多々羅は崖の下へ怒りの声を上げる。
「わしが殺さずともいずれ他の妖や物の怪にやられる!お前たちに居場所などない!幸せになど!なれるわけないのだ!」
その叫びが聞こえる者はもう、その場にいない。
(離さない!絶対に!)
玄慈はしっかりとユキにしがみついて離さなかった。ユキは手から鋭いつららを出して崖に刺す。少しでも地面に落ちた時の衝撃を和らげるためだ。しかし落ちる速さは一方に落ちず、焦った。
(支えきれない!この速度で地面にぶつかったら…!)
その時、玄慈が大きな足を力強く崖にぶつけた。そのままめり込ませユキと同様に速度を落とそうとしたのだ。
「うおおおおおお!!!!!」
「玄慈さん…!」
いくら人より並外れた体躯と力がある玄慈でも、さすがに足を崖にめり込ませたまま落ち続ける行為は辛く痛々しいものだった。足は目も当てられないほど血と土に塗れボロボロになっていく。
ユキも大男1人を抱え氷を出し続けることで体力をかなり消耗していた。
しかし2人は諦めなかった。
必ず一緒に助かってみせる。その一心で踏ん張り続ける。どれだけ石の欠片が肌を傷つけようが、手足の力を緩めることはない。
長い間バキバキと音を立て落ち続けた2人は
──バシャン。
深く、冷たい水の中に沈んでいった。
「えっ」
ユキが玄慈に囁いた。
玄慈が何か言う前にユキは手から氷の柱を伸ばし多々羅にぶつけようとする。
「お前がわしに勝てると思っているのか!」
飛んでくる氷の塊をさっとかわした多々羅はユキと同じように手から氷を生み出しユキに投げつけた。
とんでもない速さで飛んでくる氷は、いとも簡単にユキの体を痛めつけた。
「ぐぁっ」
「ユキ!」
玄慈がよろめくユキを支える。
「何してるんですか!早く逃げて!」
「1人で逃げれるか!俺といたいと言ってくれたじゃないか!」
じりじりと近づいてくる多々羅から少しでも離れようと、玄慈はユキを支えながら後ろへ下がっていく。
ユキは弱々しい声で説得した。
「一度あなたに手をかけた私にそんな資格はありません…あなたは…心がとても美しいからきっとこの先…私以外にもたくさんの人と出会えるし、幸せになれるでしょう」
「俺はお前さんとでなければ幸せになれない!」
「…!」
その叫びにユキは目を見開いた。玄慈は、覚悟を決めたような、嘘偽りのない魂が宿った目でユキを見つめていた。
その時、ユキの中で何かが変わった。
「もう逃げ場はないぞ」
多々羅から離れているうちに2人は崖の先まで来ていた。どうすれば…と玄慈が懸命に考えているとユキが玄慈にしか聞こえないように小さな声で話した。
「玄慈さん…もし…私をまだ信じてくれるなら…今から何が起こっても私の手を離さないでください。絶対に」
「!!ああ、信じる!死んでも離さない!」
玄慈は即答した。それを聞いたユキはにこりと笑い、すぐに周囲に氷を張り巡らせた。
「!!何をしている…!」
地面が玄慈とユキを囲うようにどんどん凍っていく。少しでも大きな力を加えたらヒビが入りそうなほどに。
ユキは次に口から冷たく強い風をヒュオッと吹き多々羅のいる場所に当てようとする。しかしそれはさらりと飛んでかわされた。
「ははは!どこを狙っておる!」
避けた拍子にタンっと地面に降り立つ。
その時、地面からビキビキッと音が鳴った。
「!?」
いつのまにか少し離れた崖の先…玄慈とユキが立っている地面にヒビが入り続けていた。
(こいつまさかわざと距離をとらせて…!)
多々羅はユキの思惑に気づきすぐに2人の元へ向かおうとする。しかし、その動きも地面のヒビ割れを助長することとなる。
多々羅が攻撃を加える寸前、崖が完全に崩れた。
2人はそのまま落ちていった。
「貴様ぁーーー!!」
多々羅は崖の下へ怒りの声を上げる。
「わしが殺さずともいずれ他の妖や物の怪にやられる!お前たちに居場所などない!幸せになど!なれるわけないのだ!」
その叫びが聞こえる者はもう、その場にいない。
(離さない!絶対に!)
玄慈はしっかりとユキにしがみついて離さなかった。ユキは手から鋭いつららを出して崖に刺す。少しでも地面に落ちた時の衝撃を和らげるためだ。しかし落ちる速さは一方に落ちず、焦った。
(支えきれない!この速度で地面にぶつかったら…!)
その時、玄慈が大きな足を力強く崖にぶつけた。そのままめり込ませユキと同様に速度を落とそうとしたのだ。
「うおおおおおお!!!!!」
「玄慈さん…!」
いくら人より並外れた体躯と力がある玄慈でも、さすがに足を崖にめり込ませたまま落ち続ける行為は辛く痛々しいものだった。足は目も当てられないほど血と土に塗れボロボロになっていく。
ユキも大男1人を抱え氷を出し続けることで体力をかなり消耗していた。
しかし2人は諦めなかった。
必ず一緒に助かってみせる。その一心で踏ん張り続ける。どれだけ石の欠片が肌を傷つけようが、手足の力を緩めることはない。
長い間バキバキと音を立て落ち続けた2人は
──バシャン。
深く、冷たい水の中に沈んでいった。
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