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葡萄の国から(全文)
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葡萄の国はいつも笑いが絶えません
ここはいつでも、いつまでも平和
それは、お父さんの葡萄の木の愛が国中に行き渡り、お母さんの葡萄の軸がいつでも子の葡萄の実を守っているから
葡萄の国にはドアがあります。
子どもたちはそのドアを決して開けてはいけないとお父さんとお母さんに言われていました。
でも、好奇心旺盛な長男は、ある日、どうしても我慢できなくなって、とうとうそのドアを開けてしまいました。
ドアの向こうには、泣き叫ぶ子供、気の遠くなるような爆音、逃げ惑う人々が見えました。
「これは何? 今まで見たことがない景色」
「ああ、とうとう開けてしまったのね。」
お母さんは嘆き、お父さんは怒りました。
「ねえ、困っている人がたくさんいるよ。どうして助けないの」
「これまで沢山の仲間が行って、そしてみんな傷ついて帰ってきた。我々はもう誰も傷つけたくないとこのドアを閉め、決して開かないように呪文をかけたのだ」
「でも、僕は開けられた」
「時が来たのだろう。『天に選ばれた者が現れた時、この扉は開くだろう』、最後に扉を閉めた時に扉がそう言った。だか、私はお前を行かせたくない。この場所は何にも侵されない強力な結界がはってある。ここは永遠に平和で喜びに溢れた安全な場所だ。だが、お前が行くと言えば誰もそれを止めることはできない。選ぶのはお前だ」
「僕は行くよ」
長男はそう言うと扉の外へと出て行った。
長男は戦った。正義が勝って悪が滅びるのだと信じて。勝利がすべてをもたらしてくれると。
必死で戦って、勝利を収めた。
でも、戦いは新たな戦いを生み、喜びの裏側に悲しみがあることを知ると、長男は絶望を抱え、葡萄の国へ帰ってきた。
葡萄の家族は喜んで長男を迎え入れた。
ここでは心の傷も体の傷もすぐに葡萄のしずくで治してもらえる。
「扉の向こうでは、心の傷も体の傷も治るのにとても時間がかかるんだ。それにどうしても治らない病気やケガもある」
「よし、僕が向こうへ行ってみんなの病気やけがを治してくるよ」
葡萄のしずくの使い方が上手な次男が言いました。
「ああ、可愛い息子よ、扉の向こうにはここにあるような葡萄のしずくはないのよ」
お母さんは行ってほしくないと嘆いた。
「それでも僕は行くよ。向こうにも病気を治せる何かがあるはずだ。それを探してみんなの心と体を元気にすれば争いもなくなるはずだから」
そして、次男は扉の向こうへ行き、新しい薬を作り、たくさんの人の病気やけがを治し、たくさん感謝された。
でも、どんな薬でも治らない病気は無くすことはできず、恨まれることさえもあった。
それでも次男は、新しい薬や新しい方法をたくさん考え、たくさんの人を助けたけれど、とうとう時間切れになって葡萄の国へ帰らなければならなかった。
やり切った達成感もあったけど、救えなかったことへの無力感も大きかった。でも、ここではそんな心の傷も葡萄のしずくがすぐに癒してくれる。
「ドアの向こうの人も、この国のことを知れば、心が病むこともなくなって、病気になることもなくなって、不安が消えて争いもなくなるんじゃないかな」
次男の悲しそうな声を聞いて三男は
「じゃあ、今度は僕がそれをみんなに教えに行くよ」
「それは素晴らしいことだが、とても難しいことだよ。ドアの向こうからはこの国は見えないし、私たちの声も聞こえない。それをドアの外の言葉だけで伝えるのは想像を超える困難が待っているんだ」
「それでも行かなくちゃ」
三男はたくさんの人々に葡萄の国のことを教え、平和の素晴らしさを教えていった。
でも、三男ひとりでは世界中の人に伝えるには時間が少なく、力の限り叫んでも、世界の隅々まで声を届けるにはまだまだ声が小さかった。
だから、伝えた人にまた伝えてくれ、そして君が伝えた人に、ほかの人にも伝えてくれるように頼んでほしいと頼んだ。
でも、人から人へ伝えるうちにだんだん意味が伝わらなくなっていった。
そして、最後には嘘つきと言われ扉の向こうへ追い返されてしまった。
「お帰り」
「ただいま」
葡萄の家族に迎えられ、三男は元気を取り戻した。
「もっともっと僕の声でみんなに伝えたかったけど、扉の向こうの世界は広くて、せいいっぱい叫んでも世界中には聞こえなかった。もっと大きな声が出せるようになったら、世界中に僕の声を届けられたのかな」
それを聞いて歌の得意な四男が
「じゃあ、僕の歌でみんなに伝えよう」
と言いました。
それは、今まで誰もやったことがないことだったので、誰も想像がつきませんでした。
でも、誰も試したことがないからこそ、今度こそうまくいくかも。葡萄の国のみんなの期待が集まります。
四男は歌いました。心を込めて。世界の隅々まで届くようにと。
その歌はたくさんの人の心に響き、世界中に広がりました。
でも、その歌声も打ち消すほどの爆撃の音が止まない場所がありました。
そして、また四男も時間切れで帰ってきました。
「人は、なぜ戦うんだろう? 戦いのない世界のほうが幸せなはずなのに」
四男の疑問は、葡萄の国のみんなが持っている疑問でした。
兄弟たちは、その答えを探そう!とドアの向こうをようく観察していました。
そこには、お金がなくて食べ物が買えず、苦しんでいる人々がいました。
「そうか、お金があれば食べ物や着るものが買えて、みんなが幸せになれるんだ」
今度は五男が言いました。
「今度は僕が行って、たくさん働いてお金を稼ぐ。そして、お金がない人をなくすんだ」
五男はドアの向こうへ行くと、必死で働いた。お金がみんなを幸せにすると信じて。
そして、だんだん世界にお金が回るようになり、たくさんお金を持てる人々が増え、世界は豊かになっていった。
でも、そうなった時、人々はお金で買える幸せではなく、お金そのものを追いかけるようになった。
“お金のある人が幸せでお金ない人が不幸せ”と思われるようになり、お金を求めて新しい争いが起きた。
五男の思いも、やはりドアの外の世界全部には届かず、お金で幸せが買えない人をなくすこともかなわないまま、五男も葡萄の国へ帰る時間がきた。
「世界を幸せにできて、争いをなくすことができるのは、お金じゃなかったよ。僕のやったことは間違ってたの?」
「とても大切なことに気づいたわね。その気づきのためにあたながやったことは、素晴らしいことよ」
葡萄のお母さんがやさしく言いました。
「でも、今度はどうしたらいいんだろう?」
五男の嘆きに、兄弟たちもお父さんもお母さんも返す言葉がありませんでした。
すると、一番無邪気な末っ子の六男が言いました。
「なんか、面白そうだね。僕も行ってみたい」
「何を言ってるんだ。ドアの向こうはとても危険なんだ。遊びに行くなんてとんでもない」
兄さんたちは必至で止めたけど、六男の好奇心は止められずとうとう行ってしまいました。
「ああ、行ってしまったわ。しっかり者の兄さんたちがこんなに傷ついて帰ってきたのに。あの子にはとうてい無理だわ」
お母さんは嘆きました。
「見守るしかないだろう」
お父さんも絶望の中、言いました。
まだ幼く、遊ぶことしか知らない六男は、ドアの向こうでもずうっと遊んでいました。
そして、ある時代では“問題児”と呼ばれ嫌われ、ある場所では“異端児”と呼ばれ、疎まれました。
でも、無邪気な六男は周りの声なんて気になりません。それよりも遊ぶのが楽しくて。
そうして、遊んでいるうちに世界は少しずつ変わりはじめ、六男は今、一部の人たちから“天才”と呼ばれるようになりました。
ドアの開け閉めも前よりも楽になり、決められた時間が来ないと帰れなくて、一度帰ると戻ってこれなかった葡萄の国にも、少しずつ行ったり来たりができるようになりました。
そして、今日も葡萄の国に遊びに帰ると、お父さんが言いました。
「頑張っているようだな」
「僕はただ遊んでいるだけだよ。でも不思議だね。同じことをしてるだけなのに、時代や場所が変わると周りの人の言うことが変わるんだ。学校では怒られたし、ある時代では馬鹿にされた。でも、今、仲のいい人たちは天才って言ってくれるの。僕はずうっと遊んでるだけなのにね」
「何をして遊んでるんだい?」
長男が聞きました。
「絵を描いてるよ」
「どんな絵?」
次男が聞きました。
「みんなを描いてるんだ」
と言って、六男が葡萄の国の空に絵を描き始めました。
それは、ただの丸でした。丸をたくさん書きながら、
「これはお父さん、これはお母さん、これが〇〇お兄ちゃんでこれが・・・」
と家族全員を描き終え、楽しそうに踊り出しました。
その絵はただの丸なのに、見ているとなぜか心が軽くなります。
「ドアの外の人達も、みんな楽しいことをすれば、心が軽くなるのにね」
兄弟たちははっとし、お母さんとお父さんは顔を見合わせ、微笑み合いました。
「ようやく真理に辿り着いたな。」
お父さんが言いました。
葡萄の家族は、これまでドアの外の世界の人も葡萄の国の人も誰も気が付かなかったことに、一番無邪気な末っ子が気が付いたことに驚き喜びました。
みんなが自分を楽しくすれば、他の人のものが欲しくなることもなくなり、争いもなくなるのだと。
でも、ドアの外の国の人達は、まだまだ上手く楽しむことができなくて、何が楽しいか分からない人が大勢いたので、何人かの兄弟は、六男を助けるためにドアの外に一緒に行くことにしました。
他の兄弟とお父さん、お母さんは葡萄の国に残り、ドアの外に行った兄弟たちを見守っています。
そして、ときどきアドバイスを送ったり、こっそり葡萄のしずくを届けたりしてサポートしています。
世界の隅々にまで“楽しい”が広がるまでには、まだ少し時間がかかりそうですが、六男君の楽しいがだんだん広がって大きな丸が出来る日が、結構近くに来てるのかもしれませんね。
ここはいつでも、いつまでも平和
それは、お父さんの葡萄の木の愛が国中に行き渡り、お母さんの葡萄の軸がいつでも子の葡萄の実を守っているから
葡萄の国にはドアがあります。
子どもたちはそのドアを決して開けてはいけないとお父さんとお母さんに言われていました。
でも、好奇心旺盛な長男は、ある日、どうしても我慢できなくなって、とうとうそのドアを開けてしまいました。
ドアの向こうには、泣き叫ぶ子供、気の遠くなるような爆音、逃げ惑う人々が見えました。
「これは何? 今まで見たことがない景色」
「ああ、とうとう開けてしまったのね。」
お母さんは嘆き、お父さんは怒りました。
「ねえ、困っている人がたくさんいるよ。どうして助けないの」
「これまで沢山の仲間が行って、そしてみんな傷ついて帰ってきた。我々はもう誰も傷つけたくないとこのドアを閉め、決して開かないように呪文をかけたのだ」
「でも、僕は開けられた」
「時が来たのだろう。『天に選ばれた者が現れた時、この扉は開くだろう』、最後に扉を閉めた時に扉がそう言った。だか、私はお前を行かせたくない。この場所は何にも侵されない強力な結界がはってある。ここは永遠に平和で喜びに溢れた安全な場所だ。だが、お前が行くと言えば誰もそれを止めることはできない。選ぶのはお前だ」
「僕は行くよ」
長男はそう言うと扉の外へと出て行った。
長男は戦った。正義が勝って悪が滅びるのだと信じて。勝利がすべてをもたらしてくれると。
必死で戦って、勝利を収めた。
でも、戦いは新たな戦いを生み、喜びの裏側に悲しみがあることを知ると、長男は絶望を抱え、葡萄の国へ帰ってきた。
葡萄の家族は喜んで長男を迎え入れた。
ここでは心の傷も体の傷もすぐに葡萄のしずくで治してもらえる。
「扉の向こうでは、心の傷も体の傷も治るのにとても時間がかかるんだ。それにどうしても治らない病気やケガもある」
「よし、僕が向こうへ行ってみんなの病気やけがを治してくるよ」
葡萄のしずくの使い方が上手な次男が言いました。
「ああ、可愛い息子よ、扉の向こうにはここにあるような葡萄のしずくはないのよ」
お母さんは行ってほしくないと嘆いた。
「それでも僕は行くよ。向こうにも病気を治せる何かがあるはずだ。それを探してみんなの心と体を元気にすれば争いもなくなるはずだから」
そして、次男は扉の向こうへ行き、新しい薬を作り、たくさんの人の病気やけがを治し、たくさん感謝された。
でも、どんな薬でも治らない病気は無くすことはできず、恨まれることさえもあった。
それでも次男は、新しい薬や新しい方法をたくさん考え、たくさんの人を助けたけれど、とうとう時間切れになって葡萄の国へ帰らなければならなかった。
やり切った達成感もあったけど、救えなかったことへの無力感も大きかった。でも、ここではそんな心の傷も葡萄のしずくがすぐに癒してくれる。
「ドアの向こうの人も、この国のことを知れば、心が病むこともなくなって、病気になることもなくなって、不安が消えて争いもなくなるんじゃないかな」
次男の悲しそうな声を聞いて三男は
「じゃあ、今度は僕がそれをみんなに教えに行くよ」
「それは素晴らしいことだが、とても難しいことだよ。ドアの向こうからはこの国は見えないし、私たちの声も聞こえない。それをドアの外の言葉だけで伝えるのは想像を超える困難が待っているんだ」
「それでも行かなくちゃ」
三男はたくさんの人々に葡萄の国のことを教え、平和の素晴らしさを教えていった。
でも、三男ひとりでは世界中の人に伝えるには時間が少なく、力の限り叫んでも、世界の隅々まで声を届けるにはまだまだ声が小さかった。
だから、伝えた人にまた伝えてくれ、そして君が伝えた人に、ほかの人にも伝えてくれるように頼んでほしいと頼んだ。
でも、人から人へ伝えるうちにだんだん意味が伝わらなくなっていった。
そして、最後には嘘つきと言われ扉の向こうへ追い返されてしまった。
「お帰り」
「ただいま」
葡萄の家族に迎えられ、三男は元気を取り戻した。
「もっともっと僕の声でみんなに伝えたかったけど、扉の向こうの世界は広くて、せいいっぱい叫んでも世界中には聞こえなかった。もっと大きな声が出せるようになったら、世界中に僕の声を届けられたのかな」
それを聞いて歌の得意な四男が
「じゃあ、僕の歌でみんなに伝えよう」
と言いました。
それは、今まで誰もやったことがないことだったので、誰も想像がつきませんでした。
でも、誰も試したことがないからこそ、今度こそうまくいくかも。葡萄の国のみんなの期待が集まります。
四男は歌いました。心を込めて。世界の隅々まで届くようにと。
その歌はたくさんの人の心に響き、世界中に広がりました。
でも、その歌声も打ち消すほどの爆撃の音が止まない場所がありました。
そして、また四男も時間切れで帰ってきました。
「人は、なぜ戦うんだろう? 戦いのない世界のほうが幸せなはずなのに」
四男の疑問は、葡萄の国のみんなが持っている疑問でした。
兄弟たちは、その答えを探そう!とドアの向こうをようく観察していました。
そこには、お金がなくて食べ物が買えず、苦しんでいる人々がいました。
「そうか、お金があれば食べ物や着るものが買えて、みんなが幸せになれるんだ」
今度は五男が言いました。
「今度は僕が行って、たくさん働いてお金を稼ぐ。そして、お金がない人をなくすんだ」
五男はドアの向こうへ行くと、必死で働いた。お金がみんなを幸せにすると信じて。
そして、だんだん世界にお金が回るようになり、たくさんお金を持てる人々が増え、世界は豊かになっていった。
でも、そうなった時、人々はお金で買える幸せではなく、お金そのものを追いかけるようになった。
“お金のある人が幸せでお金ない人が不幸せ”と思われるようになり、お金を求めて新しい争いが起きた。
五男の思いも、やはりドアの外の世界全部には届かず、お金で幸せが買えない人をなくすこともかなわないまま、五男も葡萄の国へ帰る時間がきた。
「世界を幸せにできて、争いをなくすことができるのは、お金じゃなかったよ。僕のやったことは間違ってたの?」
「とても大切なことに気づいたわね。その気づきのためにあたながやったことは、素晴らしいことよ」
葡萄のお母さんがやさしく言いました。
「でも、今度はどうしたらいいんだろう?」
五男の嘆きに、兄弟たちもお父さんもお母さんも返す言葉がありませんでした。
すると、一番無邪気な末っ子の六男が言いました。
「なんか、面白そうだね。僕も行ってみたい」
「何を言ってるんだ。ドアの向こうはとても危険なんだ。遊びに行くなんてとんでもない」
兄さんたちは必至で止めたけど、六男の好奇心は止められずとうとう行ってしまいました。
「ああ、行ってしまったわ。しっかり者の兄さんたちがこんなに傷ついて帰ってきたのに。あの子にはとうてい無理だわ」
お母さんは嘆きました。
「見守るしかないだろう」
お父さんも絶望の中、言いました。
まだ幼く、遊ぶことしか知らない六男は、ドアの向こうでもずうっと遊んでいました。
そして、ある時代では“問題児”と呼ばれ嫌われ、ある場所では“異端児”と呼ばれ、疎まれました。
でも、無邪気な六男は周りの声なんて気になりません。それよりも遊ぶのが楽しくて。
そうして、遊んでいるうちに世界は少しずつ変わりはじめ、六男は今、一部の人たちから“天才”と呼ばれるようになりました。
ドアの開け閉めも前よりも楽になり、決められた時間が来ないと帰れなくて、一度帰ると戻ってこれなかった葡萄の国にも、少しずつ行ったり来たりができるようになりました。
そして、今日も葡萄の国に遊びに帰ると、お父さんが言いました。
「頑張っているようだな」
「僕はただ遊んでいるだけだよ。でも不思議だね。同じことをしてるだけなのに、時代や場所が変わると周りの人の言うことが変わるんだ。学校では怒られたし、ある時代では馬鹿にされた。でも、今、仲のいい人たちは天才って言ってくれるの。僕はずうっと遊んでるだけなのにね」
「何をして遊んでるんだい?」
長男が聞きました。
「絵を描いてるよ」
「どんな絵?」
次男が聞きました。
「みんなを描いてるんだ」
と言って、六男が葡萄の国の空に絵を描き始めました。
それは、ただの丸でした。丸をたくさん書きながら、
「これはお父さん、これはお母さん、これが〇〇お兄ちゃんでこれが・・・」
と家族全員を描き終え、楽しそうに踊り出しました。
その絵はただの丸なのに、見ているとなぜか心が軽くなります。
「ドアの外の人達も、みんな楽しいことをすれば、心が軽くなるのにね」
兄弟たちははっとし、お母さんとお父さんは顔を見合わせ、微笑み合いました。
「ようやく真理に辿り着いたな。」
お父さんが言いました。
葡萄の家族は、これまでドアの外の世界の人も葡萄の国の人も誰も気が付かなかったことに、一番無邪気な末っ子が気が付いたことに驚き喜びました。
みんなが自分を楽しくすれば、他の人のものが欲しくなることもなくなり、争いもなくなるのだと。
でも、ドアの外の国の人達は、まだまだ上手く楽しむことができなくて、何が楽しいか分からない人が大勢いたので、何人かの兄弟は、六男を助けるためにドアの外に一緒に行くことにしました。
他の兄弟とお父さん、お母さんは葡萄の国に残り、ドアの外に行った兄弟たちを見守っています。
そして、ときどきアドバイスを送ったり、こっそり葡萄のしずくを届けたりしてサポートしています。
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