葡萄の国から

一郎丸ゆう子

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6話 六男は楽しむ

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まだ幼く、遊ぶことしか知らない六男は、ドアの向こうでもずうっと遊んでいました。


そして、ある時代では“問題児”と呼ばれ嫌われ、ある場所では“異端児”と呼ばれ、疎まれました。


でも、無邪気な六男は周りの声なんて気になりません。それよりも遊ぶのが楽しくて。



そうして、遊んでいるうちに世界は少しずつ変わりはじめ、六男は今、一部の人たちから“天才”と呼ばれるようになりました。


ドアの開け閉めも前よりも楽になり、決められた時間が来ないと帰れなくて、一度帰ると戻ってこれなかった葡萄の国にも、少しずつ行ったり来たりができるようになりました。


そして、今日も葡萄の国に遊びに帰ると、お父さんが言いました。


「頑張っているようだな」


「僕はただ遊んでいるだけだよ。でも不思議だね。同じことをしてるだけなのに、時代や場所が変わると周りの人の言うことが変わるんだ。学校では怒られたし、ある時代では馬鹿にされた。でも、今、仲のいい人たちは天才って言ってくれるの。僕はずうっと遊んでるだけなのにね」


「何をして遊んでるんだい?」


長男が聞きました。


「絵を描いてるよ」


「どんな絵?」


次男が聞きました。


「みんなを描いてるんだ」


と言って、六男が葡萄の国の空に絵を描き始めました。


それは、ただの丸でした。丸をたくさん書きながら、


「これはお父さん、これはお母さん、これが〇〇お兄ちゃんでこれが・・・」


と家族全員を描き終え、楽しそうに踊り出しました。



その絵はただの丸なのに、見ているとなぜか心が軽くなります。


「ドアの外の人達も、みんな楽しいことをすれば、心が軽くなるのにね」


兄弟たちははっとし、お母さんとお父さんは顔を見合わせ、微笑み合いました。


「ようやく真理に辿り着いたな。」


お父さんが言いました。


葡萄の家族は、これまでドアの外の世界の人も葡萄の国の人も誰も気が付かなかったことに、一番無邪気な末っ子が気が付いたことに驚き喜びました。


みんなが自分を楽しくすれば、他の人のものが欲しくなることもなくなり、争いもなくなるのだと。



でも、ドアの外の国の人達は、まだまだ上手く楽しむことができなくて、何が楽しいか分からない人が大勢いたので、何人かの兄弟は、六男を助けるためにドアの外に一緒に行くことにしました。


他の兄弟とお父さん、お母さんは葡萄の国に残り、ドアの外に行った兄弟たちを見守っています。


そして、ときどきアドバイスを送ったり、こっそり葡萄のしずくを届けたりしてサポートしています。




世界の隅々にまで“楽しい”が広がるまでには、まだ少し時間がかかりそうですが、六男君の楽しいがだんだん広がって大きな丸が出来る日が、結構近くに来てるのかもしれませんね。

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