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第1章

第1話 大統領は風俗嬢

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 これは、今の地球に似ている地球という別の星の、今の日本に似ている日本という別の国のお話です。(ちょっと無理やりですが、日本のパラレルワールドだと思ってくださいね)

 私はこの国の大統領、そして、なんと、元風俗嬢。


 この国では風俗嬢は国家公務員なの。ただの国家公務員じゃなくて特別国家公務員。だから待遇も超特別な超好待遇なのよ。

 なにが特別かってまず最低賃金は保証されている。しかもこの国一番の国立大学を卒業した官僚の数倍。しかも25歳まで勤めれば、一生涯年金がもらえる。それも国会議員の議員年金の〇〇倍。
 そもそもこんな高尚な職業は他にないんだから、これでも足りないくらいだよって私は思ってるよ。

 でも、これは私が大統領になってからの話だ。その前はひどかった。男に貢いで借金で首が回らなくなった女子大生を甘い言葉で口説いて働かせたり、貧乏な家の子が家族のためにと犠牲になったり、貧しい国の女の子を騙して連れてきたり。

 あげくのはてに売り上げの多くをピンハネしたり、働けなくなった子は使い捨てにされ、路頭に迷ってホームレスになったり、犯罪に走ったりね。

 この国はこの星の中でもかなり裕福なほうで、飢えてる人はほぼいない。なのに、お金のために自分を犠牲にしなきゃならない女たちが死滅しないのはなぜなんだ。

 国もこの問題を放っておいたわけではなく、特に高学歴な女性議員さんたちが国会で熱弁をふるい、法律を整備したり、意識高い系の世の女性たちがNPO法人を作ったりして、風俗撲滅運動なるものを展開した。

 その時は私も運動に参加したよ。私自身はべつにこの仕事に何の不満もなかったんだけど、やっぱ、私の周りの子たちは家族や社会の犠牲になって、嫌々やってたから、この子たちを救えるんならと燃え上がった運動に便乗させてもらったんだ。

 職業選択の自由が憲法で認められていて、福祉も充実しているはずのこの国で、そんな状況が変わらないなんておかしくないわけがないんだよね

 そのお陰で一時なくなったかに見えたこの崇高な職業だけど、学歴や経歴や職業で仮面をかぶっていても、大抵の男の頭の中は女の裸のことでいっぱいだからね。神様がつくってしまったこの愚かでスケベな男どもがいなくならない限り、この職業の死滅はほぼ不可能に近い。

 いつか必ず実現すると信じているけど、そんなものは呑気に待っていられない。それなら、いっそ、この職業の地位をこの国の最高峰に高めてやろうって決めたんだ。

 そして私は2年前、大統領選挙に立候補した。




 



 
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