上 下
2 / 37
第1章

第2話 だから私は風俗嬢になったのだ

しおりを挟む
 さっき言ったけど、2年前に大統領になるまでは私も風俗嬢だったわけ。だから毎夜毎夜可哀そうなモテない若者とか、奥さんに逃げられた中年男性とかをお慰めしてた。
 お客の中には大物政治家もいたよ。大臣とかもね。つまり、今の仕事仲間だね。職業柄と性格上、秘密は絶対守るけどね。
 
 この仕事を始めたのは、やっぱりご多聞に漏れず“家庭の事情”ってやつで、親父は酒・ギャンブル・暴力・女のダメ男条件コンプリートのクズで、母親はそんな親父に愛想つかして逃げてった。
 そんなんだから、我が家は超貧乏よね。というわけで中学を出て、年齢ごまかして風俗嬢になった。早熟だからバレなかったよ。でも、まあ、これが天職だったんだよね。

 自慢するけど、入店してすぐに人気者になったよ。また自慢するけど、容姿はまあまあだったからまあ、当然でしょって感じよ。
 でも、それだけじゃなくて、接客していくうちにコミュ力もどんどん鍛えられてくから、悩める男子はハートがキュンキュンしちゃうし、知識も自然についてって、お偉いさんの頭脳にもマッチングできるようになって、リピーター大量ゲット!
 で、あっというまにナンバー1よ。

 私には可愛い弟がいるんだけど、これがなんで我が家に生まれて来たんだか不思議な優等生でね、中学までずうっと学年一番、生徒会長までやる優等生。
 そんな弟だから傷物にするわけにはいかないって、お姉ちゃんがこんな仕事してることも、お姉ちゃんがいることも内緒にするように言ったんだ。でも

 『お姉ちゃんは悪いことしてるわけじゃない。だから、堂々として。僕らのために犠牲になっちゃってごめんね。僕が頑張ってお姉ちゃんを守れるようになるから待ってて』

 なんて言うんだ。天使かよ!
 本当になんであんな親から生まれて、あんな環境で育って、こんなふうになるなんて、もう、神だね。私は天職に出会って幸せだから、犠牲だなんて思わなくていいのにね。泣けてくるわ。

 よっしゃ、この子を国立のトップの大学に入れるぞ。この弟なら末は国のトップも夢じゃないよ。

 こんな優秀な弟だから奨学金で大学は出れると思うけど、うちにはバカ親父が作ったすごい額の借金があってね。この天使にバカ親父の借金背負わせるわけにはいかないよ。 

 さっさと稼いで、ちゃっちゃっと返して、この子のために家買って車買って、いいお嫁さんを見つけて、あっ、その前にあの親父と縁を切りたい。

 ああ、戸籍から親を抜くってできないのかな。私はいいけど、弟の将来のために害悪でしかないからね。できたら早く〇んでほしいけど、そういうのに限ってしぶといんだよね。


 
 

 
しおりを挟む

処理中です...