冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜

拝詩ルルー

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第一章 冒険者から神官へ

sideアイアン・ケルベロス(アンガス視点)

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 今日はブラックホーンディアの討伐依頼の日だ。

──だが、早くも問題発生だ。

「おい、合同なんて聞いてねぇぞ!」

 アイアン・ケルベロス単独で討伐するからこそ、名声が上がるんじゃねぇか。これじゃあ、討伐できるのが当たり前で、インパクトが足んねぇ。

「群れの中に変異種が見つかったのよ。だから、合同になったの。ギルドで説明を聞いてなかったの?」

 Aランク冒険者パーティー「ミカヅキ」のリーダー、リリカが言った。
 剣の腕前は噂によく聞くが、ずいぶんと気が強そうだ。言い方も癪に触る奴だ。

「北部の魔物の大移動に押されて、かなりの数がこの地になだれ込んできているらしい。単独パーティーでの討伐は厳しいだろう」

 Bランク冒険者パーティー「フォグ・ゴースト」の陰険そうな魔術師も言った。こいつについてはよく知らねぇ。

 とにかく、どっちも王都近郊で活動してる奴らだ。

「ふんっ。足引っ張んじゃねぇぞ」

 ギルドが決めたんじゃ、今さら何言っても無駄か。
 俺はローラとコーディを連れて、さっさと森の中へ入った。

「あんたたちもね……」

 リリカが後ろで何か言ってたが、構わず俺たちは先に進んだ。

 せめて、俺たちアイアン・ケルベロスが一番活躍してやる……!!


***


 森の中を進んでいくと、依頼票に記されていたポイントにたどり着いた。
 崖下にたむろしてるブラックホーンディアは、十頭近くいた。

「……結構、いるわね」

 ローラが身を屈めて崖下を覗くと、呟いた。

「他のパーティーを待ってからの方がいいな」

 コーディが日和ったことをぬかした。

「いや、行くぞ」
「「えっ!?」」

 ローラとコーディが驚いた声を上げた。うるっせぇな、魔物にバレるだろ。

「言ったろ。今回の依頼でアイアン・ケルベロスの名を上げるんだと。あんな奴らを待ってたら、手柄を掻っ攫われるぞ」

 ブラックホーンディアはBランク魔物だ。アイアン・ケルベロスでも何度も討伐したことがある。今回は、少しだけ頭数が多いだけだ。

 俺が目線で合図を送ると、ローラとコーディは渋々、配置についた。

 まずはコーディの氷魔術で、群れの端の方から不意打ちを仕掛ける。

 群れが混乱している隙に、俺とローラでどんどん仕留めていく。

 最初の三頭を仕留めた時、ヴォオォォッ……と、ブラックホーンディアが叫び声を上げた。

「黙りやがれ!!」

 俺は近くにいた一頭に斬りかかった。その時——

「ヴオォオオォッ!!!」

 金ピカの角をした巨大なブラックホーンディアが、森の奥から猛然と突っ込んで来た。

「きゃあっ!!」

 ローラが跳ね飛ばされて、近くの木にドカッと激突した。そのままくったりと動かなくなってしまった。

「ローラ!? アイスランス!!」

 コーディが金ピカ角のブラックホーンディアを狙うが、氷の槍は、スルリとかわされてしまった。

「おいっ! どこ狙ってやがるんだ!!」

 ローラに当たったらどうするつもりだ!?

「くっ、このままでは……ウィンドブラス……ぐわぁ!?」

 コーディが、魔術を暴発させやがった! 最近はコントロールや威力が落ちてるとは思ってたが、まさか暴発させるとは!!

 不完全なウィンドブラストは、コーディの近くで吹き荒れていた。コーディ自身も、自分の身を守るように地面に伏せっていた。

 俺がコーディの方に気を取られていると、

「ギャァッ!!」

 金ピカの角が、俺の腕を突き刺した。
 ブラックホーンディアがそのまま頭をブンッと持ち上げたのか、俺は中空に投げ出された。

 変な話だが、俺を放り投げたブラックホーンディアが、眼下で次の標的に向かって走り出して行くのが、やけにゆっくりと見えた。

 ドサッ!!

「ウガァッ!!」

 俺は地面にしこたま叩き付けられた。身体中があちこち痛い……

「大丈夫か!?」
「変異種がいるぞ!」
「まずは救助より討伐だ! 数が多い!!」

 薄っすらと、別パーティーの奴らの声が聞こえてきた。

 視界がどんどん暗くなって、俺の意識はここでプツリと途切れた。


***


 依頼の討伐自体は、完了した。

 変異種のブラックホーンディアを仕留めて大金星を上げたのは、フォグ・ゴーストの名前も知らねぇ奴だった。

 アイアン・ケルベロスのメンバーは全員、後から来たミカヅキとフォグ・ゴーストのメンバーに助けられた。

 アイアン・ケルベロスは、参加料の他、最初に討伐したブラックホーンディア三体分の報酬を貰った。


──だが、報酬に比べて、被害の方が酷かった。

 コーディは、もう冒険者への復帰は難しいだろう。
 魔術を暴発させたからか、もう攻撃魔術を放つのが怖くなっちまったらしい。
 攻撃魔術を放とうとすると、手が震えるとかで、まともに狙えないそうだ。

 これからは実家に戻って農業を継ぐとか言ってたな……


 ローラは報酬を受け取った後は、いつの間にか消えていた。俺に何も言わずに勝手にな。

 ローラは故郷の村が一緒だった。
 笑顔が明るくて可愛くて、ずっと好きで、ローラがノアに惹かれてるのがやけに気に食わなかった。まぁ、ローラ本人は、ノアを好きだってことに気づいてなかったみたいだが。

 ノアを追い出して、やっと俺に目を向けてくれるかと期待したが……

 まさか、ここで俺を置いていくのか? なんて薄情な女なんだ!

 ローラを最後に見た奴に聞いたら、王都に行くとか何とか言ってたな……


 俺は……討伐の次に目を覚ました時には、剣士としては致命的な、利き腕を失っていた。

「ごめんなさいね。うちのパーティーもフォグ・ゴーストも治癒師がいなくて……魔物を討伐して、やっと救助して近くの村まで運んだんだけど、手遅れだったみたいなの……」

 気の強いリリカが、やけにしんみりと伝えてきた。

「すまない。俺たちも最善は尽くしたんだが……」

 フォグ・ゴーストの陰険そうな魔術師も悔しそうに言ってきやがった。

──この時、アイアン・ケルベロスは実質的に解散した。


 しばらくは何もやる気が起きなかった。

 まさか、パーティーに治癒師がいなかったから間に合わなかったなんてな。
 ノアを追い出した罰が当たったとしか思えねぇ……

 元の拠点の街に戻るのも面倒くせぇし、討伐の報奨金で昼間から酒場に入り浸っていた。

「王都の教会に、欠損も治せる聖者様があらわれたんだってよ」
「なんでも、怪我をあっちゅう間に治しちまうらしいな」

 隣の席から、呑んだくれの噂話が聞こえてきた。

「おい。その話、もっと聞かせてくれねぇか?」

 俺は自分の席から立つと、そいつらのテーブルに向かった。

「ああん? てめぇは……?」
「一杯奢ってくれるなら、構わねぇぜ」
「ああ、いいぜ」

 赤ら顔の酔っ払いどもは、安酒一杯で、気分良くいろいろ話してくれた。


 王都の教会か──そこに行けば、俺もまた冒険者をやれるかもしれないな。


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