24 / 39
4信念
巨大蜘蛛の襲撃
しおりを挟む
「戦えない人間は皆私の屋敷へと避難しなさい! 避難経路は訓練通り! 自警団はただちに北の防壁へと急行!!」
突き出した巨大蜘蛛の足はけれどそこまでが限界だったらしい。それ以上内部に足を踏み入れることも引き抜いて後ろに下がることも出来ずにもがいている。しかしそれもいつまで持つのかはわからない。現にもがく度に壁は不穏な音を立てて軋み、がりがりと削られた岩の欠片が地面へと落ちていた。
そして更に恐ろしいのはその巨大蜘蛛の子どもか子分と思しき小さな蜘蛛が亀裂や壁の上からかなりの数這いだしてきたことだった。小さいと言っても親蜘蛛に比べたら、という話であって一番小さな個体でも成人男性ほどの大きさがある。
明らかにそれは普通の蜘蛛ではなく、魔物と呼ばれる者達であった。
自警団の面々が防具と武器を手に駆けつける。彼らも伊達に魔王に備えていたわけではない。統率の取れた動きで蜘蛛1に対し人間4ほどの割合で相手取り少しずつだが着実に仕留めていた。
(けど……)
数が減っているとはお世辞にも言いがたい。倒すのよりも早く、多くの子蜘蛛が次々と壁の内部へとなだれ込んで来ていた。
しかしそこに救世主が現われた。彼らは管楽器の音も高らかに騎馬に乗って姿を現すと次々と子蜘蛛を討伐していく。
「おおっ」
「街に入り込まないように隊列を横に組みなさい! 無力な民を傷つけることは私が許さないわ!」
彼らは王国近衛兵達であった。ミリディアの指揮の下救助に現われたのだ。押されていたのが何とか持ち直し、しかしそれはなんとか均衡が保たれただけであった。倒すのと同じ分だけ続々と供給が来る。
(門の閉鎖を……)
押し返すことが出来ない状況に、なんとか抑えられている今のうちに新しく壁を築こうかどうかを検討する。拮抗しているということは体力面と供給の関係上今後長引けば長引くだけ押し切られることを意味していた。外部からの侵入に備え、一応高台に沿う形で二重三重に防護壁は存在している。通常は出入りのために4カ所に開いている鉄の城門を閉めてしまえば一番外側に比べて高地に位置し、壁周りに堀も掘ってある内部のほうが侵入は防げるはずだった。
(それにそこまで撤退すれば大砲が使える)
内側の防護壁の上には砲台が設置されていた。しかしそれを使用するということは外側に位置する家や農地、家畜などの損害を意味する。けれどこの状況ではそれもやむを得ないだろう。
素早く決断を下したほうが被害は少なく済むはずだ。幸いなことに外周の避難は速やかに行われて少なくとも現状では人的被害はでていない。今のうちに撤退を命じるべきだ。
そう決断を下そうとした時、何かがジュリアの横を通り過ぎた。その勢いで巻き起こった風圧に思わず目を細めて顔を庇う。
その黒い風は真っ直ぐに壁の上へと子蜘蛛たちを蹴散らし足場にしながら駆け上がった。周囲から驚きと喜びの声があがる。そのままの勢いと力強さでそれは親蜘蛛へと到達し、その頭部と胸部の接合部の鎧のように固い殻の丁度隙間へと剣を突き刺した。
甲高い金属音のような悲鳴を上げて親蜘蛛がその巨体を揺すりながら身もだえる。
「すまない、駆けつけるのが遅くなった」
そう呟くように告げるのと同時に鋭く剣が横に振るわれる。その一閃で呆気なく親蜘蛛の首ははね飛ばされた。そして彼はひょいっと壁の向こう側を覗き込むと全貌を見て取ったのだろう。一瞬何かに納得するように頷くとこちらを振り返った。
「親蜘蛛は死んだ。どうやら外に残っているのは子蜘蛛だけのようだ。その数も残り少ない。外は担当するから皆は中に侵入した蜘蛛の討伐を続けて欲しい」
黒い髪が風になびき、透き通った翡翠の瞳が日の光を受けて輝いた。
英雄ルディ・レナードの登場に、周囲が沸き立ち士気を取り戻した。
突き出した巨大蜘蛛の足はけれどそこまでが限界だったらしい。それ以上内部に足を踏み入れることも引き抜いて後ろに下がることも出来ずにもがいている。しかしそれもいつまで持つのかはわからない。現にもがく度に壁は不穏な音を立てて軋み、がりがりと削られた岩の欠片が地面へと落ちていた。
そして更に恐ろしいのはその巨大蜘蛛の子どもか子分と思しき小さな蜘蛛が亀裂や壁の上からかなりの数這いだしてきたことだった。小さいと言っても親蜘蛛に比べたら、という話であって一番小さな個体でも成人男性ほどの大きさがある。
明らかにそれは普通の蜘蛛ではなく、魔物と呼ばれる者達であった。
自警団の面々が防具と武器を手に駆けつける。彼らも伊達に魔王に備えていたわけではない。統率の取れた動きで蜘蛛1に対し人間4ほどの割合で相手取り少しずつだが着実に仕留めていた。
(けど……)
数が減っているとはお世辞にも言いがたい。倒すのよりも早く、多くの子蜘蛛が次々と壁の内部へとなだれ込んで来ていた。
しかしそこに救世主が現われた。彼らは管楽器の音も高らかに騎馬に乗って姿を現すと次々と子蜘蛛を討伐していく。
「おおっ」
「街に入り込まないように隊列を横に組みなさい! 無力な民を傷つけることは私が許さないわ!」
彼らは王国近衛兵達であった。ミリディアの指揮の下救助に現われたのだ。押されていたのが何とか持ち直し、しかしそれはなんとか均衡が保たれただけであった。倒すのと同じ分だけ続々と供給が来る。
(門の閉鎖を……)
押し返すことが出来ない状況に、なんとか抑えられている今のうちに新しく壁を築こうかどうかを検討する。拮抗しているということは体力面と供給の関係上今後長引けば長引くだけ押し切られることを意味していた。外部からの侵入に備え、一応高台に沿う形で二重三重に防護壁は存在している。通常は出入りのために4カ所に開いている鉄の城門を閉めてしまえば一番外側に比べて高地に位置し、壁周りに堀も掘ってある内部のほうが侵入は防げるはずだった。
(それにそこまで撤退すれば大砲が使える)
内側の防護壁の上には砲台が設置されていた。しかしそれを使用するということは外側に位置する家や農地、家畜などの損害を意味する。けれどこの状況ではそれもやむを得ないだろう。
素早く決断を下したほうが被害は少なく済むはずだ。幸いなことに外周の避難は速やかに行われて少なくとも現状では人的被害はでていない。今のうちに撤退を命じるべきだ。
そう決断を下そうとした時、何かがジュリアの横を通り過ぎた。その勢いで巻き起こった風圧に思わず目を細めて顔を庇う。
その黒い風は真っ直ぐに壁の上へと子蜘蛛たちを蹴散らし足場にしながら駆け上がった。周囲から驚きと喜びの声があがる。そのままの勢いと力強さでそれは親蜘蛛へと到達し、その頭部と胸部の接合部の鎧のように固い殻の丁度隙間へと剣を突き刺した。
甲高い金属音のような悲鳴を上げて親蜘蛛がその巨体を揺すりながら身もだえる。
「すまない、駆けつけるのが遅くなった」
そう呟くように告げるのと同時に鋭く剣が横に振るわれる。その一閃で呆気なく親蜘蛛の首ははね飛ばされた。そして彼はひょいっと壁の向こう側を覗き込むと全貌を見て取ったのだろう。一瞬何かに納得するように頷くとこちらを振り返った。
「親蜘蛛は死んだ。どうやら外に残っているのは子蜘蛛だけのようだ。その数も残り少ない。外は担当するから皆は中に侵入した蜘蛛の討伐を続けて欲しい」
黒い髪が風になびき、透き通った翡翠の瞳が日の光を受けて輝いた。
英雄ルディ・レナードの登場に、周囲が沸き立ち士気を取り戻した。
21
あなたにおすすめの小説
平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
美並ナナ
恋愛
類稀なる美貌を誇る子爵令嬢シェイラは、
社交界デビューとなる15歳のデビュタントで
公爵令息のギルバートに見初められ、
彼の婚約者となる。
下級貴族である子爵家の令嬢と
上級貴族の中でも位の高い公爵家との婚約は、
異例の玉の輿を将来約束された意味を持つ。
そんな多くの女性が羨む婚約から2年が経ったある日、
シェイラはギルバートが他の令嬢と
熱い抱擁と口づけを交わしている場面を目撃。
その場で婚約破棄を告げられる。
その美貌を翳らせて、悲しみに暮れるシェイラ。
だが、その心の内は歓喜に沸いていた。
身の丈に合った平穏な暮らしを望むシェイラは
この婚約を破棄したいとずっと願っていたのだ。
ようやくこの時が来たと内心喜ぶシェイラだったが、
その時予想外の人物が現れる。
なぜか王太子フェリクスが颯爽と姿を現し、
後で揉めないように王族である自分が
この婚約破棄の証人になると笑顔で宣言したのだ。
しかもその日以降、
フェリクスはなにかとシェイラに構ってくるように。
公爵子息以上に高貴な身分である王太子とは
絶対に関わり合いになりたくないシェイラは
策を打つことにして――?
※設定がゆるい部分もあると思いますので、気楽にお読み頂ければ幸いです。
※本作品は、エブリスタ様・小説家になろう様でも掲載しています。
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~
吉高 花
恋愛
魔力があった、ただそれだけの理由で王女なのに捨て子として育ったマルガレーテは、隣国との政略結婚のためだけにある日突然王女として引っぱりだされ、そして追放同然に邪悪な国と恐れられるルトリアへと送られた。
そしてルトリアでの魔力判定により、初めて自分が白の魔力を持つ者と知る。しかし白の魔力を持つ者は、ルトリアではもれなく短命となる運命だった。
これでは妃なんぞには出来ぬとまたもや辺鄙な離宮に追放されてしまったマルガレーテ。
しかし彼女はその地で偶然に病床の王妃を救い、そして流れ着いたワンコにも慕われて、生まれて初めて自分が幸せでいられる居場所を得る。
もうこのまま幸せにここでのんびり余生を送りたい。そう思っていたマルガレーテは、しかし愛するワンコが実は自分の婚約者である王子だったと知ったとき、彼を救うために、命を賭けて自分の「レイテの魔女」としての希有な能力を使うことを決めたのだった。
不幸な生い立ちと境遇だった王女が追放先でひたすら周りに愛され、可愛がられ、大切な人たちを救ったり救われたりしながら幸せになるお話。
このお話は「独身主義の魔女ですが、ワンコな公爵様がなぜか離してくれません」のスピンオフとなりますが、この話だけでも読めるようになっています。
【完結】恋多き悪女(と勘違いされている私)は、強面騎士団長に恋愛指南を懇願される
かほなみり
恋愛
「婚約したんだ」ある日、ずっと好きだった幼馴染が幸せそうに言うのを聞いたアレックス。相手は、背が高くてきつい顔立ちのアレックスとは正反対の、小さくてお人形のようなご令嬢だった。失恋して落ち込む彼女に、実家へ帰省していた「恋多き悪女」として社交界に名を馳せた叔母から、王都での社交に参加して新たな恋を探せばいいと提案される。「あなたが、男を唆す恋多き悪女か」なぜか叔母と間違われたアレックスは、偶然出会った大きな男に恋愛指南を乞われ、指導することに。「待って、私は恋愛初心者よ!?」恋を探しに来たはずなのに、なぜか年上の騎士団長へ恋愛指南をする羽目になった高身長のヒロイン、アレックスと、結婚をせかされつつも、女性とうまくいかないことを気にしている強面騎士団長、エイデンの、すれ違い恋愛物語。
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる